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うちの聖女様は怒らせたらマジでヤバイ  作者: うる浬 るに
聖母は延命を望まない「カッサ王国編」
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04 トバイアス王子

「トバイアス殿下……思った通り、あたくしの胸には腫瘍ができておりました。親子だから体質が似てしまったのか、リンダも同じ症状ですわ」

「腫瘍だと?」


「ええ、ですから余生はゼ・ムルブ聖国で療養することにいたしましたの。そのことは、こちらにいらっしゃる聖女ルル様にもご承諾いただいております」

「聖母たちは不治の病を患っているというのか?」


 聖母から、突然ルル様に引き合わされた、カッサ王国第二王子のトバイアスは、困惑した様子で話を聞いていた。


「わたくしが診察させていただきましたところ、聖母様のお話に間違いございません。そのため、お二人は医療体制が整っているゼ・ムルブ聖国で過ごされたいそうです」


 王宮で第一王子派に会ってしまったら怖いと言う聖母の希望で、第二王子派の一員である、侯爵の屋敷の一室を借りての面談となった。

 今は、ルル様が二人のことを説明しているところだ。


 トバイアス王子は背が高くてがっちりしているので、立ち上がると威圧感がある。それでも顔は甘いマスクと言われる部類だから、第一印象は、優しげで包容力がありそうな王子、といったところか。

 実際、話を聞きながらつらそうに顔を歪めているから、聖母親子に対して心を砕いていることは見て取れた。


「なんてことだ……二人の調子の悪さは毒を盛られているからではなかったのか。解毒さえできればすぐによくなると思っていたのだが」

「毒? あたくしたちがですか?」


「ああ、私も似た症状が出たことがあったから、脅しのために、ジュリアスが誰かにやらせたのではないかと疑っていた。そなたたちを怯えさせないためにそのことは秘かに調べていたが、不調の原因がまさか腫瘍とは……いや、もしかしたら毒もその一因なのかもしれないな」


 弟に毒を盛る兄!? 第一王子のジュリアス、怖すぎ。

 それを聞いた聖母たちも、自分たちの知らぬところで起きていた悪意の恐ろしさで、顔が青ざめている。


「そ、そうだとしても、もう心配はございません。あたくしたちは、聖女様たちと一緒にゼ・ムルブ聖国へ向かうことにいたしましたから。トバイアス殿下には、今までお力添えいただきまして、とても感謝しておりますわ」

「ありがとうございました」


「やはりリンダも行ってしまうのか?」

「はい。私もゼ・ムルブ聖国で身体を労わりながら、静かに過ごしたいと思っています」

「そうか……病気となれば無理は言えないな……」


 毒を盛られるようなところにいたら、本当に病気になってしまう。命取りになる前に、二人はここから早く逃げ出した方が身のためだろう。

 たとえそれが、好きな人と離れ離れになることだとしてもだ。


「申し訳ございません」

「私が引き留めるわけにもいかぬからな。こうなってしまったことは残念だが、二人とも身体をいとえよ」

「はい、トバイアス殿下もお幸せに」

「ああ……」


 もう少し揉めるかと思っていたけど、トバイアス王子はあっさりとリンダの望みを受け入れた。

 実の兄と王位争いをしているそうだから、恋は二の次なのだろうか。単純にリンダの身体のことを考えて諦めたのかもしれないけど。だったら二人とも可哀想。


 なんとかならないのだろうか。


 聖母が言った通り、確かに今現在リンダたちには腫瘍ができている。


 聖女が嘘の申告をするわけにはいかないので、ルル様が能力でふたりに植え付けたものだ。

 とは言っても、イボのようなものが皮膚にできているだけらしい。もちろん良性であって不治の病ではないけど、ルル様はトバイアス王子に死に至る病だとは一言も言っていないので、虚言ではない。

 このやりとり自体は、かなりグレーゾーンだと思うけどね……。


「こんな機会は中々ないだろうから、私は聖女殿に折り入って頼みを聞いてほしいのだが、これから時間を取ってもらえないだろうか? 聖母とリンダは別室を用意させるから、話が終わるまで身体を休めておくといい」

「わたくしは構いません」


 ルル様は即座にそう返事をした。

 だったら、私はどうすればいいのだろう。判断がつかなかったから、ルル様からの指示がでるまで、そのまま待つことにした。


「王家に関することで、内密な話であるから、護衛には席を外してもらいたいのだが」

「ではそのように計らいます」


 トバイアス王子は今回の依頼主ではない。他国で、病人でも怪我人でもない男と、聖女を部屋に二人だけで残すなんて、余程の理由がない限りあり得ないんだけど、ルル様の場合は何かあっても自分で対処できるからと、私も聖騎士たちと一緒に退出させらることが多い。


「ローザ殿だけは念のため残ってくれ」


 ソファーから腰を浮かしていた私に向かって、トバイアス王子からそう声が掛かったので、私はそのままソファーに座りなおして聖母たちが部屋から出ていく姿を見送っていた。


 この王子はそういった配慮もできるらしい。


「お話とは?」


 三人になると、ルル様がさっそく切り出した。


「私はこの国をよくしたいと思っている。それには王太子に選ばれる必要があるのだ。だから聖女殿に手助けをお願いしたい」

「わたくしには人々の治療をすることしかできませんが、お役に立てることがございますでしょうか?」


「そなたには()()という名声がある。だから、是非リンダの代わりに私の隣に立ってもらえないだろうか」


 は!? これってまさかの求婚? ルル様とはさっき会ったばかりなのに?


 トバイアス王子のこの態度は、いったいどういうこと?

 リンダとダメになったからって、変わり身が早すぎだろう。


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