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うちの聖女様は怒らせたらマジでヤバイ  作者: うる浬 るに
聖女だからといって、万人が称賛するわけではないって話「シャンヒム王国編」
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15 提案

「あたしたちの話はこれで全部よ。できればお父さんの怪我を治してほしいんだけど、みんなには聖女様だと気づかれない方法でお願いしたいの」

「治療することは問題ありません。ですが少々困ったことになってしまいました」


 優しいルル様が彼女たちに同情しないわけがない。治療だって、ルル様なら何か理由をつけて父親の身体にふれさえすればいいだけなんだから。困るってなんだろう。


「それは、あたしたちの力になれないってこと?」


 モニカたちを守ることの方に問題が? 聖教会を嫌っているなら、たしかに難しいかも。


「力になりたいとは思っておりますわ。今のお話がすべて真実だったのなら、イヴさんのお父様がいわれなき暴力を受けていたことを、聖教会で調査することは可能です。現在その伯爵家に雇われている医師も同じ状況かもしれませんし。ですが、それを進めるとなれば、イヴさんのお父様も罪に問われることになってしまいます」

「どうして、お父さんは被害者じゃない」

「いいえ、どんな理由があったとしても、医師でありながら不特定多数の人間に対して薬を盛ったことは明らかに犯罪です。ですから、わたくしは伯爵家であった話は聞かなかったことにしようと思います」


 清廉潔白なルル様だからこそ、モニカから聞いた話だけで、片方を咎めて、片方を見逃すなんてことはできないのだろう。


「え、じゃあ、ここまで話したのに、あたしたちを見捨てるってこと?」

「いいえ、そのつもりもありません」

「いったいどういうこと」

「まず、お聞かせ願いたいのですが、イヴさんも偽名を使われているのでしょうか?」

「そうよ。念のためにね」

「でしたら、名前だけではなく過去をすべて捨て去る覚悟があるか、イヴさんたちにご確認いただけないでしょうか。それが出来ないとなれば、もうひとつの選択枠として、聖教会や聖女に対してのわだかまりを捨ててゼ・ムルブ聖国で暮らしていただくことになりますが、聖教会の治療院で再び医師としてお父様が従事できるようにいたします。その治療にモニカさんの水飴を使用すれば効率がいいと思いますし」

「そんな説得、あたしには無理よ……」


「今まで通りに暮らすか、新しい道を選択するかは自由です。三日後の夕方、わたくしがお店にお伺いいたしますので、短時間で申し訳ありませんが、それまでに結論をご相談ください。お父様は治療が必要だと思いますので、聖教会の手を取れないということであっても、お店にはお越しいただければと思います。もしモニカさんがどうしてもお話ししづらいということでしたら、先ほどの件は、みなさんにその場でわたくしの口から話しても構いませんわ」


 イヴの父親の件で伯爵に罰を与えることはできないけど、その気があれば仕事の斡旋はするらしい。


 実際、聖教会は医師を一人でも多く確保したがっていた。ゼ・ムルブ聖国の医療が聖女だけで回るわけがない。それに宗教国家と同じくらい医療国家として名を馳せている我が国に医師の存在は必要不可欠だ。


 だから、伯爵が言ったという聖女の言葉はあり得ない。きっと聖女を出汁にして精神的に追い詰めていただけだろう。


 モニカはまた、目に手を当てている。ルル様の提案に悩んでいるようだ。


「申し訳ありませんが、モニカさんが聖女になることを許否していて、しかも拒絶しているイヴさんたちに対して、秘密裏に伯爵家の手から守ることも、聖教会が薬屋を人知れず保護することも難しいのです。それだけはご理解ください」

「こっちも都合のいいことばかり言っているのはわかっているから……」


 そう言ってモニカは席を立った。


 ルル様のことだから、もし提案に背を向けられたとしても、きっと最低限のことはしてあげるんだと思う。


 話が終わってモニカが部屋から出ると、そこには聖騎士の四人が待機していた。だけど、彼らには結論がでるまでモニカがサリーだったことは伝えないらしい。


 モニカを見送ったあと、私は不思議に思っていることをルル様に聞いてみた。


「年相応に見られない私が言うのもなんですけど、モニカさん、十五歳にはとても見えませんね」

「あれは、たぶん副作用だと思うの。癒しの研究中に相当の量を摂取したのではないかしら。何らかの理由で彼女の身体は急成長してしまったのよ」

「そうですよね。何もないのに急激に年をとったら不自然ですもんね。そのことにイヴさんたちが気がつかないはずはないと思うんですけどね」

「どうかしらね。とりあえず、三日後に様子をみましょう。憎んでいる相手とは一切関わりたくないというのが普通なのでしょうから」

「私は何もできませんが、せめてモニカさんの気持ちと、ルル様の優しさがイヴさんたちに届くことを祈ってますよ」


 私たちが探していたモニカは単純に逃げ出しただけで、攫われたわけでも、誰かに虐げられてるわけでもなかった。


 それよりも問題が多いのはイヴ一家だ。たぶんイヴたちをそのままにして、モニカだけを連れて帰るなんて到底無理な話なんだろうな。


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