07 若手がみんなそうなら私は苦手かも
グラントとセレンは五年前『サリー行方不明事件』に関わっていたメンバー。だから顔を知っている二人が今回の任務に任命されたんだろう。
もしかしたら、自分たちの手で解決したくて、立候補したのかもしれない。聖騎士の内情は知らないから、実際にそういうことが可能なのか、私にはわらないけど。
だったら、トリスタンとライルはなんで今回ルル様の護衛任務に選ばれたんだろう?
たまたま予定が空いていただけ?
「ローザさんは僕に興味があるのかな? 君からの質問だったら、なんでも答えてあげるよ」
宿屋で部屋割りと明日のことを決めている最中に、キラッキラの笑顔を見せて私に話しかけてきたライル。私が不思議に思ってライルを観察しすぎたせいで勘違いさせたようだ。
「そんなことはありませんし、質問もありません」
「それは残念。でもそんなそっけないところもローザさんの魅力のひとつかな」
「はあ!?」
「嫌だなぁ。褒めてるのに、そんな眉間に皺なんて寄せてたら、可愛い顔が台無しだよ」
「な、な、何を」
言い出すんだこいつは!?
「あれ? やっぱり僕みたいなの苦手?」
まだ一日しかたっていないのに、私にだけに慣れ慣れしくなったのはなぜだ!? しかも一人称も私から僕に変わってるし。私はまだ見習いだけど、だからってフランク過ぎやしないか?
今まで、ルル様を含め、私が一緒にいた聖女様たちには、若い聖騎士が護衛についたことはない。
だからほとんどが親と同じくらいの年齢だった。その彼らですら、見習い聖女の私に対しても、ずっと敬語で話していて、気兼ねがなくなるまで結構時間がかかったというのに。
ルル様、助けて。この人なんか変だ。
視線で訴えたけど、私の気持ちは伝わらず、にこっとされただけで、ライルには何も言ってくれない。
なんでだーと思っていたら、セレンがこっちに振り返った。
「いい加減やめろライル。仕事中に口説くのも、聖女に手を出すのも違反だぞ」
え? 私口説かれていたの? 馬鹿にされていたんじゃなくて?
「無理やりは駄目だが、両想いの場合は違反じゃない。でも――そうだな、やめておいた方がよさそうだ」
「聖騎士として問題になるような行動は慎め」
「ああ、わかってる」
何だ、いったい? 訳がわからない。
それにしても、こんなに軽い聖騎士なんて野放しにしておいて大丈夫なのか? 苦情はどこで受け付けているんだ、聖騎士団!
「ローザさん。失礼な態度をとってすみませんでした」
自分の馴れ馴れしさを反省したのか、ライルが謝ってきた。
「ですが、別行動する時は私がローザさんの護衛をすることになっております。嫌なら別の者に変更はできますが、セレンは一番の手練れのため、ルル様の護衛をしますからローザさんはグラント隊長か、トリスタンで我慢してください」
あれ? ライルが急に仕事モードに戻った?
「ちゃんと守ってもらえるなら、私はどなたでも構いませんけど……」
「でしたら予定通り私が。セレンに比べたら劣ると言っても、二十代の聖騎士の中なら上から数えた方が早いので、腕前についてはご安心を」
軽くなったり、紳士的になったり、ライルの言動は意味不明だ。
苦言を呈したセレンも渋い顔をしているので、この状況についていけないのは私だけってわけでもなさそうだけど。
その後は、ライルから変なことを言われることもなく、とりあえず荷物を置きに、各自の部屋に向かうことになった。
これから、私たちは食堂で食事をとる予定だけど、トリスタンは、あとでグラントと見張り番の交代をするらしく、食事は携帯食で済ませて、ひとりだけ先に休むそうだ。
「あ、これ、さっきお店で買っておいたんです。疲れた時は甘いものがいいですからね。ルル様と部屋で食べてください」
そう言ってトリスタンが別れ際に渡してきたのは、乾燥した果物に粉砂糖をまぶしたもの。美味しいし、日持ちもする。
トリスタンは本当に気配りができる男だ。
だけど……今までルル様の専任護衛をしていた聖騎士たちは、ちゃんと適切な距離を保っていたと思う。なのに、いつもより接触が多いのは、若手ばかりだからだろうか。実はこれが普通? 私が気にしすぎ?
でも、さっきのライルの態度なんて、おじさんたちの聖騎士ですらあり得なかった。
セレンに怒られてからは、ライルも茶化すこともなく、真面目に護衛任務を全うしているけど、本当にいったい何だったんだろう。




