↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕たちの物語  作者: 鎧
旭編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/41

第一章 旭 一節 恐怖

これは、僕たちが生きた物語。

これは、ひとりの少女の物語。

そして、彼女の中で生きてきた「僕たち」の物語。


家庭で傷つき、失い、何度も自分を守るために「誰か」を演じてきた旭。


お芝居が好きだった。

動物が好きだった。

誰かを守ることが好きだった。


けれど、彼女が「好き」だと思っていたものの中には、

まだ本人も知らない理由があった。


少女の人生を辿りながら、少しずつ明らかになっていく、

「僕たち」の物語。

日は沈み、薄暗い闇が周りを覆っていた。

少女は、泣いていた。

家の門の、塀の上で。

「うぅ……もう、降ろしてよぉ」

恐怖で、身体が細かく震える。

まだ幼い少女にとって、そこはあまりにも高すぎた。

「本当に、何もしてないのに……」

何を言っても、嘘だと言われた。

黙っていても、怒られた。

無力な少女は、ただ怯えることしかできなかった。

どのくらいの時間、そこに置き去りにされていたのかはわからない。

数分かもしれないし、数時間かもしれない。

ただ、その時の少女には、永遠のように長く感じられた――



少女の名は、旭(あさひ)。

両親と、三つ下の妹がいる。

妹は、いつ機嫌を損ねるか分からなかった。

ひとたびそうなれば、感情が爆発したように泣き叫び、叩きつけてくる。

決まってそのタイミングでやってくる母は、いつも旭を睨んだ。

「お姉ちゃんが何かしたんでしょ?」

原因なんて、旭には分からなかった。

ただ仲良く遊んでいただけなのに、妹は勝手に怒り出し、突然泣き出すのだ。

「……」

旭は何も言わなかった。

何を言っても、無駄だったから。

こうなったら次はどうなるか、分かっていた。だから、嫌だった。

「何か言いなさい! 旭!!」

「……」

それでも旭は、頑なに口を閉ざした。

言ったところで、余計に怒りが燃え上がるだけだと知っていた。

ずっと黙っていると、奥から父が歩いてきた。

「旭、メガネを外しなさい」

弱視の矯正用に、いつもかけているメガネ。

何かを悟ったように、旭は震える手でそれを外した。

パンッ――。

乾いた音が響き、頬が跳ね上がる。

殴られた衝撃に、ただじっと耐えながら旭は俯いた。

それでも、溢れ出る涙だけは止められなかった。

「ママと妹に謝りなさい」

「旭!!!!」

狂ったように叫ぶ父。

「もうやめて、パパ」

突然、母が父の腕を止めた。

(自分だってあんなに怒っていたのに、なんで止めるの?)

旭には、大人の理屈が理解できなかった。

どうせ信じてくれないなら、今更味方のような真似なんてしないでほしかった。

旭は、ゆっくりと顔を上げた。

「……なんだ旭、その目は」

父の低く冷たい声。

「反省していないなら、外にいなさい」

抗う間もなく、小さな身体が宙に持ち上げられた。

「いやだ! ごめんなさい!!」

必死の叫びも届かず、父は淡々と歩みを進める。

階段を降り、玄関を抜けて、外の冷たい空気が肌を刺した。

家の門の、あの狭い塀の上に、父は旭を乗せた。

「しばらくそこで反省しなさい」

父はそれだけ言うと、振り返りもせず家の中へと入っていった。



高い。怖い。

「ふぇぇ……ひっく……」

悲しかった。信じてもらえなくて。

外の闇に置き去りにされた旭は、震える身体で身動きも取れず、ただそこにいた。

そういう時、彼女はいつも、自分のなかの大好きなものを思い浮かべる。

可愛いぬいぐるみ。大好きなおもちゃ。

(今は遊べないけど、またあした、遊ぼうね)

気づけば涙は止まっていた。虚ろな瞳で、旭はただ、じっと夜空を見つめていた――。




僕たちの物語、始まりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。