表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/11

第0話 『アラカン就活狂想曲 ~救急車の夜、私はまだ働きたいと思った~』

今日、人生で初めて救急車を呼んだ。

ただの肩こりだと思っていた。


夜、編み物をしていて、椅子に座ったまま少し仮眠をとった。


目が覚めた瞬間――

左のこめかみから首の後ろにかけて、今まで経験したことのない激痛が走った。


唾を飲み込むだけでも痛い。

首を少し動かすだけで、ズキンと響く。

「何これ……」

最初は、そのうち治まるだろうと思っていた。


でも、三十分以上じっと耐えているうちに、今度は体がガタガタ震え始めた。

寒いわけじゃない。

なのに止まらない。


不安だけが、どんどん大きくなっていく。

「もしかして、脳に何か異常があるんじゃない?」


外出していた家族に連絡すると、

「すぐ救急車呼んで。あとで駆けつけるから」

と即答。


しばらくすると、痛みは少しだけ和らいだ。


でも、震えだけは止まらない。

私は覚悟を決めて、人生で初めて119番を押した。

     

救急車の中で、ふと頭に浮かんだのは――

命のことではなかった。


これからのことだった。

「せっかく来年から、念願の公的機関で働けることになったのに」

「これでダメになったらどうしよう」

「迷惑かけることになるのかな」


その瞬間、自分でも少し驚いた。

本当に怖くなったとき、頭に浮かんだのは、

“働けなくなること”

だったから。

     

病院ではすぐにCTを撮ってもらった。


結果は――異常なし。


先生の見立てでは、

椅子でうつむいたまま寝たことで血流が悪くなり、

一時的に強い痛みが出た可能性が高いとのことだった。


とにかく、脳に重大な異常はなかった。

それだけで、心の底からホッとした。

もう、健康って、それだけでありがたい。

     

今回のことで、改めて思った。


元気に起きられること。

働こうと思えること。

未来のことを考えられること。

それって、当たり前じゃなかったんだな、と。


六十二歳。


救急車の中で、

私は人生の“優先順位”を少しだけ整理した気がする。


条件だけじゃない。

年収だけでもない。

「ここなら、自分を壊さずに働けるか」

そこをちゃんと見ながら働きたい。


そして私は、その数日後――

新しい職場へ向かうことになる。


このときの私は、まだ知らない。

まさか二ヶ月後、

またハローワークに通うことになるなんて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ