第10話 夜の果て
演習終了の鐘の音が、森に響いた。
折霜涼と穂月錬次は、地面に座り込んでいた。
二人の手には、手錠が掛けられている。
あの時、錬次の攻撃を受けた煤御は倒れなかった。
そして煤御は、力を使い果たした二人に手錠を掛けると、何も言わず森の奥へ消えた。
「煤御先輩、強かったな」
錬次の言葉に、涼は悔しげに笑う。
「ああ、悔しいなぁ!」
「もっと強くなろう」
「そうだな。次は負けない」
傷だらけの身体を動かし、二人は拳を打ち付けた。
敗北の悔しさだけが、夜気の中で静かに熱を持っていた。
「おや? 理界くん、そんな所で何を考え込んでいるんだい? もう演習は終わったよ」
風切栞瑚が、笹舟理界にそう声を掛ける。
「栞瑚か。いや何、今年の新入生も、なかなか面白いと思ってな」
理界は鬼の面を外し、そう答えた。
「うわ、珍しい。理界くんが妹以外の人に関心を持つなんて。それとも兄として、妹の同級生を見定めてでもいるのかな?」
栞瑚が意地の悪そうに笑う。
「栞瑚、しばらく黙れ」
理界は深く溜息を吐くと、そう言い放った。
あの後、勿朽は何も言わずに去っていった。
今も離れた場所で、独りぽつんと立っている。
その顔は見えない。
(怒らせただろうか?)
僕、宙飛はじっと勿朽を見つめる。
どれくらいそうしていただろうか。
演習終了の鐘からしばらくして、森の方から足音が聞こえた。
音のした場所から、真神雷哉、傷代苅砥、鹿深珪晶の三人が歩いてくる。
「その傷、大丈夫? 三年生に捕まったの?」
僕は三人に駆け寄った。
真神は足元がおぼつかず、傷代は肩で息をしている。
鹿深だけは比較的ましだったが、それでも制服は土埃にまみれていた。
「俺と真神は倒されたが、鹿深は逃げ切れた」
「ぼくと傷代くんが手錠を掛けられている時に、鐘が鳴ったんだ」
「二人が時間を稼いでくれたおかげで、手前は捕まらずに済んだよ」
傷代、真神、鹿深がそれぞれ答える。
「皆、揃ったようじゃな」
そこで、巌倉先生の声が響いた。
「時間いっぱいまで逃げ切れたのは、鹿深と由密の二人か。まずまずじゃな」
その言葉を聞いた瞬間、待機所のあちこちで安堵の息が漏れた。
「健闘ご苦労。そうそう、他の組も何人か逃げ切れたようじゃぞ。では、これで演習を終了とする」
それぞれの想いを連れて、夜は更けていく。
僅かばかりの余韻を残しながら。




