↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼き叡智の魔導書 ~エロゲの嫁キャラたちに転生した悪友どもがいる限り、俺がヒロインと結ばれるのは難しい~  作者: 二上圭@じたこよ発売中
7 佐藤はカス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/70

65 佐藤の本性

「嘘、鈴木って女だったの……!?」


 初めの初めからしてきた勘違い。


 それが今ここに正されて私は驚愕した。それこそ佐藤に恋心を抱いている、それを知ったとき以上に素っ頓狂に叫んだ。


 ……まさか鈴木が女だったとは。


「女だったのってどんな暴言よ!?」


 鈴木がこれでもかと憤る。


 全くその通りである。言い訳のしようがない。


 自分が勝手にしてきた勘違いだ。だって鈴木は自分のことを一度も男だと言っていないし、周りの三人もそう言ってきたわけでもない。


 それをおまえは女だったのかと言われたら、私だって憤る。


 私が今まで吐き出してきた中で、間違いなくトップクラスの暴言だ。


「田中の件もあるもの。てっきり一緒かと思ったわ……」


 それでも弁解くらいはさせてほしい。


 だって仲の良い四人組。まさか紅一点だったとは思わなかったのだ。


「つまりわたしの女っぷりが、鈴木に並んだということ」


「凄い屈辱だわ……」


 嬉しそうな田中と、苦々しげな鈴木の対比。


 ……ああ、でもようやく全て心に落ちてきた。


 この四人組の関係性。鈴木が女だったというのなら、全てが納得がいく。


「結局、ただの女の嫉妬が招いたものだったのね」


 鈴木の知り合いに佐藤が手を出した。それに鈴木はブチギレたと、渡辺たちは語っていた。


 当然だ。好きな男が隠れて、自分の知り合いと繋がらんとしていたのだ。鈴木の怒りは相当なものだろう。理不尽な怒りではない。


「本当、貴方は佐藤が好きなのね」


「べ、別に佐藤のことなんて好きじゃないわよ」


 私のからかうようなニヤついた口元から、鈴木は逃げるようそっぽを向く。


 まったくもって、素直ではない女だ。


「……ただ、向こうから頭を下げてくるなら付き合ってあげないこともないわ」


 と思ったら、あっさりとそんな形で認めている。


 そんな鈴木の有様に、思わず噴き出してしまった。


 私に愛や恋はわからない。でもどうやらこの女は、つい我を失うくらいにその身を費やしているようだ。


 人の恋愛にはまるで無関心だったが、つい興味を持ってしまった。


「あんな女をキープするような男のどこがいいの?」


 冷やかすような声色で問いかける。


 どうやら佐藤は、渡辺たちが聖人扱いするような男だったらしい。ちょっとそこをつついてみたくて、あんな酷い男のどこがいいのか、なんて貶してみた。


 苦々しそうにしながらも、やはり佐藤のことが好きなのだろう。


「元々佐藤は、あんな酷い人じゃないわ。真面目と誠実が服を着て歩いているような人よ」


 本人の名誉のためか、ようやくその重い口が開いた。


 男よ、というのではなく、人よ、と表現する辺り、その親しさと距離感を感じる。


「佐藤は苦労人でね。幼い頃にお父さんを亡くして、女手一つで育てられてきたんだけど……お母さんのほうも身体が強い人じゃなかったの。どれだけ頑張っても、生活が楽になることはなかったわ。


 だから佐藤は、中学生になったらすぐに新聞配達を始めて、そのお金を全部家計にいれてきた。バイト以外の時間は勉強に費やし、成績は常にトップを維持。それもこれも、学費とかの免除のためにもね。そして将来いい会社に就職して、お母さんを楽にさせるのがあの人の目標だったの。大学に入るまでの佐藤は、本当遊びのない生活だったわ」


 重々しく伝えられたそれは憐れみではない。ずっと見守り続けてきたそれは、どこかやるせないような歯がゆさを感じた。


 意外である。


 中古はキープだ、美少女で本懐を遂げられるなら誰でもいいとまで言い切った男。その土台には禁欲的なまでの人生が積み上げられていたとは。


「そんな生活に余裕ができたのは、お袋さんが再婚してからだ。まあ、大学受験を間近に控えていたから、それはそれで余裕なんてないんだが。佐藤の青春が始まったのは、大学からだな。


 大学へ受かって、さあ遊ぶぞ恋をするぞと、張り切っての新生活だ。娯楽なんてろくに触れてこなかった男の一人暮らし。そういうのに限ってタガが外れて道を踏み外しそうなものだが、学業を疎かにすることなく、悪い遊びなどは一切しない。あいつの素行や生活態度は至って健全だった。


 だからといって融通の利かない真面目くんというわけでもなく、便利に利用される男でもない。人間関係の遊びもわかれば、駆け引きもできる。上からは可愛がられ、下からは慕われる。そして俺たちのような奴からは頼られ尊敬をされていた。顔ではなく人柄であそこまで人望を集めるさまは、まさに聖人だったな」


 鈴木から引き継ぐように、渡辺より語られる人物像。


 聖人。


 確かに渡辺を手のひらの上で踊らせるほどの地力には驚いた。だが聖人とはほど遠い。


 作戦だったとはいえ、あれだけの醜態を晒してきたのだ。普段から鈴木たちを罵りカス共と叫ぶさまからは、決して考えられない一面だ。人望なんて縁とは程遠い。


「そもそもわたしと渡辺のような最底辺の人種と、最初から嫌がることも差別もせず友だちになってくれたし、勉強も親身になって見てくれた。佐藤の勉強の教え方はマジで神。私と渡辺のような底辺が立派な大学に入れたのは、十割が佐藤のおかげ。貴方の尊敬する人は誰ですかと問われたら、佐藤の名を出すほどにあれは聖人だった」


 佐藤と歩んできたその仲を語った田中。


 そういえば渡辺と田中は、スクールカースト? とにかくその最底辺だったと言っていた。佐藤はできる人間だったらしいので、確かに二人との格差はあったのだろう。


 どうやら佐藤は、下だ上だと気にせず、手を取るような人間だったようだ。


 本当に彼らにとって、佐藤は聖人だったらしい。


「そんな佐藤がああなったのは、『先を越されるのが気に入らないから』と恋を妨害されていることだけじゃない。信頼の全てを差し出してきた鈴木に、そんなくだらない理由で裏切られたと信じてるのが一番の原因。はぁ……あの聖人も人間不信に陥って当然」


「以来佐藤は、どんどんどんどんどんどん人格が歪んでいったんだ。今の佐藤はさながら、『どうせ二次元の世界だ、好き勝手やってやるか』って、たまりにたまったものが爆発したというところか。あの聖人がここまで堕落し、品性を堕とすのかというほどに酷い堕ち具合だ。三次元ならこんな堕ち方絶対せん。はぁ……正直、深い責任と罪悪感はある」


 田中と渡辺。二人そろって大きなため息をついている。次の瞬間、諸悪の根源を責めるようにその顔は鈴木を捉えた。


 そういえば、佐藤のことを男が惚れる男といっていたか。


 どうやら二人は、本当に佐藤のことを好きだったのだろう。もちろん、私が勘違いしていた意味ではなく、人間として佐藤を尊敬し慕っていたのだ。


「戦争が起こってからも、なぜわたしたちとの縁を切ろうとしないのかがわからない。遊びに行っても『おお、来たかカス共。さっさと貢物の酒を出せ』って嫌な顔一つせず、ツマミを作って迎えてくれる」


「俺たちのやっていることなんて、普通に縁を切られて当然のことだ。鈴木を叩き出さないのは貧乏性だなんだと言ってるが、根っこのところがやっぱり聖人だな。それこそ家族でも殺されん限り、あいつは真の意味でブチギレないんじゃないか」


 その通りだ。


 鈴木たちがやってきたことは、あまりにも理不尽である。この三人しか友人がいないならともかく、どうやら人望があるとのこと。友人には困っていなかっただろう。


 四月から鈴木たちがやってきたことを見てきたが、よく考えたらなぜ、佐藤はこいつらと縁を切らないのか。不思議でしょうがない。


「今だってその気になれば出ていって、うまくやれる器用さと要領はある。それこそ小太郎辺りに日本政府と顔を繋いでもらい、蒼き叡智の価値を振りかざし、金だ家だとなんでも用意できるだろう」


「それなのに佐藤は毎日わたしたちのご飯を作ってる。やっぱり根っこのところが聖人」


 どうやら本当に、佐藤は二人に尊敬され慕われているようである。


 聖人だと。


 この男以上の人格者はこの世界にいないとばかりに褒め称える。


 それほどまでにあの男に助けられてきたのか。はたまた救われてきたのか。


 盲目的なまでの贔屓目である。


 だってそうであろう。人間なんてものは堕ちるときは堕ちるもの。堕落するときは堕落する。


 状況と場さえ整えば、悪徳なんていくらでも重ねる生き物だ。まるで佐藤には、本来そんな機能が備わっていないはずだったのに、と彼らは口にしている。


 真の聖人なんてものは、この世にいない。


 私はそんな綺麗事は嫌いだ。佐藤もただの、人間だったという話である。


 だって恋心を向けられながらも、中古はキープだなんてのたまうのは、あまりにも人間としてカスすぎる。


「聖人だ聖人だなんて言ってるけど、人の本性っていうのはこういうときに出るんじゃないの? 結局、あれがあの男の本性だったというだけの話でしょう」


「あの人のことを何も知らない女が勝手なこと言わないで!」


 あれだけ佐藤を陥れてきた諸悪の根源が、憤るように私の論を一蹴した。それこそ大事な物を傷つけられたかのような女の悲鳴だ。

次話は19時に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自殺を止めてきたオタク青年の話。そのまま隣人にオタクへ染められた話。そんな彼が死んだ話。(仮)
一巻完結ものの新作で、女子高生に蒼グリをやらせたりする話です。
某キャラも出てきますので、こちらのほうも応援頂きたく願います。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。