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9/12

9.働くって疲れるよぉ  


 ここ1ヶ月ゼンジロウは、ほとんど寝ていない。

 目の下は、真っ黒にそまり、目は亡者のように血走っている。

 レンタルした礼服を着て、独立式典の会場へ向かう。

 キャステも同様に寝ていない。今日の朝まで、引き継ぎ業務をしていた。

 ぼさぼさ髪を一括りにして、うつろな顔だ。式典のために用意した、糊がついた制服に、軍帽をかぶって、一応は恥ずかしくない格好だ。

 庶務を担当するクルトは、歩きながら寝ている。

 

 独立式典の会場は、連邦軍駐留基地だ。内部はモダンな造りだが、正面入り口は、昔の宮殿をまねたつくりで、見る者を圧倒する。

 連邦軍が退去するにあたって、この立派な建物を譲渡してくれる。まあ、いきなりゼンジロウたちに行政権を放り投げた、詫びの一つらしい。名目上は、独立支援の一環事業となっている。

 

 スピーカーから割れた高音のファンファーレが鳴り響き、リボンが切り落とされ、スロウランド駐留艦隊の最後の一隻が、基地内部に設置された宇宙港から離陸する。

 とっくに本隊は地球圏へ戻っているが、この儀式のために、一隻だけ戦艦を残していた。宇宙の覇者、銀河連邦ともなると、いちいち面子を気にして、どうでもいい行政区の独立式典でも、見栄を張らないといけない。

 戦艦は、独立を祝う空砲を放ったあと、急加速して大気圏から離脱した。


「長かった。やっと終わった」


 式典が終わり、招待客もやっと帰ってくれた。スロウランド議会の議員や地元の有力者が、ゼンジロウに挨拶に来た。

が、数が多すぎて名前なんて覚えられなかった。ただ、彼らの権力欲と自己の能力への自信に満ちた目をみると、彼らに首相の地位をあげたほうが、うまくいくんじゃないかとすら思った。

 贔屓目で見ても、ゼンジロウの能力は、得意分野で上の下。平均すれば中の下くらいの人間だ。

 なんで、そんな自分が、いきなり首相をしないといけないのか。投げ出したいが、ここで逃げても待っているのは、退職金を切り崩して、スロウランドを見捨てた罪悪感に苛まれながら、貧困を怯えて暮らす生活だろう。それはそれで嫌だ。

 スロウランド共和国を軌道に乗せた後は、さっさと名誉職ポジションについて楽隠居を目指す。これが自分の目指す、ライフプランだ。

 空を見上げると、綺麗な赤い空だ。もうすぐ日も暮れる。

 大気圏離脱中の戦艦の光が、小さく、小さく見える。2、3分もすれば完全に見えなくなるだろう。

 ふと、ゼンジロウは、戦艦の光から少し離れた一点に、逆に大きくなる光を見つける。


「キャステ君。見ろ、流れ星だ」

「へえ。長官、いや首相でも、星の話をするなんてロマンチックなところがあるんですね」


 キャステは、顔をあげて、空を見た。


「それに珍しい。次第に大きくなっているように見えないか?」


 キャステは顔色を、土色に変える。

「あれは、衛星ミサイルです!シェルターに避難を!おい、クルト、スロウランド全域に、空襲警報を出せ!惑星警備隊は何をしていたんだ。どうして撃墜しない!」


 スロウランドの都市のあちこちから警報が鳴り響く。

 空に浮かぶ、光の数は次第に十数個に増えていた。それがだんだんと大きくなる。

 光のすべては、衛星ミサイルである。

 それは、名のごとく衛星によるミサイル。構造は簡単。隕石にエンジンをつけるだけ。命中精度は低いが、低コストの、質量弾だ。

 銀河歴の初期には、艦隊戦から惑星攻めまで、あらゆる場面で猛威を振るった。

 だが今は化石の存在だ。砲の攻撃力が上がった今では、良い標的にしかならない。巨大な石を目標にぶつけるだけなので、威力も、たかがしれている。

 惑星に撃ち込めば、速度の遅さとその図体の大きさで、旧式の防空システムでも、撃墜できる程度の兵器だ。

 

 しかし、その程度、と言えるのは、発達した防空システムに守られているからだ。

 現代人でも、無防備に石器で殴られたなら、大怪我は確定。

 スロウランドも同じ。何故か、防空システムが作動していない現在、質量弾をもろに受け止める。



「ほっ、星が落ちてきた……」


 ドドドドド……

 スロウランドの市街地を狙って、衛星ミサイルが落ちる。

 ゼンジロウが逃げ込んだシェルターには、モニターが壁に掛けられており、外の定点カメラからの映像が確認できる。

 大気圏突入による摩擦で赤く熱された小石がビルに吸い込まれると、そのポイントからの映像は真っ白になり、二度と映ることはない。

 モニターには、重要区画36地点の映像が、分割されて映し出されているが、すでに半分以上が真っ黒になっている。

 ゼンジロウは、シェルターでその映像をぼんやりと眺めた。




 衛星ミサイルの嵐が止み、ゼンジロウたちは、シャルターから出る。

 夜なのに、街は明るい。あちこちで瓦礫が燃えているのだ。街の各所には、巨大なクレーターができている。溶けた鉄骨をむき出しにしたビルが並んでいる。

 ハイウェイにもダメージがあったようで、一部の架橋が倒壊している。

 譲渡された駐屯基地も無残だ。あの荘厳な入り口は衛星ミサイルが直撃したらしく地面ごとえぐられ、瓦礫すら残っていない。

 兵舎も倒壊し、倉庫も崩れている。格納庫にも衛星ミサイルは命中したようで、わずかに引き渡された武器も全滅だ。


「仕事場がなくなちゃったぞ……」


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