12 ドキドキ……決戦だよ!
傭兵隊長ガルベは、スロウランド市庁舎の最上階の窓から外を眺めた。
眼下に見える市庁舎の周囲には、バリケードが張り巡らされ、屈強な傭兵たちが守備している。
「評議長、そっちの具合はどうなんだ?なんだか、調子の良くねえようだが」
ガルベは景色を見るのをやめ、後ろを振り返る。
そこには、踏ん反り返ってソファに座る、中年の男がいた。でっぷりと出た太鼓腹に、頭髪は脂ぎっている。
彼のきている軍服には、胸のあたりに、むやみに多い勲章が吊り下げられ、彼が「ふは、ふはっ」と、運動もしていないのに荒い呼吸をするたびに耳障りな金属のこすれる音がする。正直、不愉快だ。
「ふはっ、こっちは問題ない!当初の計画から、多少の修正はあったがぁ、議員どもは評議会を承認した。すでに都市の60パーセントは掌握している。安心しろぉ」
「ふんっ、当初の計画じゃ、今頃は完全制圧していたはずだぜ?うわさじゃ、議会を黙らせるのにも相当手こずったとか?」
「ふはっ、我らに反対する連中には、永遠に黙ってもらったわ」
「……なんだと?ボスには、監禁だけを許可されていたはずだが?!」
「ふはっ、あんな海賊の言うことをいつまでも聞いていられるかぁ。スポンサーは金の話だけしてればいいんだぁ」
評議長は、口では強気の発言だが、内心やっぱり宇宙海賊の報復が怖いのか、膝を貧乏ゆすりしながら、デスクの上に置かれていたキャンディを口に放り込み、ぼりぼりと噛む。
「後でどうなっても、俺は知らんぞ……まあ、俺は傭兵だ。報酬さえもらえれば問題ない」
ドシン、と鈍い音が遠くからひびき、建物が揺れる。
天井からぱらぱらとホコリが落ちる。
ガルべは、慌てて窓から外の様子を伺う。
市庁舎の目の前に建つビルから黒煙がのぼっている。爆発だ。いくつかの階層で、爆発が起き、その度にその階の窓ガラスが跡形もなく吹き飛ぶ。
「惑星銀行で戦闘だ……」
市庁舎の前を通る大通りをはさんで、大きなビルがある。惑星銀行だ。スロウランドの金融を担っている公的機関である。
評議長は傭兵を信頼せず、惑星警備隊から選抜した守備兵を配置していたが、押されているようだ。
ガルべは、内心、練度の高い傭兵を派遣していれば、建物を燃やされるなんて醜態をさらすことはなかったのに、と悪態つく。
「ふはっ、どうした!おおっ!銀行が燃えている!だが、安心しろ。惑星銀行の金庫はミサイルの直撃でも耐えられる。後で回収すれば問題ない」
「いや、あの群がっている暴徒を見ろ!袋に金塊をつめこんでいるじゃないか。金庫を開けたやつがいるぞ!」
「ふほっ!?あれは私たちの軍資金でもあるんだぞ!ガルべ傭兵隊長、私はどうすればよい?」
評議長は、狼狽し、ガルべに助けを乞う。
「なら、俺を派遣してくれ。暴徒なんぞ、鎮圧してみせる。まあ、バッチリ金塊も取り戻してやるさ……」
「たっ、頼む!」
「俺の財布にな……」
ガルべが部屋を出るとき、一瞬だけ頰をあげ、小声でつぶやいたのに、評議長は気がつかなかった。
「今しかないぞっ、市庁舎につこっめええ」
ネクタイをハチマキがわりにしたゼンジロウは、内閣特務隊の先頭に立って、市庁舎に押し寄せる。
爆発物を満載にしたトラックを正面玄関に突入させて、市庁舎正面のバリケードを無力化する。
「頭を伏せる!死にたいのかっ!」
キャステの怒声が響く。あれだけ事前に訓練をしていても、皆、素人だ。いざ実戦となるとその独自の緊張感に飲み込まれて、周囲が見えなくなる兵が続出した。
惑星警備隊も黙ってはいない。
機関銃の掃射で、答える。
たちまちバリケードの上に立って、興奮状態で暴れていた数名の新兵が死んだ。
それをみて、他の特務隊の兵も、慌てて物陰に潜んだり、しゃがんで姿勢を低くする。
「首相!こういう乱戦時はね、相手も、アタシたちがどこにいるか分かってないのさ」
「ならどうすればいい、キャステ君。このままじゃ、突破できないぞ」
機関銃が狙いを定めるのと、人が走るのでは、機関銃の方が早い。市庁舎にたどり着く前に死んでしまう。
「こっちは、機関銃の出所を見ればいい。ほら、あそこの窓から撃ってきている。そこの坊主、ランチャーをアタシに渡しな!」
キャステは、ロケットランチャーを構えると、市庁舎の2階の窓に狙いを定める。よく見れば、確かに、窓から機関銃の銃身らしき黒い鉄のパイプが飛び出している。
「ファイア!……よしっ、命中だよ!」
派手に爆発して、壁ごと崩れる。
「弾幕が薄くなった!アタシの隊に、こんな花火で死ぬような童貞はいないよっ、総員、突撃っ!」
「評議長、すでに敵はバリケードを突破し、最上階まで上がってきています」
かつて市長室として使われていた部屋は、今は評議長室として使われている。
その部屋の木製の重たい扉を開いて、1人の軍人が駆け込んできた。
「ふはっ!なにをしていたんだ君たちは!守るこっちのほうが兵力が多いんだぞ。守備側の兵力が多くて、どうやったら、負けるんだ」
「バリケードの防衛では傭兵たちが急に抜けたため防衛網に穴が……それに室内戦では数の有利が生かせず……敵は精鋭であります。訓練も怠っていた我々では……」
「言い訳はいいんだよっ!ガルべたちをすぐ呼び戻せ!私たちは最上階で持ちこたえて、下から上がってくるガルべと、敵を挟み撃ちにするぞ。ふはっ、なんて素晴らしい作戦だ」
「傭兵たちは……」
軍人は、言葉に詰まってしまう。
「どうした!時間がないんだぞっ」
「傭兵たちは……略奪に夢中になっております」
評議長は、その重たい体を窓まで持っていくと、惑星銀行の方を見る。
そこでは、金庫をあさる傭兵の群れがいた。
評議長は、慌てて机まで駆け寄り、ガルべの無線機へ連絡する。
「ガルベっ、すぐに戻ってこい!市庁舎が占領されそうなんだ!」
「バカ言えっ、評議長!こっちは敵の主力を相手にしてるんだ!なんで、市庁舎を守れない!?ああっ、くそっ、バカども、金塊はとりあえず、置いておけっ、死ぬぞ?おいっ、俺の言うことをきけんのかぁ!」
ガルべも受信機の先で、相当焦っている。
評議長が窓から銀行周囲の様子をよく見ると、銀行を襲っていた暴徒がいつの間にか、兵士に変わっている。統制のとれた動きで、傭兵たちを襲っている。
一方、傭兵たちは、ガルべを中心に一部部隊が反撃しているが、略奪に夢中になっている部隊もあり、大混乱。統制はとれていない。装備の差で、なんとか戦線を持ちこたえている。
市庁舎への帰還は、期待できない。
「くそっ、クーデターは失敗か!?宇宙海賊のところに逃げるぞ。屋上に脱出ロケットがある。逃げるぞ」
「お待ちを、あなたに従っている兵たちはまだ戦っているのですよ?」
「ふはっ、私が無事である限り、スロウランド暫定評議会は無事だ。宇宙海賊の増援を連れて戻る」
評議長の話をこっそり聞いていたのか、それとも評議長の行動を予測していたのか、取り巻きの評議会委員たちが、ちょうどよくやってきて、「閣下のために脱出ロケットの準備をしておきました。我々とともに閣下は脱出してください」と進言しにやってくる。
評議長は軍人と話しつつも、取り巻きたちの言葉に頷き、脱出の準備を進めていく。
「そっ、そんな。援軍が来るまでにどれだけ時間がかかると思っているですか!その間に我々は全滅です。せめて、評議長閣下の脱出後、降伏をお許しください」
「ふはっ、だめだ、だめだ。貴様たちは市庁舎を死守しろ!市庁舎陥落後は、ゲリラとして、戦い続けるのだっ。ふほっ、わかったな」
評議長は、急な角度の隠し階段を荒い呼吸で登っていく。
「閣下、最後に一言申し上げさせてください」
「ふはっ、なんだっ、緊急時だぞ。私は一刻も早くロケットに乗らなくてはならないんだ、手短にな」
評議長は、階段の手すりを持って振り返る。
そこには、拳銃を構えた軍人がいた。
それが、最後に評議長の見た光景であった。
銀河歴192年12月27日 スロウランド暫定評議会 解体
歴史書には、そう一言だけ書かれている。
マリウス大佐率いる第六艦隊が、睨みをきかせてくれたおかげで、宇宙海賊の反撃はなかった。
着陸に成功した第六艦隊の陸戦隊が、傭兵たちを鎮圧。
これでクーデターは失敗に終わった。
だが、独立したばかりのスロウランド共和国に残した爪痕は大きい。
評議長が、クーデター不支持の有力者をかたっぱしから処刑した。それに、都市は衛星ミサイルと市街戦のおかげで、壊滅状態だ。
宇宙港が活動を再開するや、地球圏や貴族連合への移民が相次いでいる。
官僚組織も、反クーデター派は処刑され、クーデター派はほとんどが逃げ出した。
施設がダメージを負っただけでなく、人的資源も壊滅したため、まともに行政活動を行うことすらできていない。ライフラインの維持だけで精一杯だである。
ゼンジロウは、自分の異動先は、貧乏くじばかりだとため息をつく。
「局長、戦勝祝いの焼肉ですよ!」
「おっさん、早く行こうぜ」
キャステとクルトの2人が、首相の執務室へ遠慮なく入ってきた。
ゼンジロウは、まあ良いかと笑う。
貧乏くじでも楽しければいいや、と。




