807c 閑話 楽しいに価値を付けてみたら。
試験受けに来たよ〜の続き。
もうじき10年になるのにいつまでも新人なのは何でだ。
後から入ってきたくせにさっさと取れて、でもそれに指導とかしてるんだけど。
聖国快適だなあ。やたら立ち塞がる壁の反発でがんばってきた気もする。
いやいや今日何するかは忘れてないよ?
今日何時からだっけ。受験用のパンフがあるらしいけど、お姉さんにチラシ見せてもらっただけだし詳しいこと何も知らない。聞いてない。
差別がひどいし区別が露骨で、ずっと休みをどうやって取るかばかりで、ここの事何も調べないで来ちゃった。
ぐっすり眠って、美味しいのをいっぱい食べたら気持ちがラクになった。平気ってつもりだったけど色んな不満を溜め込んでいたんだなあって。
どうしようどうやって調べられる? そもそもどこに行くか知らないし・・
とかボンヤリしていたら「来たわよう」って、何が?
馬車がってことみたいで停まっている箱に乗り込むとスススっと高くなる感じがして動き出す。窓から景色はステキでやっぱり花の香りがする。上品な色使いの家が異国に来たことを感じさせるね。
それで昨夜も思ったんだけど、揺れどころかガタゴトしないでス〜っと進むし、後ろに引っ張られる感じもないのに速い。
来る時のもそうだったけど聖国のってスゴイ。いつもなら街の移動だけでも酔っちゃってたのに、それが全くない。
どっかの建物に入って停まった。着いたってことだろう。降りて改めてみると小さいし、御者いないじゃない。あれあれってしていたらコッチコッチされて・・ここって衣装部屋? 服だらけだし肩にかけてるのはヒモだろう。キョロキョロしているのは他にもいて・・あっ、ひん剥かれた。
じゃあウデを上げてって言われて、バッと私までスッポンポン。
思わずキャアって声が出た。そんなのお構いなしにコシやお尻周り、胸周りを測ったら「70のAA、55、75」って言う。
それからも首や頭や腕、目の幅や手首、足のサイズとか何かもういっぱい計られてクラクラする。
ハイよって置かれて「これ履いて、ムネは・・ああイイのか。うん、メシいっぱい食いな」ってポンっとされた。
他の人達は「身体を前にして〜 横の肉を詰め込んで〜」とかされてて、自分で出来るように繰り返しやらされてて、大変だなあって。
それをボ〜ッと見てて服を被せられて顔を塗り塗りされたりモミモミされた。
じゃあこれ着てねっていうのをハテナしながら着て、髪を整えますね〜って、ブオ〜って風が来たりクルリンされたりパチンパチンしたり「ちょっとリポン付けた方が良いんじゃない」「いいわね〜もっといじりたいわぁ」何かされている。
それから「じゃあ45に行ってね」と言われて図を見ながら見つけて「空いてるどこでも」って座ると綴じたカミ束が置かれて「はいスタート」って。
書くものっていうか荷物ごと取られて何もない。机にあったのは羽ペンではなく、木の棒? これはたぶんペンシルってヤツだろう。
ペンだと書き直しが出来なくて間違えると線を引いて黒々となって、すき間に小さく書くことになるんだけど、これはゴムで消して書き直せる。
カリカリもしないし、試しにスッと引くと黒い線がカスレなく引けた。それをキレイに消してカスを粒に・・って遊んでる場合じゃない。
今回来た目的の医師・・ではなくて、受けているのは「薬師」で診療所の全部のクスリを知っているし、直接さまざまな行商人から仕入れもしていて産地の時価も知ってる。薬草を育てていて特殊なものでなければ処理の仕方も分かるというか育成をやっていて、どうすれば効能を引き出せるかってことまでね。
本館の納品を手伝って、ついでに平民院分を確保(ちょろまか)して、出来たてのクスリを使ってせめてクスリ代だけでも高くならないようにしてる。
まあそれで自信があるものに逃げたってことで、ビビっちゃった。何日かいるから覚悟が決まって、試験日が合うなら受ける・・つもり。
問題はクスリの元の草とか鉱物の名前、効能、扱い方や処方量や方法、副作用とか、こういう症状だったら、こういう病名だったらとか実践的。希少でお目に掛からない名前だけ知っているクスリとか珍しい病気は出てこない。
薬草をクスリにする手順では独自の方法を書いちゃったけど大丈夫かなぁ。
何度か見直しをして書き直したりして「そこまでで〜す」ってスッと持っていかれるまで粘った。この後実技というか模擬問診で、口頭で二つ聞かれる。
何かをポンポンとして、小箱から手紙がポロッと出てきたのを「試験中なので、ここで開けちゃダメですよ」って渡された。
部屋から出て食堂を探して向かう。
いつもは下着はダルンダルンので、それで腰のあたりがモコっとしてた。ムネが重いってこともないっていうか、ほんのりあるくらいでそういうのもしてない。
着せられた服はキツくなくて、むしろゆったりなのに引き締まった感じがする。
ついこそっとして封筒を開けると「西方薬師+ 合格」って書いてある。グッと小さくガッツポーズして「やった♡」した。
そういえばチリンって鳴ってなあとか、あと10Fとかは遠くで・・とかで緊張してたんだなあなんて振り返って、今はすごく落ち着いてスッキリしている。
終わったんだなあってしていたら「ねえねえ、どこから来たの」って。
そういえばおなか空いたなあと。連れだって食堂に行く。
どうして声を掛けてくれたのって聞くと「あなたとても素敵よ」だから一緒したかったなんて言う。
治療院では年上ばかりだし同性は平民院にはいなかった。今は気分もいい。
ふとみると、その娘はかなり高そうな服で良いトコのお嬢様だ、しまったっ!
それで「えとえとゴキゲンうるうるわしゅう、お、お嬢様・・あのあの」
平民院じゃあオッスって感じだったから上品な挨拶って知らないよっ。
「急に何よ。私だって庶民、いや農民かな。北の○○から来たんだよ」
「だって、服がかなり上等でしょう」
「いや待って、あなたもそうでしょう。そこの鏡みてよ。コイツはどこの金持ちだって思った。でっかいリボンまで付けてて可愛いわ」
だれこれ〜! クルンされて「周りを見ろっ、コラッ♡」
ええ〜って驚いた。これは聞いていたお金持ちのサロンってヤツでは。
膨らんだ袖をみて自分の服をやっと見た。
「試験に夢中で気が付かなかった」
「うわ〜相当ねえ。ゴハンの後もあるんだしもっと肩の力を抜いた方がイイヨ」
それから言われるまま皿を取ったり飲み物を選んだりして、パクパク。
とても美味しくてガツガツ、ズズズ〜って。
「やっぱ、お嬢さまではないわ」って、こっちもガツガツ食べている。
さすがに下品すぎた。今さらだけどお茶は音を立てずに飲んでみる。
「最初にヒン剥かれて服を着せられたのは不正防止のためなんだって。
ええっと、カンニング対策?」
へ〜ってしたら「ふつう聞くでしょう。ああ気が付かなかったのか」
すごく呆れている。
「健康状態もチェックされていたらしいよ。何人かそれでベッドに直行したのもいるみたい」
「待った! カンニングが服とどうつながるの」わけ分からないよ。
「それも聞いた。シミュレーションしてみたけどカンニングしたのを探すためにボディチェックするくらいなら全部剥いて服着せようになったって。
販促になるからこれでいいとか言ってた。ただしそれ着て自国に入ることって。
試験何回受ける? 毎回やられるみたいなので出来るだけ受けとくつもり」
これでワードローブ充実って言ってる。いいのかなあ。
試験の出来は午後の方が良い気がする。あと1日と半分もあるから、いつやってるか聞かなきゃな。何であんなに自信なかったのか分かんないくらいスラスラ書き込んで、実技はいつもの調子を取り戻して「こうした方がいい」とかついね。
確かに上質で何より着心地がいい。かなりフェミニン過ぎるけど良い服は気合いが入るってもんよ。
ぎゅっと力こぶしてて、ハッといけないって。お嬢様お嬢様・・
友達を作りに来たわけじゃないのに10人くらい。「メシ食いに行こうぜ」って誘って、オススメのケモミミ食堂に行くことになった。
問題は中身よねえって爆弾を落とすのがいて「そのカオしてメシ食いにはない」に周りが同意する。ヒドイ〜
「育ちが悪いのは自分もだけど、ちょっとねえ」ギャハハってダメじゃん。
「ちょっとちょっと。店員達、特に耳付いてる人って肌キレイだと思わない?
ほら、あの娘とか」
「そうそう、おじさんもなんかきめ細かいのよ。ウチの辺とは全然違う」
じ〜っと見られて「あんた顔が悪い」「なにケンカ売ってんの」
「待った待った。手入れがされていないってことでしょう。言葉足りないよっ」
パッと手帳みたいな仕草をして「その辺も聞いた。前はいつも泥パックをしていたらしいよ。薬草を混ぜた泥を顔に付けてたって」
「あなたすごいわねえ」「情報収集は趣味みたいなものだからね♡」
「ちなみにその手のもいっぱい売ってる。美しさに縁が無いと思い込んでるお嬢様には化粧品を!」
「わ、わたし〜?!」うんうん。「もったいない。宝が腐る前に、ぜひ」
「みんなもだよ〜」えって、驚いてる。誰もが自覚ないよねえ。
「ところで明日何受ける?」「えと、明日には何があるの?」
え〜って、みんな見てくる。「な、なに?」
はあ〜って「この世間知らずのお嬢様はもう」
肩をすくめるポーズって初めて見たよ。
「ここの試験って、それぞれ違う試験だったんだよ」
「1人1人が違う試験してて、来てすぐ開始だったでしょう。試験時間も違うの」
「ああそういえば、パラパラ出入りしてた」
「ちなみに私は会計士だったけど」「オレは司法書士かな」
「こらこら、オレはだめだよ。お嬢。あたし土地鑑定士」「アタイは・・」
「ホントだみんな違うんだね。えっと薬師でした。おほほ」
似合わね〜。合ってない。へん。田舎者っぽいって散々。え〜ん。
「同一カテゴリーの下位のは当然ダメだからね」
「えっ、そうなの。そうだよねえ。んじゃ保育士、介護士、あと何やったっけか」
「そんなら上げていけばセーフってこと? う〜ん、弁護士がんばってみるかぁ」
「認定に流れてもダメ。アレなかったみたいだし、ごはんが違うって」
「今回だけみたいな感じだものねえ。もっとやっとけば良かったよ」
「ところで・・薬師ってことはお偉い先生がいるってヤツ?」
「そうそう。あのオヤジやオバハン連中って家のチカラで助手の助手になれただけで、実際何も出来ないのよぉ。先生とかその助手とかって会ったことない」
「去年、ウチらんとこもこの時期に休みになったとこが多かったからね。そんで試験受けに来て落ちたって事らしい」
「去年は免許の合格がゼロだって」
「あれ〜あたしのとこは受けに行くって壮行会してたんだけど、結果の報告が無かったのはそれでってことかあ」
「エラそうにいっつも講釈垂れて、このざまって笑える」
「だからか。いっつもエラそうなのが去年の春からはおとなしくなった」
「そういえば城の御者たちに下っ端ってバカにされなくなったわ」
「あれって5年だったっけ」「そうあと3年の命」首を絞める仕草してる。
「あ〜みんながどうだったか聞いてもよい?」
「もち合格だぜっ!」「あたしも」「ええ当然」「ぶいっ・・」
「まあそうよねぇ。実務こなしているの、どこも弟子だけなんだものね」
「ウチの治療院は庶民ばっか。指導役なのに未だに新人のままなんだよ」
「てことはスカウトされた?」「えっされてないよ。何かもらったけど」
ペラリしたら、ぜひウチの商会に来てねって内容で条件がズラズラ書いてある。
「あ〜多かったからだよ。合格したの」
「ノラネコ商会って胡散臭いんだけどぉ。なにこれ?」
ばっと見られている。ビックリした顔、顔・・
「あんたどんだけ無知なの。私は田舎ものだけど知ってるよ。コレ見て」
ま〜かわいい娘。「だれ、結構好きかも。どっかのお姫様?」
「その子が代表で本物の巫女っていわれてる。あとオトコノコ」
「たぶんこの服もそうだし。ニュース誌、読んでないの」
「え〜! コレ欲しいどこで売ってる」
もち、もちろん入っちゃう。アホなおっさんの相手なんかポイだ。あたしは愛に生きる。未来がど〜んと拓けてきたあ。明日もがんばっちゃうぞ〜
「なんかトランスしてるよ、この人」「やばくない?」「気持ち分かるな〜」
初めて会ったのに楽しい子達だった。ドレスって苦しいって聞いてたけど、余裕で1日過ごせちゃったよ。
その日のぐっすり寝て、朝はフワフワタマゴにやっぱり品数が多かったけど、ぺろりで気合い十分で医師免の残りをして翌日半分すれば試験終了する。
大丈夫いけるって、服を期待してダッサイって言われそうないつもの服を着る。
・・それでどうだったかっていうと、サイズは計られなかったけど、また服を着せられて試験を受けて昼にキャアキャアして、お昼後も試験した。
その後センターってトコにみんなで行ってアタシは大絶叫だった。
だって全部可愛いんだもの。
でもお小遣いが少なくて、おみやげをショボくするワケにはいかないから泣く泣くちょっとだけ。選べないから全部あの子ってクジのを箱買いした。
また夕食でワイワイして、恒例の合否発表。
今日のは受かったりダメだったりだけど初日のがみんなの本命がほとんどだったらしくサッパリしてた。アタシは明日も続きの試験、がんばるぞ!
そして3日目は半日試験と実技をまたして・・パンパカパ〜ン! 合格ぅ!!
やったぁって叫びたいのに涙がポロポロ出て止まんない。
今までの色んな事が頭に流れる。辛かったことの全部が身になってるって思う。
うれしいって言っちゃったら、ナシにならないかな。大丈夫かな。
泣きすぎて周りに人達からも心配されてる。でもでも・・
たぶん半時間くらい号泣してて「落ちちゃった可哀想な子」って認識だったみたいだったって後で聞いた。
食堂にはウチのグループだけいて「気にすんな」って抱きしめて慰められた後、みんなにパカンされた。「「「「まぎらわしいっ!!」」」」
ハイって見た時に「このマイナスって付いてるの何」ってなって、「そういえば前のもプラスってあった」って受付で手紙を受け取った。
「薬師プラスっていうのは、調剤での新しい方法を見つけたってことでのプラス評価ってことで、医師マイナスというのは全員に付く仕様で経験を積んだと判断されたら立派な免状が贈られるってことだって、麗しの巫女に会えるかもよ」
またポロポロ涙が出て、みんなぎょっとしてる。「ゴメンネ、ありがとう」
ゴハンの後はみんなで塔にいって階段・・はすぐ諦めて昇降の道具で上がって、聖国を見渡した。広い街だけどその先は森で、この国はそれだけ。
がんばって諦めなかったから今日がある。
「アタシ医師になるためにずっとやってきたけど、気が付いたらやりたい事はそれだけじゃない。色んなことをしたいし、その可能性を手に入れて帰りたい。試験取れるだけ取るつもりだよ」
ニヤッて顔いっぱい。「もちろん、俺たちもだ」「私も!」
その後、本の店に行って有り金全部ドッサリ買って、そこで解散した。
受かりそうな試験の追加勉強をして確実にするつもり。
色んな試験受けたけど、全部今までがんばったことに繫がっている。
帳簿付けるのに簿記は必要な資格で、患者さんが元気になってもらうためには栄養士っていう新しい資格も取った。医療事務の認定資格とか共通語2級や御者とかあって、字の綺麗さって資格もある。
心理学っていうのは落ちた。問題がよく分からなかった。他にもあるけど名前自体を知らないのはやっぱムリ。認定ならいけるというのは甘かった。
全部がドレスってワケではなくて、普段使いできそうなオシャレなだけの服もあるのは、選ぶ人のその時の気分次第みたい。
昼に出会う時が楽しみだったし、他の人達の服を見るのがウレシイ事だった。
オシャレって自分に遠いものだと思っていたけど、服って気分が上がるモノって思った。それで「今さらなんだけど、宿とか試験所に男の人がいないね」
「でたっ。ホント今さら。部屋で剥かれるんだから男女分けるのは当然でしょう。あと地域によっては差別するのいるし」「あ〜ある。男がエラいって信仰か」
「これいうのも今日が最後か。さびしいな」「商会入っちゃえば、出会う機会ってあるらしいから、またねって言っとくわ」「俺はまだ考え中」「う〜ん。そうね」
そう簡単には決められない人もいる。私はどうしよう。歓迎される気でいたけどカードゲーム出来そうなくらいあるから、いじめられる姿しか思いつかない。
遊び回ってる裏切りものの後輩連中には落ちたことにして、失意で退職ってことにしとこ。治療院をよくしようとか何様だったよ。アタシは推しに活きるって決めたし、郊外に出来たってとこ行ってみようかな。
アソコでは出る杭だったっていうのは自覚してたけど、それより良くしようって
気持ちの方が強かった。何をするにも壁があってそれをかなり広げたつもりで
いたけど、同じ志を持っているって思っていた後輩達は現状程度で良いんだろう。
反発も気持ちが限界だったようだから、もう終わり。
いなくなった後がどうなるかはいる人達やエライ人達が考えればいいこと。
アフターでざまあっていうのはなくて、そう順応していくだけソウイウモノ。




