行方不明
公爵家令嬢ミネルバ=エトワロットは知らせを聞き動揺を示した。
「どういう事なのですか!?アメリア様は、こちらへ来る手筈だったでしょう?!」
その声には困惑が含まれており、騎士らは怪我をした体で膝をつくと頭を下げる。
「も、申し訳ありません。突然の襲撃。しかも相手は何か薬を使ったのか身動きが取れなくなり、、申し訳ございません。」
ミネルバの顔は次第に青ざめはじめ、ソファへと倒れるようにして座ると額を手で押さえた。
ハンスの婚約者筆頭であるアメリアは、ハンスとの不仲が疑われており、それならば自分が妃の座にと考えたミネルバは、アメリアと話のできる機会を伺っていた。
公にアメリアを誘っては他の令嬢方にばれてしまう恐れがあったからこそ、このタイミングは自分にとっては絶好の機会だと思った。
だまし討ちはいけないとは思ったが、後から説明をすればいい。
そんな軽い気持ちだった。
ハンスと不仲なのであれば、自分をハンスに押してもらおう。そんな甘い考え。
「ば、ばれなければいいのです。しょ、、、証拠はありません。これは不慮の事故です。」
自分に言い聞かせるように呟いた言葉ではあったが、このままでいいわけはないであろう。
だが、もしこれがばれれば自分達はおそらく罪に問われるであろう。
どうすべきか、ミネルバが思案している時であった。
突然外が騒がしくなったかと思うと、侍女が慌てたようにして部屋へと走りこんできた。
「お嬢様!陛下が!陛下がおいでになられました!」
その言葉に、ミネルバは一層顔を青ざめさせると、立ち上がり、どうにか美しく頭を下げ陛下が現れるのを待った。
扉のあく音がして、コツコツと複数人が部屋に入ってくる。
「顔を上げろ。」
ゆっくりと頭を上げ、ミネルバは後悔した。
ハンスも、その後ろに控えるルルドやテイラーも、その形相は、いつも見るような雰囲気は一切なく、罪人を見る蔑みを含んだ瞳で自分を見つめていた。
「アメリアとアマリーを、どこへやった?」
あぁ、全てがばれているのだとミネルバは知り、泣き崩れると温情を求めるように言った。
「は、話をしようと思って、連れ出してもらっただけなのです。陛下、私はアメリア様を傷つけるつもりなどございませんでした!ただ、私は!」
だが、冷たい刃のような声が響くだけであった。
「そんな事はどうでもいい。アメリアとアマリーは、どこにいる?」
「わ、分からないのです。屋敷へと連れてきてもらう途中で、、何者かに薬を使われて攫われたと。それだけしか。本当に、申し訳ございません。」
縋り付こうとしてくる令嬢を振り払うと、ハンスは言った。
「部屋で謹慎しておくように。事件解決後に沙汰を申し付ける。」
「へ、陛下。申し訳ございません!陛下!」
「別室へ連れていけ。アメリアとアマリーを連れ去った騎士らをここへ連れてこい。」
騎士らからの聞き取りを終えたハンスは、大きく息を吐いた。
小隊を率いてミネルバの屋敷を今探っているが、なんの手がかりも得られず、先ほどのミネルバの言い訳が本当の事だという事が裏付けられていく。
それはつまり、アメリアとアマリーの行方の手がかりは薄れていくという現実。
このままミネルバの屋敷で待機していても、何の進展もないように思えた。
「これでは、なんの手がかりもない。」
王宮に帰り作戦を立て直すべきだ。そうは分かっていても、もしかしたらまだ手がかりがあるのではないかと屋敷に居座り捜索を続けている。
項垂れるその様子に、テイラーは言った。
「せめてもの救いは、アマリー嬢が一緒についていてくれることですね。」
「あぁ。アメリア様も聡明な方だ。きっと冷静に対処は出来るだろう。」
そう言葉でルルドは言いながらも、苛立っているのは雰囲気で伝わってくる。
「アメリア、、アマリー、、、どこへ行ったんだ。」
ハンスの声が小さく響き、その場はしんと静まり返った。




