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覚悟

 アメリアとハンスは、庭を歩きながらしばらくの間、アマリーの話題で占めていた。


「アマリーは本当に可愛らしいですね。あの、ケーキを食べる姿が、本当に。」


「あぁ。そうだな。本当においしそうにケーキを食べるな。」


 だが、そうした会話もいつまでもは続かない。


 いい加減にアマリー以外の話をしなければと、ハンスは大きく息を吸うと、ゆっくりと言葉を選びながら言った。


「アメリア。私は、今まで自分の気持ちを、アメリアに伝えたことがなかったから、その、一応、一応伝えておこうと思う。」


「え?ハンス陛下のお気持ちですか?そ、、、そんなの分かっています。」


「へっ?!分かっているのか?」


「もちろんです。陛下は、私が、お嫌いなのでしょう?」


 その言葉に、ハンスは固まり、そしてまるで人形のような動きで首をぶんぶんと横に振った。


 アメリアはそんなハンスに、目を伏せて言った。


「お気遣いは無用です。分かっていることですから。ですから、私、覚悟を決めましたの。政略結婚ですもの。仕方がありません。陛下が以前言っていた通りですわ。」


 政略結婚だろうと、好きな人と結婚できるのだ。


 それで満足しなければならないとアメリアはそう思った。


「い、いや。アメリア。私の気持ちを勘違いしている。」


「え?」


「私の、私の事を好ましく思っていないのは、アメリアだと思っていた。」


「そ、それはどういう。」


 アメリアの瞳が期待に揺れた時であった。


 大きな爆音が響き渡り、ハンスもアメリアも音のした方へと顔を向けた。


 するとテイラーがこちらへと走ってくるのが見える。


「陛下!どうやら西側の砦で何かがあったようです。一時避難をお願いします。」


「ああ!」


 ルルドとアマリーもハンスの所へと駆け寄り、そして皆で一度避難をすることとなった。


 ハンスとルルドとテイラーは全体の指揮があり、アマリーとアメリアを軍の本部へと預けると、被害のあった場所へと急いで移動する姿が目に映る。


 アメリアはハンスの背を見送りながら、先ほど、ハンスは何を言いかけたのだろうかと心臓がうるさくなるのに気が付いた。


「アメリア様、どうぞこちらへいらして下さい。」


 護衛の騎士らに促されるままにアメリアは馬車へと乗り込んだ。


「アメリア様!?」


 アマリーは、騎士らに促されるままにアメリアが馬車へ乗せられた瞬間に思わず駆け寄ると言った。


「この馬車はどこへ行くのですか?ハンス陛下からここで待つようにと言われたのですが。」


 そういうと、騎士らはアマリーへ言った。


「こちらも危ないかもしれないとの話があり、一時、アメリア様の屋敷へと避難されるようにとのことです。」


 その言葉に、アマリーは疑問を抱き、馬車の扉の隙間に自分の体をねじ込むと言った。


「なら私も連れて行ってくださいませ。私も一人では不安なのです。」


「そうね。アマリーも一緒でないと、私も心配だわ。一緒に行きましょう。」


 騎士らは一瞬渋い顔を見せるが、その言葉に反対するようなことはせずに、アマリーも共に出発する事となった。


 アマリーは馬車の中でアメリアに言った。


「アメリア様。このタイミングで移動はおかしくはないでしょうか。」


「ふふ。アマリー考え過ぎよ。それに二人きりの時にはアメリアと呼んで。」


「アメリア、もしもの時には、全力で逃げて頂戴。いいわね?」


「アマリーったら、何も起こらないわよ。」


 そう、アメリアが言った時であった。


 馬車が突如として止まり、外で何か騒がしい声が響いたかと思うと、鋼の重なり合う音が聞こえた。


 アマリーはスカートの下に仕込んでいた短剣を構えると、閉めていた馬車のカーテンの隙間から外を見ようとした。


 だが、次の瞬間馬車が走り始めてしまう。


 馬車の戸を開けようとしたが、押しても引いてもびくともしない。


 アマリーは、落ち着いた口調で声を上げた。


「少し騒がしかったようですが、何かありましたか?」


 するとしわがれた男の声が返ってくる。


「ご心配にはおよびません。もうしばらくお待ちくださいね。」


「ええ。分かったわ。」


 アマリーはその声に確信を持つとアメリアに小さな声で言った。


「先ほどの騎士と違います。それに、先ほどまでは護衛の数が馬車の周りにかなりの数いたのにもかかわらず、今はこの馬車の足音しか聞こえません。おそらく、何者かの手によって、どこかへ連れて行かれそうになっています。」


 アメリアはその言葉に驚くと、心配げにアマリーを見た。


「本当、、ね。確かに、馬の足音が他には聞こえなくなったわ。」


 自分一人であれば無理やりにでもこの馬車の扉を蹴破って逃げればいいが、アメリアも一緒だとそうはいかない。


 敵が何人いるのか分からない以上、下手に動いてアメリアを危険にさらすわけにはいかない。


 アマリーはアメリアの手をぎゅっと握って言った。


「しばらく様子を見ましょう。ですが、もし逃げる機会があれば、自分の身を最優先にお考え下さい。いいですね?」


「え?え、、、えぇ。」


 戸惑うアメリアであったが、アマリーの言葉に頷いたのであった。



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