城下町
アマリーは何故、こうなったのだろうかとアメリアと二人で城下町を歩きながら思っていた。
しかも、アメリアはかなり行動的であり、護衛はすでにまいている。
「ふふ。アマリー。楽しいわねぇ。」
にっこりと笑うアメリアに、アマリーは苦笑を浮かべた。
あのハンス陛下の結婚相手探しのお茶会からアマリーはアメリアと文通する仲になり、そして今日は城下町へと遊びに行くという予定であった。
だがまさか、護衛をまいての城下町でのお買い物とは思わなかった。
二人は地味な簡素なワンピースに顔を隠すようにスカーフを巻いている。だがそれでもアメリアを見ると、その立ち姿だけで貴族だと分かるのではないかと思った。
その時であった。
「おやアメリアちゃん。またお忍びかい?」
「あら、八百屋の奥さん。ふふ。内緒よ。」
「おぉ!アメリアちゃんじゃねぇか。護衛をまたまいたのか?」
「肉屋のおじさまも、そんな事私はしませんわよ。ただ、少し早歩きし過ぎてしまっただけ。」
にこやかにアメリアは店の人々と話をしていき、そしてアマリーににっこりと笑みを向けた。
「皆もう顔見知りだから大丈夫よ。昔から仲良しなの。」
一体昔からとはいつからこんな事を繰り返しているのだろうかとアマリーが思っていると、アメリアはアマリーの手を取りぎゅっと握った。
「ルルド様には申し訳ないけれど、今日は私がアマリーを独り占めね。」
ヒマワリの花が咲いたような明るい笑顔に、アマリーは胸を撃ち抜かれるとだらしなく笑みを浮かべた。
「私こそアメリアを独占できて嬉しいわ。」
町娘ならばと、名前を呼び捨てにしようと決めた時は驚いたが、慣れてくると、こうやってアメリアと親しく出来る事がとても嬉しい。
二人は仲良く買い物を楽しみ、そしてちょうど昼時になった時であった。
アメリアは突然手を掴まれて、後ろを振り返った。
「探した。」
そこにはハンスがおり、アマリーが目を丸くすると、アマリーは体を後ろから抱きすくめられた。
「ひゃぁ!」
「見つけた。はぁ、良かった。」
「ルルド様?」
ぎゅっと後ろから抱きすくめられ、そして肩に顔をうずめられたアマリーは心臓がどきどきとなるのを必死に抑えようと頑張ってみるものの、ルルドの体温が伝わってきて、顔が真っ赤になってしまう。
「心配した。」
「えっと、今日は何かお約束はしていなかったと思うのですが。」
「婚約者とアメリア様が行方不明との連絡を受ければ、探さないわけがないだろう。」
ルルドの言葉に、確かにそうだなとアマリーが納得した時であった。
目の前にいたハンスとアメリアがしばらく睨み合いをしていたのだが、ハンスが口を開いた。
「いい加減、諦めたらどうだ?」
「は?貴方こそ、諦めたらどうですの?」
「私はもう覚悟は決めている。一体何が不満なんだ。」
「不満?」
「私が結婚相手になる事が不服なんだろうが、政略結婚だ。諦めろ。」
その言葉に、アメリアはハンスの手を振り払うと一瞥し、小さくため息をついた。
「貴方は、本当に、何にも分かっていませんわ。」
「は?」
「テイラー。私を送っていきなさい。アマリー、また遊びましょうね。では陛下、失礼いたします。」
「ちょ、待て!って、おい!」
アメリアは美しく礼をするとさっさと進んで行ってしまい、ハンスの護衛として陰ながらついていたテイラーは一言言うと慌ててアメリアを追いかけた。
「陛下、行ってきますね!」
「あぁ。」
人ごみの中に消えていくアメリアをハンスは見つめると大きくため息をついた。
「アマリー。巻き込んで悪かったな。」
ハンスの言葉に、アマリーは首を横に振ると、言っていいのかどうか悩んだが、口を開いた。
「あの陛下、僭越ながら一言よろしいでしょうか?」
「何だ?」
「あの、、、大変申し上げにくいのですが、陛下は何故アメリア様にはあの王子様スマイルを向けないのですか?」
「は?アメリアとは子どもの頃からの付き合いだ。そんなウソ通じるわけがないだろう。」
「あら、ならば、アメリア様の事を陛下はよくご存じなのでは?」
「ああ。知っているとも。昔から私の事が嫌いで事ある毎に口を出してくる。」
その言葉に、アマリーは首を傾げた。
「アメリア様は陛下の事を嫌いだとは思いませんが。」
「え?」
驚いたような顔をするハンスにアマリーは首を傾げた。
「アメリア様は嫌いな方に口を出すほどお人よしではございませんよ。そういう方は笑って受け流す力も持った完璧令嬢と、令嬢の中では人気が高いのです。」
「だ、だったらさっきの態度はなんだ?」
「あれは、ハンス陛下のお言葉が悪いのでは。もう一度、向き合って話す事をお勧めしますわ。お二人とも自分達の事になると少しむきになってしまうようですから。」
その言葉にハンスは顔をしかめた。
アマリーは苦笑を浮かべながら、一体いつになったらルルドは離してくれるのだろうかと心臓がすでに爆発しそうになっていた。




