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踏み出す一歩

 控室へと連れ戻されたアマリーであったが、部屋に入ると、何故かルルドに抱きすくめられていた。


 意外にも筋肉質なルルドの心臓は、通常よりも早く脈打ち、その音と暖かさにアマリーは硬直しながらも抱きすくめられていることに心地よさを感じていた。


 出来るなら、このままでいたい。


 そうアマリーが思った時であった。


 ゆっくりとルルドが体を引いた。


 少し名残惜しく思いながらアマリーがルルドを見上げると、ルルドは切なそうに顔を歪め、そしてアマリーの前に跪くとその手を取り口づけを落とした。


 軽く触れたルルドの唇に、アマリーは自分の顔がどんどんと赤くなっていくのを感じた。


「突然すまない。だが、キミが皆の前へと出る前に私の気持ちを伝えてもいいだろうか。」


「え?」


 突然の事に動揺するアマリーをじっと熱のこもった瞳で見つめ、ルルドはアマリーに届くようにとゆっくりとした落ち着いた口調で言葉を紡いだ。


「私は以前からキミの事を知っていて、ずっと、キミと話してみたいと思っていた。キミはとても素敵な人で、きっと会場に出れば皆がキミを称賛するだろう。私はずるい男だ。キミが称賛される事は喜ばしい事なのに、キミを皆に見せたくないと思っている。」


 言葉を一度切ると、ルルドは微かに笑みを浮かべた。


「私は、キミを愛している。」


 アマリーはその言葉に自分の胸が高鳴るのを感じた。


 ルルドの言葉が頭の中で反芻される。


「ほ、、、本当に?」


 思わずそう口にすると、ルルドは頷いた。


「ああ。だがけれど、分かっている。キミにふさわしい人は他にいるかもしれない。だからこそ、会場を見て、キミに求愛してくる者達と会話してからでいい。それでも私を選んでくれるというなら、私は、これからの生涯、キミを唯一として愛すると誓おう。」


 その言葉に、アマリーは心臓がぎゅっとなるのを感じた。


 自分を愛しているならば、強引にでも自分を手に入れればいい。そんな事を思ってしまう。


 けれど、ルルドは優しいのだ。


 だから私の気持ちを待ってくれる。


 アマリーは大きく息を吐くと頷いた。


「分かりました。」


「ああ。そろそろ時間だ。会場までは一緒に行こう。もし、会場で不都合な事や嫌な事があればすぐに私に視線を送ってくれ。いつでも助けに行こう。」


 会場でも自分の事を見守ってくれるのだという事にアマリーはほっとし、そしてルルドに守られているというだけで勇気が湧いてくる。


 自分の気持ちは、会場にいって他の者達と会話しなくても決まっているが、きっとルルドはそれでは納得しないのだろう。


 ならば、自分もちゃんと様々な人と向かい合ってみよう。


 そう、アマリーは心に決めて一歩踏み出した。




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