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腕の中


 王城内はきらびやかに飾りつくされ、美しい花々が飾られている。


 すでにハンスは王位に即き、全てがつつがなく継承された。


 そして今宵はハンスが国王として立ち、初めて行われる舞踏会である。今宵の主役にハンスが選んだのは、自分の命を救った勇敢な侯爵令嬢アマリー・レイスタンである。


 会場内は、アマリーが勲章を授与されるということに失笑を浮かべる者もいた。


 敏い者達はそのような失態は侵さないが、考えのない一部の貴族らや頭の弱い令嬢方はアマリーの事を思い出すとくすくすと笑い声を漏らす。


「久しぶりに動けるデブが見れますのね。」


 小さな声が会場で囁く。


「ぷぷ。あぁ、なんだか楽しみだ。」


 それは勲章を授与されるというねたみも含まれているのかもしれない。


 アマリーは会場の外にて待機し、後程王に呼ばれた際に登場する手はずとなっていた。だが、どうしても会場の様子が気になり、こっそりと覗きに来てしまったのである。


 だが、来て後悔した。


 自分の事を笑う者達がいる。


 それだけできらびやかな会場も、おいしそうなご馳走も色をなくしていく。




 アマリーとの婚約を解消したダンは、今回の舞踏会の場でアマリーが勲章を受章することに憤りを感じていた。あれは自分の剣である。それを偶然アマリーが利用してハンスを助けたに過ぎないのに、アマリーだけが得をするのが納得がいかなかった。


 しかもダンの失禁騒動は周囲にはあまりばれてはいなかったものの、分かるものには分かるらしく他の貴族令息らから笑われる日々が続いていた。


 それが原因なのか、ダンの婚約者探しも難航していた。


 ダンはこの鬱憤をアマリーにぶつけてやろうという気持ちで入口に立ったのだが、扉の近くにいる憂いた様子の美しい妖艶な女性を見た瞬間にそんなことなど頭からすっぽりと抜けた。


 美しい髪は結いあげられ、その首筋は艶めかしく白い肌が際立って見えた。


 そして何よりも引き付けられたのはその瞳であった。


 どこかで見たことのあるような美しい澄んだ瞳は、流れるように一度ダンを捕えるとすっと細められてから視線をそらされた。


 まるで一瞬が永遠に感じられるような感覚。


 ダンは一瞬でその美しい令嬢に心を奪われた。



 そうとは知らないアマリーは、咄嗟に目をそらしたものの、ダンの視線が自分に向いていることに焦りを覚えていた。


 何故ならば、もちろんこんな所で会いたくなどなかったからである。


 何で、ダン様がここにいるのよ!意味が分からないわ!ハンス陛下も気を利かせてくれればよろしかったのに本当に腹が立つ!


 あぁ、何でこっちに来るの?


 もう私など無視してくれればいいのに。それとも文句でも言うつもりなの?


 あなたに婚約者が出来ないのは、あなたが失禁したという事実を令嬢方がご存じだからよ!


 もう、こっちに来ないでと思うのに!


 アマリーの心中など無視をして、ダンは頬を赤らめながらアマリーの傍へと寄った。


「お初にお目にかかります。私は侯爵家令息ダン・オーレンと申します。月の女神すら嫉妬するほど美しい人よ。どうか貴方のお名前を教えてはいただけないでしょうか。」


 うっとりとしたような瞳でそう言われたアマリーは硬直していた。


 え?


 この人、私の事に気が付いていないの?


 ウソでしょ。


 ずっと婚約者だったのに、気づかないの?


 しかも何今のセリフ。


 私、そんな甘いセリフで囁かれた事なんて、今が初めてなんですけど。


 アマリーが黙り込んでいるのを、恥ずかしがっていると勘違いしたのか、ダンはアマリーの手をそっと取り一歩体を寄せた。


 その動作にアマリーは衝撃を受け、こうも人とは外見で変わるのかと悲しくなった。


「あ、あの。」


 アマリーは言葉が見つからず、どうしたらいいのかと戸惑っていた時であった。


 後ろからアマリーは体を引かれ、ルルドの腕の中へとすっぽりとおさめられてしまった。


「ここにいたのか。部屋にいないから探した。」


 いつもよりも距離の近いところでそうささやかれ、アマリーは顔を真っ赤に染めた。


 ルルドはほっと息をつくと、ダンに視線を移し静かな口調で言った。


「申し訳ないが、この人は後程会場に入られる。では、失礼。」


 そういうと、アマリーの腰に手を回しエスコートをしながらルルドはダンに背を向けた。


 アマリーはルルドが自分を助けてくれたという感覚に、喜びを感じるのであった。


 そしてそんな二人を見送りながら、ダンはそれでも未練がましくアマリーを見つめていた。



 

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