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狂気

 マダムには毎日体を揉みしだかれ、そうしていくうちに節々の痛みはなくなった。


 アマリーはマダムはすごいなと驚きながら、姉さん方には踊り方を懇切丁寧に教わった。


 元々体の柔らかかったアマリーだが、姉さん方の言う周りを魅了する踊りというものは、足先から指先まで全神経を使うものであった。


 姉さん方との会話を思い出し、アマリーは笑みを浮かべた。


「アマリーいいかい?客にはね、全身で見せつけてから、そして、目で落とすんだよ。」


「目で?」


「そう。美しく微笑みながら、流し目さ。これが決まれば国王だろうとなんだろうと落とせる。」


「え?いや、私には、、、、あ、いや。」


「え?もしかしてアマリーは好きな男がいるのかい?」


 アマリーは顔を真っ赤にしてぶんぶんと首を横に振った。


 だが姉さん方の表情はにやにやとしており、アマリーを生暖かい眼差しで見つめた。


「そうかい。そうかい。」


「なら、その男をしっかり捕まえな。」


「だがね、これまであんたを見くびっていたやつら全員にも見せつけるんだよ!」


「そうさ!今夜はあんたの舞台なんだからね!」


「頑張りな!」


 アマリーは全神経を使って踊っていた。


 今日は自分は餌である。


 エミリアーデは自分がマダムのところに囲われているとしり、わざわざここに招待してきたのである。そこには国王からのサインもあり断ることはできない。


 マダムは言った。これは一世一代の大舞台だと。


 自信を持って踊っておいでと言われた。


 姉さん方も背中を押してくれた。


 だからこそ、アマリーはもう自分を卑下せずに踊りきることを心に決めていた。


 もしかしたら周りから笑われるかもしれない。


 なんだあのポチャッ娘と言われるかもしれない。


 それでも、アマリーには今自信があった。


 マダムが毎日褒めてくれた。


 姉さん方が毎日励ましてくれた。


 それに、ルルドならばどんなアマリーであろうと笑ったりしないと思えた。


 自分を信じてくれる人がいるというだけで、自分を信じられる。


 アマリーは舞台の上で踊りながら、客が自分を真っ直ぐに見ているのが分かった。


 マダムに、姉さん方に鍛えられ上げたこの美しい踊りで、皆を魅了してみせる。


 アマリーは口元に微笑みを携え、そしてその視線を客に、王に、エミリアーデに向ける。


 エミリアーデは微笑みながらもこちらに殺気を放っている。


 男性も女性も口をぽかんとあけて、頬をほんのりと赤らめて自分を見ている気がする。


 だが、アマリーは気づいた。


 甘い視線が自分に向けられる中、ルルドに睨みつけられているということに。


 何故なのであろうか。


 もしかして、はしたないと思われているのであろうか。


 その途端急にアマリーは心配になった。


 ルルドに、嫌われてしまったのだろうか?


 だが、心が不安になろうがアマリーの踊りは完璧であり、陰りさえもアクセントのように妖艶に映る。


 男性達の視線は熱くなり、明らかに情欲を湛える視線も交じっている。


 そんな中、アマリーが踊り終えると、客からは拍手喝采が起こった。


 それにアマリーは安堵し、そして気合を入れなおした。


 きっと、エミリアーデが動くとしたらこの後である。


「美しい踊りであった。こちらへ。」


 国王の声が響き渡り、アマリーに国王とエミリアーデまでの道ができる。


 美しい所作でアマリーが歩くと、また感嘆の声があがった。


 舐めるような視線が体を這い、アマリーはそれを気にしないふりをしながら二人の前へと進み出ると跪いた。


 アマリーは今、ただの踊り子としてここにいる。


 だからこそ、ただの一民として跪くしかない。


「踊り子の娘よ。とても美しい踊りであった。名は、なんと申す?」


 王の視線は熱いものであり、アマリーは動揺しながらも答えた。


「アリーと申します。」


 名を念のために偽るが、国王は緩みきった顔で言葉をつづけた。


「アリーか。美しいのぉ。本当にのぉ。傾国の乙女ともいえるほどの美しさだ。どれ、こちらへおいで。」


 突然王に傍にと言われ、アマリーの動揺は激しくなる。


 傾国の乙女?


 自分はそんなたいそうなものではないが、今は動揺を悟られてはならないし、ただただ笑みを携えて国王に言われたとおりに傍へとよる。


「っきゃ!」


 横に来たアマリーの腰に国王は手を回すと、撫でるようにしてその手が下がる。


 全身にぞわぞわとしたものが走るが、アマリーが我慢していた時であった。


 エミリアーデの方にキラリとした物が見えたと思った。


 アマリーは驚きながらも冷静に、国王に刺さってもいけないと近くにあった燭台でそれを防いだ。


 周りからは悲鳴があがり、国王も突然のことに顔面を蒼白にさせている。


 エミリアーデの手にはナイフが握られており、その眼はもはや狂気を隠すことなくアマリーを見据えていた。


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