紳士的な言葉を希望
「一緒に来てもらおう。」
男のその言葉に、ハンスは冷静に答えた。
「私が誰かは知っているのか?」
「さぁなぁ。どちらでも構わないだろ?」
「構わないわけではないが、アマリーは逃してくれないか?」
ちらりとアマリーを見た男は、馬鹿にするように笑い声を漏らすと言った。
「そんなデブを庇い立てするとはな。だが、残念ながら、それは出来ない。」
「そうか。」
「やけにあっさりじゃないか。暴れないのか?」
「この人数相手にするのは難しい。」
ハンスの言葉を聞いた男は、嘲りのような笑みを浮かべると、手下に命令をしてハンスとアマリーに縄をかけると頭からすっぽりと麻袋をかぶせた。この麻袋がちくちくとして、はっきり言って顔が痛いし痒いので、ある意味、とても苦痛を感じた。
アマリーとハンスは馬車に載せられてしばらくの間ただただ運ばれていった。
途中で変な薬をかがされた為、次に目が覚めたときには頭がクラクラとしてアマリーは気分の悪さを感じた。
どうやら牢屋に入れられているらしく、鉄格子の中でアマリーはため息をついた。
恐ろしい程に、考えていた通りに事態が進みすぎて逆に怖く感じる。
その時、小さな足音が響き人影がやってくるのが見えた。
「やぁ、目が覚めたかい?」
アマリーは仮面をつけたその男性を見て、これは仮面をつけている意味があるのだろうかと思った。
歩き方や所作、声、瞳や髪の毛の色、それだけで目の前の人が誰かは一目瞭然であった。だが、仮面をつけているのであれば知られたくないと思っているのだろう。
アマリーは知らぬふりをして怯えたように言った。
「ここは、どこですか?」
「そんなに怯えなくても、貴方みたいなデブをどうこうする趣味はないよ。」
内心憤慨しながらも、相手が誰か分からない今ならはっきりと言ってもいいだろうと言い返した。
「誘拐犯の言葉を誰が信じると?失礼な人ね。」
言い返された事に驚いたのか、仮面の男は目を丸くした後に、にやりと笑った。
「へぇ。そうかな?デブはデブだろ?」
「それ、悪口って言うんですよ。紳士ならばたとえ思っていても口には出すものではありません。」
にやにやと笑いながら男は言った。
「これはこれは失礼いたしました。麗しの乙女よ。」
明らかにバカにした口調ではあったが、アマリーはにこやかに微笑むと淑女らしく礼を取った。
「ふふ。勿体無いお言葉ですわ。」
その事に仮面の男はじっとアマリーを見て、頭をかくとため息をついた。
「調子が狂うな。そういう所にハンスは惹かれたのか?なるほどなぁ、分からなくも、、ないか。」
仮面の男はじっとアマリーを見つめた。その視線がいたたまれず、アマリーは眉間にシワを寄せると、仮面の男はうんと頷いた。
「よし、決めた。アマリーは俺のものになれ。」
「は?」
その突拍子もない言葉に、アマリーは目を見張った。




