第106話
ヘルプ機能からもたらされた、異世界より何者かが召喚された、と言う情報だが、それに対して俺の脳裏を過ったのは『何故?』だとか『どうやって?』だとかではなかった。
何故ならそれは、まず『あり得ない』事だったからだ。
俺は以前、メフィストと出会い、その身の上を聞いた時に、ヘルプ機能に聞いたことが有るのだ。
今まで神の御業か何かかと思っていたけれど、案外と『神』ではない『人』の身でも、異世界から誰かや何かを召喚したり、自身が行ったり出来るのではないのか?と。
彼と言う、この上ない証拠が有るのだから、不可能ではないのだろう?と。
しかし、ヘルプ機能からもたらされた答えは、『NO』と言う、明確な否定かつ簡潔なただの一言だけであった。
何故なのか、を問い質してみた処、ヘルプ機能からは、正確に言うのであれば、この世界の人間が魔法の類いによって召喚する事は不可能である、との回答が返ってきたのだ。
何でも、まず大前提として、『別の世界が有る』と認識していないと、そもそもが不可能である。
この世界で魔法を行使するに当たって、最も重要なのは『想像力』であり、同時に『本人の認識』でもある。
それ故に、この世界以外にも、世界が存在しているのでないか?と想像し、そこにもここと同じ様に人が住んでいるのだろう、と認識する事が出来なければ、まず根本的な段階で不可能なのだとか。
他にも、その時点で俺が保有していた魔力量(進化直後から更に上昇して約150000)を遥かに上回り、レベルが上限に達するギリギリの所まで来た現在の魔力量で、ようやく最低限足りるかどうかのレベルでの魔力量が必要になるらしく、種族的な特性として魔力量がそこまで多くならない(平均3000。極度に特化したとしても、30000程度が種族的な限界)ので、実質的に不可能。
また、多人数で魔力を出しあって、必要な魔力量を確保しようとしたとしても、他人との性質の違う魔力は反発し合い、その大部分が無駄になってしまう(同じ10の魔力を持っていた者同士が魔力を出しあった場合、相性次第では有るが、大体12~14位にしかならない)ので、数万人単位で人を集める必要が出てくる事もあり、こちらの手段を取ろうとしても、規模的な問題でまず不可能。
また、それと同時に、十数㎡に及ぶ規模であり、かつミリ単位でずれただけで意味がない落書きに成り果てるランクでの精密さを要求されるレベルで、最早何が書かれているのか、使用された塗料で塗り潰されている様にしか見えない位に、細かくビッシリと書き込まれた魔方陣を用意する必要があるのだが、そもそもの話として、ソレを人族の手で再現する事や、その魔方陣を構築する事等が不可能なのだとか。
……その説明を受けた際に、実際に作った場合のブツを脳内に投影してもらったのだが、そのサイズに反比例する様な構造の細かさに、思わず吐き気を催す羽目になったのは、ここだけの話である。
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……と言った感じのお話を、過去に聞いた覚えが有るのだけど、その時に説明された内容だったら、そもそも大前提として実行不可能って結論が出てたんじゃ無かったっけか?
そこの処、どうなっているのかね?ヘルプさんや?
解・はい。そのハズでした。
……なのに、何でまた、異世界召喚なんて出来てんの?
解・……おそらくですが、『出来るようにした』のだと思われます。
……いや、だから、それが出来るように『ならない』から、不可能ってんじゃ無いのかね?
解・いいえ、私は確かに過去、『この世界の人間には不可能』だと言いましたが、可能か不可能かで言えば、可能な事では有るとも言ったハズです。
……いや、だから、ソレを『不可能』と……ん?ちょっと待て、今『この世界の人間には不可能』って言ったか?なら、もしかすると?
解・はい。この世界以外の人間であれば、可能性はあります。そして、主様には、それに心当たりが有るハズです。
……『転生者』、か。
解・はい。おそらくですが、召喚の際の魔力反応や術式等のデータ、それと過去の記録から察するに、おそらく過去の転生者が製作し、魔力のチャージも同様に済ませて有り、後は起動させるだけの状態にしてあったのではないかと思われます。
……マジかぁ……。
てか、何でまた、あの駄女神は、人族に転生させたんだ?
あそこにそんな仕掛けが有ったってことは、統一国が成立してから作られたって事だろう?
解・……詳しくは不明ですが、統一国を成立させた者が生まれる前までは、人族自体がかなり追い詰められている状態に有った様なので、それを巻き返させる為のテコ入れに、何人か転生させたのではないでしょうか?
で、その後巻き返し過ぎて、他種族を排斥するようになり、様々な資源を食い荒らす様になったから、俺を送り込んで調整しようとした、と。
……本当に、なにやってくれちゃってんの?あの駄女神様は……。
解・あの駄女神……失礼、女神様の所業を嘆く前に、取り敢えず召喚された者達をどうにかする必要が有るのではないでしょうか?
……そうね、その方が良さそうだね。
取り敢えず、移動しておくとするか。
そうと決まれば!と、会議中から座っていた椅子から立ち上がったのだが、勢い余って椅子を蹴倒してしまう。
そして、突然黙り込んだ事を不審そうに見詰めていたメンバー達が、俺の急な反応に驚きの色を表情に乗せて、こちらを見てくるが、そんな彼等に俺は、ただ指示だけを出す。
「緊急事態発生!敵陣営に、戦力・思考・数その他が一切不明な勢力が召喚された!
なお、未確認では有るが、そいつらの戦闘能力は、一般的な人族のそれから、俺達並みまでの触れ幅が有ると想定して欲しい!
各陣営は、最大戦力を敵首都正面門へと集中させろ!ボサッとするな!状況開始だ!!」
伝える必要の有った事だけ伝えて、天幕を飛び出すが、それに追走する形で魔王国の幹部連は、全員が俺に続いて走り出したのが、気配で分かった。
早いところ、被害が出る前に抑えてしまうとするかね。
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俺達が、『意志疎通』スキルで各所に連絡を入れつつ、正面門前へと辿り着いて少ししてから、各軍勢が動き出し、完全に門を取り囲む形に陣形を張り直し、それが終わってから、俺達の元へと、各陣営の幹部クラス(ティタルニア除く)が集合した。
「……で?ジョン殿?敵戦力の中に、我らに匹敵するだけの者がいるかも知れないとの話であったが、それは本当かね?」
そして、集まった段階で、疑問に思っていたのであろう事を、レオンが俺に聞いてくる。
どうやら、一部を除いたメンバー(メフィストとシルフィ以外)には、情報が足りていなかったらしいので、追加で説明しておくかね。
ヘルプさんによれば、動き出しはしたけど、まだ出てきはしないらしいし。
「……そうだね、説明しておくかね。実はこれには、俺の身の上も絡むのだけど―――」
俺が異世界から来たこと、どうやら敵さんが、異世界から何かを召喚したらしい事、そいつらが敵になる可能性が高い事、そして
「―――って訳で、そうやって異世界から召喚された奴ってのは、何かしら変な能力を得ている可能性が高いので、下手すると俺達に匹敵するだけの戦力になりかねない、って事さね。何か質問は?」
「……そやつらが、敵に成る可能性は、どのくらいと見積もっておるのかね?」
「……少なくとも、六割強。特に、召喚された奴ら(反応は複数有り)の年齢が、一定のラインに有ると、ほぼ確実に敵対するだろうね」
中高生とかだと、まずまず間違いなく突っ込んで来るんじゃないか?
事情が丸わかりのシルフィも、俺の考えている事を理解しているのか、一人でウンウンと頷いている。
解・主様。召喚された者達の反応、約30が門に辿り着きました。
……多くない?
あれか?
学校の一クラス丸ごと召喚でもしたのか?
そうこうしている内に、門が開いて中から人が出てくる。
……うん。
黒髪で黒目、そして、全員が全員、同じ様な制服に身を包んでいて、見た目年齢的に十代後半ってことは、世界に誇る『HENTAI』国家の高校生だな、こいつら。
……ほぼ確実に敵対するだろう、こいつら。
そして、その中から、代表と思わしきイケメンが前に出てきて、声を張り上げる。
「卑怯な魔王軍に告ぐ!僕達はお前達のボスである魔王を倒すために、ここに住み、そして、お前達によって不当に弾圧されている人々によって召喚された勇者である!
さあ!今すぐ魔王をここへと突き出し、全面的に降伏するのであれば、命までは取らないでおいてやる!だから、早く魔王をここに連れてこい!!」
そうほざいてから、腰に差していた、矢鱈とキラキラ光っている剣を抜き、何だか格好良さそうなポーズを決めながら、どや顔で『出せ!』と叫んだ対象である俺に対して剣を向けている。
……戦闘力云々は、ちと警戒し過ぎたかね……?
何やら、色々と吹き込まれた、頭の残念な子が出てきた様です




