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SeLica ~Who am I ? ~  作者: 鴉野 兄貴
お父様。お母様。セリカ(芹香)は雨の日は少し安心して少し寂しくなります

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だっこ

たまにはさ、みんなで海にでもいかない?

え。そうね。そうよね。じゃ水着を買いに行くからセリカ(芹香)ちゃん頼んでいい?

うん? 適恵。私は海は嫌いじゃないのかって? ……嫌いじゃない。程度?

 薄暗く闇を照らす提灯の灯り。

それに照らされた合成肉を焼く煙の揺らぎ。

どこかから聞こえてくる太鼓と笛の音。

お祭りはこんな世の中でも行われる。


「うめじ」


 小さな足をぱたつかせて彼女は走る。

易々と転んだ先には大きな男の人の掌。

「あぶね」「へへへ」


「うめじ。だっこ」「わたしも」


 幼子を布でくるんで背負った男。

整った顔立ち。腰に一振りだけ差した大きな胴田貫。

温和そうな笑みを浮かべてすやすや眠る赤子に労わりの視線を向けてゆっくりと腰を落とす。

手が広がるなり躊躇なく飛び込む妹。『私が先なのに』

幼子でも嫉妬という心は知っている。

だが、幼子でも躊躇というくだらない気遣いはしてしまう。

『わたしがお姉ちゃんだから』

妹を抱き上げた男の腰が再び少し落ちて彼女の小さな指先に触れる。

「自分で歩けるか?」「うん」

彼女は幼いながらも力一杯に彼の指先を握りしめる。



「あなたはいったい何をしているのよ」


 食堂に入ってきた黒い肌の女を見て赤子である妹以外の二人は一斉に脅えて泣き出した。

「あなたが両手を塞ぐなんて普通にあり得ないわね。私がその気だったらもう死んでいるわよ」

「まったくだ」「と、いうより、これって逢引デート? 食事代を全額請求していいってことよね。人間の慣習に従えばだけど」


「おい。いい加減泣き止め」「無理よ。二人とも『弄っている』でしょう? あ。これは秘密だったっけ」


 美味しそうに曹達ソーダを呑む女性は戯れとばかりに店員が全員逃げ出した店舗の曹達の蛇口をいくつも開けて独自の混合を楽しまんとする。

グロテスクな色合いのそれを見乍ら愉悦の表情を浮かべて啜る女にげんなりとする男。


「『くろばら』。お前な」「あら。大佐殿。なかなか美味しいですよ。アナタもどうですか」

「大佐じゃないから。今は」「あらあら。『この世界』ではそうでしたっけ」


 おじょうたんもどう?

戯れに差し出された曹達水。つんとした香りが鼻水まみれ、涙まみれの鼻腔に届く。


 そっと器を手に取る。

物資不足の昨今だ。硝子がらすではなく木でできている。

「おいしい」「あら。剛毅ね」

器を女に返す。妹を背にかばっていたことに気付いた。

「私も欲しい」「あら。可愛い」


「あいつの娘たちだが」「あら? あなたの娘じゃないのね」


 名前が同じだからてっきりと続ける女性は自らの隣に少女たちを誘うが少女たちは脅えて動かない。

女は男に遠慮せず、背中の赤子を奪うように手に取ると堂に入った手つきであやしだす。

「大人しい子ね。名前は」「適恵。次の『遥 大地』だ」「へえ?」

一瞬戦士の瞳を浮かべた女は改めて赤子を抱く。「よしよし」


 観葉植物が所在なさげに揺れているのは女を怖れてというわけではないだろうが人間に植物の心など解ろうはずがない。

ましてそれが魔族ダークエルフならば。


「そっか。眷属が逃げたというけれど、この二人か」「一度遭わせたほうが耐性がつく」


 『眷属』にして『弄っている』って面白いわよね。

どちらの特性が勝つのかしら。女は戯れついでに店の調理器具を勝手に操る。

それを止めるべき店の主は既に彼女の足元で泡を吐いていた。

「えっち」誰も返事はしない。彼女は軽く店主の髭面を蹴って見せた。


「主を失った『眷属』だけど見た目は普通の『弄っている』人間の子か」「可能ならば平穏に暮らしてほしいが、そうも言ってられなくてな。悪いが二人ほど殺った」「別にどうでもいいわ。私たちはあなたたちと違って結束が薄いのよ」


 子供には解りにくい会話をする彼と彼女。

改めてわかったことは彼女の背には妹の腕があり続けたこと。

彼女が妹を守ろうとするように、妹も彼女を守ろうとしていた。


「どうぞ。美味しいわよ」女の華やかなほほ笑みは『魔族』とは縁遠い。

「本当にお前、魔族最強の剣士なのか」「剣しか取り柄のない時代遅れよ。アナタと同じ。魔法も苦手だし。……ニンゲンの言葉で言えば『変わり者』? かしら」


 恐る恐る口にした合成肉の料理は思ったよりずっと美味しかった。



……。

 ……。


 露出した乳房を隠す気力もわかない。

破れたタイトスカートからは血と汗にまみれた魅惑的な彼女の太腿が露出している。

少し下着が見えた。


 命乞いし、泣き叫んだ男は今はおとなしい。

ひとをころした。かすかな断罪の思いが彼女の虚ろな心に響く。

『惑わされるな。それはヒトではない』

魔族と呼ばれる存在を単独で倒す。それは人間にはほどんど無理と言っていい。


 これでおうちに帰れる。

彼女は傷ついた身体、ふらつく足を操り、帰路についた。

「うめじ。だっこ」

今日は、遠慮しない。

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