空高くより落ちて 刃煌めく日に思う
お父さん。お母さん。只今セリカ(芹香)は戻り……。
……。
……。
『人間というものは不思議な生き物だと思う』
魔族と呼ばれる身である彼は時々思う。戯れに女子供、時々男をかどわかし、快楽漬けにして楽しむには楽しむがどこかどうでもいい、言いようもしれぬ虚しさを感じなくもない。
『楽しみと虚しさは同居する』それは楽しみというべきか虚しさというべきか。
ああ。前に戦った男が言っていた。
『空虚』
困ったことだ。結構楽しんで生きているつもりなのだが。
ちなみに彼自身はその男のことには興味がないと同時にある程度の興味もある。
自らを滅ぼしかけた男ならばなおさら。
『ニンゲンは不思議な生き物だ』
同族である女が漏らした台詞に問いかける。如何。
「なぜ、無駄だと知って抗う」「抗うことが楽しいのかもしれぬぞ」
「無駄だな」「ゆえに面白い」
だが、彼らが個人で倒すことが敵わぬ竜どもを彼ら非力な人間たちは結果的に討った。
米軍の生き残りと旧日本軍の生き残りたちはここ、富士山麓にたどり着こうとしている。
『ペリカン』と呼ばれる米軍の生き残りたちが操る鈍重な鋼鉄の檻。
外連味を感じる異世界の言葉を抱く日本軍の機体。
それらは協力してあの竜を倒した。七匹もいたのに。
『ニンゲンは不思議な生き物だ。勝てなかった運命をも覆す』
『ニンゲンは不思議な生き物だ。今、魔王にすら届こうとしている』
あの剣士は頂を目指して戦っているのだろう。
ちょっかいを出しにいって遊んでやってもいいし、そうしなくても構わない。
「あの男なら『いや、面倒事を増やすな。上に登れなくなる』というだろう」
真顔で応える女の言葉が可笑しい。
なぜ抗うのか。
今なら解る気がする。
ゆえに理解する気はしない。
なぜ理解できるのか。
安らぎなるものから背を向けるのか。
安らぎは痛い。そして眩しすぎる。
この男なら人間の心など無い、自らと同じ『人でなし』に育ててくれるだろう。
だから、託したい。預けたい。
その先を見ることができないのは残念だ。破裂した眼球。
その声を聴くことができないのは残念だ。破れた鼓膜。
その味もわからぬのは血の味しかしない喉。潰れた鼻。
肌は焼け、傷つき動くこともかなわない。
もし、この娘がヒトだったら。
ヒトの心を知ってしまったら。
『傷つく』ことを知ってしまったら。
解らない。わからないほうが良い。
だが、興味がある。興味はある。
そしてその先を見ることはきっとかなわないだろう。
「あなたにお願いがあります」
娘は託された。
名はセリカとつけた。
人間の名前である。




