ダークエルフは老人介護に向かない
思いが通じ合っているのに、ちぐはぐなこともある。
「おかゆをお持ちしました」
セリカ(芹香)が静々と歩き、老夫婦に歩み寄る。
以前ほど容体は悪くはないが、それにしたって老人たちにとっては災難である。
セリカ(芹香)の微笑みに対して悲鳴を上げたり、うわごとを上げたり、
髪の毛が抜け落ち失禁したりと一時は危険だった二人の容体もだいぶ回復しているようだ。
「こ、こ、殺さないでくれ。妻だけは」「この人だけは許してください」時々意味不明の言葉を放つが。
何度も何度も言いますが。
セリカ(芹香)は小声でつぶやいた。
森田や常勝(悪意はないが間違っても本名で呼びたくない)、由香と訪れた時。
セリカ(芹香)はローブ姿の怪しい風体だったがこの二人は精一杯やさしくもてなしてくれた。
「私には悪意も害意も無いのです。ただ、ここにいたかっただけです」
雨が止んだあと、また来たいと思った。その時の友人たちは今彼女の隣にいない。
「また訪れたいな」思い出に残る、雨上がりの空を眺めて微笑む森田の表情は晴れやかで常に戦いに身を置く聖騎士にはとても見えず。
「素敵な音楽でした」セリカ(芹香)の腕を楽しそうにとって前に出る由香と、セリカ(芹香)が少しでも人目につかないよう、それでいて彼女が楽しめるように大柄の身を乗り出す破戒僧の背中。
「出て行ってくれ」小さな言葉が返ってくる。
ずきりと胸が痛む。もう一人の自分がいた理由を痛感する。
それでも、自分はこの世界に、人と共に歩むと決めた。
「おかゆ。置いて行きますね」
セリカ(芹香)は以前より売り上げの上がった帳簿を置いて、軽く私物をかたずけると店を後にした。
老人たちはセリカ(芹香)が去った後、降魔局の面々の介護もあって回復し、
久しぶりにバンドの人々やかつての常連客が戻り。かつて以上の賑わいを店は得た。
誰かがつぶやいた。
「あの魔族の子はいい子だったね。最初は驚いたけど」
「そうだね」「……そう思うよ」老夫婦は沈んだ声で返した。
空気を読んだバンドの人々が軽快な音楽を流しだした。




