ダークエルフは恋愛相談に向かない
素直になれないこともある。
「……」
注文もせずに押し黙り、席に座ったままの中学生にセリカ(芹香)は無言で緑茶を出した。
「……」
パタパタとはたきで埃を払う音。このはたきは家の精霊を招きよせ、埃を消し去っていく。
「……せりかさん」「なんでしょうか」
電子蓄音器のレコードを入れ替え、クラシック音楽を流す魔族の少女に声をかける江藤。
「太田君と適恵さんは? 」「今日は花やしきに向かうと申していました」
ケーキを取り出し、江藤に勧めるセリカ(芹香)。江藤は無言で謝意を表す。
「相変わらずお客さんがいませんね」「不徳の成すところです」
江藤が何気なくつぶやくと、
こちらに背を向ける魔族の少女の耳がパタンと垂れ下がった。江藤は吹き出しそうになった。
これがあの魔族とは。しかしこれが彼女の好きな女性である。
「ご一緒じゃなかったのですか」「……」
ぷいと面を反らす中学生の少女。
「あれだけ苛めて、今更ね」誘われたけど用事があるって言っちゃったとぼやく江藤。
「道場にも最近姿を現さないそうですね」「……うん」敵性音楽が流れる中、二人の時間が過ぎていく。
「太田って最近背が伸びてきたね」「『男子三日会わざれば刮目して見よ』ですから」
「適恵って可愛いし、素直だし、腹が立つほどあの二人似合っているよね」
嫌そうにカップを傾け、くるくると緑茶を揺らす江藤にセリカ(芹香)は微笑む。
「江藤さんって美人さんじゃないですか」
羨ましいですよと言われて江藤は複雑な気分で目の前の魔族の少女を『瞳を見ないように』眺める。
正直、嫌味にしか思えないほど目の前の女性は容姿が整っている。
江藤とて美貌に自信がないわけではない。取り敢えず適恵よりは上だと思っている。
それでも。ため息をついて江藤はぼやく。
「勝てないなぁ」そしてテーブルの上につっぷして伸びをする様子にセリカ(芹香)が苦言。
「婦女子がみっともない。しゃきっとしてくださいまし」はいはいと江藤。宿題を取り出して問題に取り掛かる。
江藤が問題を解いている間、セリカ(芹香)は帳簿を穏やかな表情で眺めながら、あちこちに赤鉛筆で印をつけていく。
江藤が問題を解き終わり、予復習を終わるころ、セリカ(芹香)は閉店の準備をしていた。
「長居してごめんなさい。セリカ(芹香)さん」「いえいえ」
「お茶と西洋菓子ごちそうさまでした」「はい! 」
日が暮れる前に女性は家路につかねばこの世界では危険だ。
武器を持ち歩かない江藤にとっては致命傷になりうる。
「次は私から太田を誘ってみる」
「こういうとき、『ふぁいと』と言うのでしょうね」
セリカ(芹香)の微笑みにつられて江藤も笑ってみせた。
「見送りに瑞姫さんをつけましょうか? 先ほどから」セリカ(芹香)が遠慮がちにつぶやくと。
「いたの。あの人。……絶対嫌だ」江藤の拒絶の言葉に瑞姫は泣いた。




