ダークエルフは権利団体の介入に悩む
権利団体を名乗る破落戸は何処の世界にもいる。
「この店舗が敵性音楽を堂々と上演しているという情報を得た。今すぐ店主は出頭せよ」強面の男がセリカ(芹香)が勤める喫茶店『ぽぷら』に乗り込んできたのはとある平和な昼下がりの頃だった。
小さなひまわりの花(※この世界では魔生物)を活けて歌を歌っていた少女はビクンと震えて振り返る。男と目があった。
半神族の少女。由は胸元にお盆を手繰り寄せて戸惑いの表情を浮かべる。
「貴様降魔か?! 」男の敵愾心に満ちた言葉に身を震わせる由。
捕えられ、焼印を押されて夢路に判断を仰がれた恐怖を思い出したからだが。
男は由の左肩から肘の間にあるものに視線を移した。
「『腕章』があるな」「え、ええ。私はれっきとした『社会生活可能知的生物』です」
彼女は自分以外の同族を知らないが。
「珈琲を出せ」「あ、あの。このお店は食券制度の先払いなのです」由は食券機を指さす。
「出せと言った」「はい……」気が弱くて優しい性質の由は押しが弱い。
ふわふわとした湯気が美味そうな香りを放つ。
堂々とタダのみを敢行する不届きな男に戸惑いの表情を浮かべる由。
「敵性音楽を降魔を使って堂々と上演しているそうではないか」「……」
「音楽権利団体として相応の賠償を要求する」「え」
由は少し考えた。
敵性音楽には当然ながら権利団体の管轄外だ。ほかに雅楽などの著作権がすでに存在しない古典音楽も含むが。
「私は降魔局の就職支援制度によりこちらに丁稚として出頭している身分ですので多くは言えませんがその要求は不当です。敵性音楽は確かに禁止されていますが罰則はありませんし、中央帝都政府においては存在しない音楽への権利団体は認められておりません。
……あと、降魔のことならば降魔局に訴えてください」私たちは『社会生活可能知的生物』ですと暗に抗議する由。
「そーだそーだ。由姉ちゃんの言うとおりだ。カネもなしに押しかけてタダで珈琲飲んでるんじゃねぇ」
いつの間にか店内にいた村上少年が抗議の声を上げ、男は怒りの表情を浮かべて立ち上がった。
「この餓鬼ッ 」「はい? 殴るの? ちょっとそれは大人げないと思うよ。小学生相手に」
小学生ながら堂々と由の前で両手を広げて彼女をかばう姿勢を見せる村上少年に舌打ちする男。
「とにかくッ 至急店主は我が団体に相応の賠償金を払うこと! わかったかッ 」「無理。病気でぶっ倒れてるもん」村上少年は舌を出して抗議する。
「代行ならいますよ」由は戸惑い気味につぶやく。
「そいつは金持ちか? 」「……退役将校の娘ですので、相応には」由は躊躇いがちに答えた。
「どうせモノを知らんお嬢様だろう。若いのか」「私よりは」
男は下卑た笑みを浮かべ、『代行』を呼んだが。
……次の日以降、まったく姿を現さなかったという。




