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SeLica ~Who am I ? ~  作者: 鴉野 兄貴
お父様。お母様。セリカ(芹香)はお盆までには帰ります。どうかご自愛ください。

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第二部 エピローグ お父様。お母様。先立つ不孝を御許しください。セリカ(芹香)は首になりました。

「何故。生きているのですか」呆然とするセリカ(芹香)。喜ぶ仲間達。

友との別離と新たなる出会い。真由美は恐ろしいことを告げた。

「セリカ(芹香)ちゃん。ごめん。あなたクビになったわ」

   暑い。

貴女あなたには無理よ』『変わって下さい。芹香さん』


 暑い。

『貴女と私は、同じ心の同じ"人間"ですから』


 暑い。暑い。暑い。

『私たちが愛している人は、私が愛しているヒト』


 暑い暑い暑い暑い。

『彼女は救いを求めています』『彼女は生きることを望んでいない。そして貴様ではあの女は倒せない』

うるさいのです。負けたのなら引っ込んでいなさい』『……』

『あとは、何とかします。今までかばってくれて、守ってくれて感謝しています。

 本当に、本当にありがとうございました。"芹香"さん』

『礼など不要だ。私はお前だから。だが、辛いぞ? 』

『覚悟。しています』『そうか』


 『とはいえ、この身体では』「相打ちがいい所だな。すまん』

『共に消えることにしますか? 』『任せる』『友達を止めてあげないと』『同意だ』


「「共に、消えましょう」」

 芹香『たち』は最後の力を振り絞り、灰と化していく身体で立ち上がる。

 彼女『たち』に背を向けたまま大きく手を広げる。桔梗。

 桔梗は振り返らない。かわそうとしない。まるで何かを待っているかのように。


 駆ける。芹香。今度は転ばない。

 身体のあちこちを白木の杭に貫かれ、胴から鋭い杭が伸びる。

 背後から桔梗にしなだれかかる。果たして『芹香』と桔梗はひとつになった。

『芹香』の腹を貫いた白木の杭はそのまま桔梗の心臓を貫く。

 最後に見た桔梗の微笑み。長年の友に感謝するかの様な笑みに芹香もまた微笑む。

 夜のささやきが塵となって消えていく二人の『闇』を風に載せ。月の輝きにと。溶かしていく。


 ……。

 ……。

 暑い。蝉の声が煩い。暑い。暑い? 暑いということは。

 彼女は恐る恐る瞳をあけた。地獄の鬼とやらは。いない。

 無機質な機械と寝台のある。病室。


「どうして。生きているんですか」

 セリカ(芹香)は疑問を口にした。夜着パジャマを捲くって見る。

 綺麗な縦線と大きな括れ。傷ひとつない滑らかで黒い肌。紛れも無い自分の腹部だ。


「『芹香』さんは」彼女は全てを思い出した。

 義父の精神処理が生み出した『彼女』の事を。

 彼女が傷ついたり、悲しんだりする要因を取り除いてくれていたもう一人の自分のことを。


 右手を誰かが握っている。杭に貫かれ、崩れたはずの彼女の指をしっかりと、暖かく握るヒト。

「むにゅー。すやすや」この『帝都』における彼女の親権者。おじさん。

 ハルカナル夢路ユメジ


 体中についた輸液の管をわずらわしく思いつつ、寝台ベッドから身体を起こしたセリカ(芹香)。

「気がつきましたか」穏やかな笑みを浮かべる聖騎士に微笑み返す。


 聖騎士。ジャスティンこと森田青年は病室の床に座り込んで様子を見ていたらしい。

 隣では暑さに参ったのか、胸元をだらしなく広げた破戒僧、常勝が高いびきをあげている。


「森田さんも眠っていればよかったのに」「監視役が目を離すわけには。交代で番を」

 セリカ(芹香)は苦笑する。「じゃ、私の寝姿をずっと見ていらっしゃったのですか? 」

 一気に頬を赤らめるジャスティンにさらに追撃をかけるセリカ(芹香)。

「まさか、動かない私に悪戯を」「していません」むきになるジャスティンに舌を出してみせる。

「からかったんですか? 」「智魅さんのマネをしてみました」そういって微笑む。


「なに? 森田。ヒトの娘に手を出しただと?! 」

 すっと表情が凍る二人。「むにゃむにゅ」……寝言。二人は胸をなでおろした。

 夢路が本気で暴れたら病院はおろか要塞でも簡単に破壊してしまう。


「変な冗談はやめてください」「ふふ」

 計器類の無機質な音がわずらわしくも暖かい。


「由香さんは」セリカ(芹香)は答えのわかっている質問をしてしまう。

「合わせる顔がないと」行き先は守秘義務があっていえないらしい。

「私たちもそうです。これでお別れになります」「……また、会えますよね」

 青年は穏やかに微笑んだ。


「多分。いえきっと」

 ジャスティンこと森田は眠りこける常勝をかるく蹴ると、芹香に軽く挨拶をして去っていった。

「婿がほしいなら、この常勝、常勝に清き一票を」「早く来い。常勝」

 スタスタと病室から出て行くジャスティン。へいへいと常勝は肩をすくめて。


 ……芹香の耳元でつぶやく。

「こんなのでいいの? あいつ、絶対お前に惚れているぜ? 」

「こんな身では」セリカ(芹香)は身体中をつなぐ計器と『過剰な拘束具』に苦笑した。

「それに、再会を約束しました。お二人は、約束を守ってくれる方ですから」死なないでください。


「あとは任せた。『図書館(としょかん)』」「貴方のように甘くはありませんよ? 」「そのほうがいい」

『図書館』と呼ばれたシスター風の衣装をまとった女性は冷たい瞳でセリカ(芹香)を眺める。


「『図書館』です」

 自己紹介らしい。それ以上は語らず、セリカ(芹香)の寝台の隣に椅子を置いて座り、編み物を始めた。


「由香さんは」「存じません」にべもない。

 芹香は夢を見ていた。由香と色々くだらない話をして。

 最後に、動けない芹香の唇に柔らかいものを重ねた由香はセリカ(芹香)に背を向け、手を振ったかと思うと振り返らずに扉を閉めた。


「あれは、やっぱり夢では」くちびるに残る追憶。

「ご想像にお任せします」一部始終を見られていたらしい。

「ゆっくり眠りなさい」「ありがとうございます。『図書館』さん」

 セリカ(芹香)の意識は再び闇に包まれた。



「セリ姉っ?! 」「芹香さん! 」「セリカ(芹香)ちゃん?!」

 病室では静かにしてください。ヒロキ君。

 セリカ(芹香)は寝た振りを決め込もうとしたが。


「セリ姉。スイカたべちゃうよ? 」「今すぐ食べます」塩味の薄い漬物は嫌だ。

「……」目の前でニヤニヤと笑う村上少年にバツの悪い笑みを浮かべてしまうセリカ(芹香)。

「もうちょっと寝たふりするなら襲っていいかなぁと」「そうそう」

「智魅。瑞姫さん。貴女たちは帰っていいわよ」真由美がお調子者二人を病室からたたき出した。

「おきたみたいね。セリカ(芹香)ちゃん」花のように微笑む真由美にセリカ(芹香)もまた微笑み返す。


「吸血鬼を倒すとは。流石だな」やさしい声に振り返る。『帝都観光』の白河軍曹だ。

 隣の寺島てらしま朋久ともひさ憲兵が微笑む。セリカ(芹香)もまた微笑み返す。

楼蘭人ローラント陸軍兵長に敬礼! 特進おめでとう御座いますっ! 』

 一様に敬礼をする村上少年をはじめとする学生たちに驚くセリカ(芹香)。

 兵長? 自分は二等兵だったはずだが。


「二階級特進。および吸血鬼災害を未然に防いだ功績により恩寵の時計を預かっている」

 セリカ(芹香)の長く綺麗に整った指をしっかり握る。夢路がささやく。

 意外にその整った顔が近いので苦笑いしてしまうが、前と違って頬を染めたりはしない。


「一度死んでいるからな。二階級特進。加えて二度もの功績。兵を束ねるに相応しい。そのまま兵長だ」

 やっぱり、自分は一度死んだのだ。セリカ(芹香)はまとまらない頭で物思いにふけ……。


「セリカ(芹香)さんっ?! お弁当の作り方はもういいのでご自愛をっ!?」

 思いっきり抱きつかれて思わず咳き込んでしまう。


「もう、江藤は心配しすぎ」「そうそう。江藤さんは毎日毎日見舞いに来てたんですよ? 」

「それ、黙っていてほしいって言ったじゃない?! 二人ともっ?! 」むきになる江藤にくすくすと笑う大田少年と適恵。

 さりげなく二人の指は遠慮がちに絡まっている。その様子に微笑むセリカ(芹香)。

「もうっ?! 二人とも意地悪しすぎっ! 」「江藤が悪いんじゃない? 」「くす」すっかり立場が逆転している。

 芹香の視線に気がついたらしい。適恵は含羞はにかむと大田の手を自分の後ろに引き込んで照れてみせる。大田は急に手を引かれたのでよろめき、思わず手近の『布』をつかんだ。


「……」「……」

 腰衣スカートを剥かれた江藤は悲鳴を上げ、適恵は顔を赤くして病室を出て行く。

 泣きつく江藤を宥めながら必死で適恵を追おうとする大田だが、江藤は太田をはなさない。

 大笑いする大田の母をはじめとする一同。大田の恋が実るのは当面先のようである。


「私。やっぱり死んだんですね」「ああ」

 指を見る。灰となって崩れたはずなのに。ある。


「桔梗さんは」「吸血鬼は、無生物と生物を繋げるほどの再生能力を持つ。知っているな? 」

 セリカ(芹香)は頷いた。彼女が戯れに生み出した人面犬などの眷属の恐ろしさは知っている。


「ダークエルフは、杭を腹に打たれた程度では死なない? 」

 セリカ(芹香)の問いに目を剥く夢路。「……楼蘭人のアレは」

 セリカ(芹香)は微笑んだ。「もう、大丈夫です」

 義父の精神処理は解けていた。解けているのに気づかないつもりになっていたのだ。

「お世話になりました。これからも宜しくお願いします」もう一人の『芹香』さん。


 夢路は無理やり話をそらすことにしたらしい。

「いや、杭は効果がある。あるんだが、吸血鬼ほど致命的ではない」「そうですか」

 セリカ(芹香)は自分の胸に手を当てた。柔らかい感触とトクトクと時を刻む心臓の音。

「桔梗さんは、ここ。ですか? 」「ああ。お前に再生能力を与えて逝った」

 一緒に消えてあげると言ったのに。セリカ(芹香)は桔梗を思い、涙を流した。


「セリカ(芹香)ちゃん。お取り込みのところ悪いんだけど」

 なぜか両手を合わせて頭を下げる真由美にセリカ(芹香)は激しく嫌な予感を覚えながら。

「なんですか。真由美さん」


「ホントごめん。芹香ちゃんの傷病休暇届出しわすれていたの」

 セリカ(芹香)の表情が凍った。


「セリカ(芹香)ちゃん、首になったわ」


 セリカ(芹香)は拘束具を『影』と『空間の歪み』で解くと、

 一気に五階の窓から飛び降りようとしたが。


「セリカ(芹香)ちゃんごめんっ?! 私が悪かったからっ?! 」

「セリ姉っ!! おちつけっ?! 」「セリカ(芹香)さんっ?! 」

 騒ぎの中でも『図書館』は編み物の手を止めない。関心も払わない。


「離してくださいっ?! 懲戒免職なんて生き恥ですっ?! 」

 ちなみに、一週間以内に再就職できないと『腕章』の更新がとまる。


「いや。俺のところで働けば」夢路が苦笑するが。

「死んでも嫌ですっ?! 」当然ですね。はい。


「離してくださいっ! 離してくださいっ??! 皆さん!! 」

「おちつけって! セリ姉っ?! 」「せりちゃん。飛び降りるくらいならおっぱい食べさせて」「嫌ですっ! 」「いや、だから就職先あるから」「無給期間が延びるだけじゃないですかっ?! 」「そうだけどさぁ」「こうなったら智魅おれと結婚で」「同性愛は収容所いきですっ! 」「いや、流石に魔族は常勝と違って五階から落ちたら無事では済まないから」「だから飛び降りるんですっ! 」


 『彼女セリカ』は人ではない。どこまでいっても人ではない。

 だが、純粋すぎて身を滅ぼした吸血鬼の少女と違い、彼女は傷つき、傷つけあいながらも歩いていく。

 理解されなくても。できなくても。ただ進む。それだけでいい。ただ。それだけで。


(SeLica ~Who are me? ~ 第二部。完)

これにて第二部を終了させていただきます。

第三部をお楽しみに。


第二部エンディングテーマ

「さかさまの空」SMAP 

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