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SeLica ~Who am I ? ~  作者: 鴉野 兄貴
お父様。お母様。セリカ(芹香)はお盆までには帰ります。どうかご自愛ください。

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第二十四話。泥棒さん。こんばんは。闇の綺麗な夜ですね

『眷属』について聞きたい? 長くなるけどいいかしら? (智魅)

『眷属』? 『我々ダークエルフ』のモノか? 『奴らヴァンパイア』のモノか? (『くろばら』)

『眷属』となった由香の『所有権』を求め、二つの魔が対峙する。

 「けがれた血を私に入れたのね」

頭の中が白くなった。気がついたらただ駆け出していた。闇夜の中を。


 「けがれた血を私に入れたのね」「けがれた血を私に入れたのね」「けがれた血を私に入れたのね」「けがれた血を私に入れたのね」「けがれた血を私に入れたのね」「けがれた血を私に入れたのね」「けがれた血を私に入れたのね」「けがれた血を私に入れたのね」「けがれた血を私に入れたのね」「けがれた血を私に入れたのね」

頭の中を友人のように、姉のように四半期を過ごした女性の声が響く。


 セリカ(芹香)は自分が泣いていることに気がつかなかった。

由香に輸血を行った所為で本来なら死んでいてもおかしくないほどの出血をしている事実も忘れて走った。

脚が鉛のように重くなったことに気がついたとき、彼女の身体は大きく揺らぎ、彼女の視界と心もまた支えを失って崩れ落ちた。


ケガレタ血 ケガレタ血 ケガレタ血ケガレタケガレタケガレタ ケガレケガレケガレケガレケガレケガレケガレケガレケガレケガレケガレケガレケガレケガレケガレケガレケガレケガレケガレケガレケガレ

セリカ(芹香)は自らの視界が歪む理由を理解できず。ただ、辛くて悲しくて、全てから逃げ出したかった。


 『言ったでしょ。愛するなって』『うるさい……です』意識を失う寸前、『あの声』が聞こえた。

『犯せ。殺せ。これ以上の"真実"はない』『……なら、私は、"嘘"に生きても。構いません』

"声"に身体があるなら、嘆息したのだろうが。


 「人の頭の中で勝手なことを言わないでください」

セリカ(芹香)は自らの唇を噛み締めた結果、口の中に広がった血の味をわずらわしく思いながらぼやけた心で反論する。

『人の頭? 私の頭よ。私と、貴女はオナジなんだから』「違います」

今度こそ、セリカ(芹香)の意識と心は身体を離れていく。

『私がスキなモノは貴女もスキ。そして。貴女が……』


……。

 ……。

 神道では死。血。出産。炎。汚れ。異性や同性との交わりなどをけがれと呼ぶ。

尚、『産めよ増やせよ』『名誉の戦死』等の都合から第二次世界大戦以降は出産や死がこの項目から外れた。

けがれはみそぎによって浄化される。


 『戦巫女』にとって必要なのは男性経験の有無ではない。処女性。

いわゆる穢れを禊いでいるかが大きな要素となる。

吸血鬼の『口づけ』。ダークエルフの『血』。性的興奮を伴い、身体すら作り変える。

最大級の『穢れ』が、『由香』と呼ばれる女性の身体に注がれた。


 『眷属』。

『吸血鬼』が体液を奪い、同時に精気を吸い、戯れに『残りカス』に対して自らの再生能力の一部を与えるように。

『魔族』は自らをそそぎ、身体を、心を奪う。『魔は心にある』を体現するがごとく。


 「だめ……私の中に……ケガレがハイッテキタ」

虚ろに呟く由香。儚げに。弱弱しく。風の前のちりのように。

彼女のささやきと共に、締め切った部屋になぜか風が吹く。


 「ハイッチャッタ ハイッチャッタ」

「常勝。抑えろッ! 」「落ち着け。由香」


 「あはは。あはは……汚れちゃえ。汚れちゃえ。汚れてしまえ」

剣を振る。血が飛び散る。剣を振る。自らの涙が飛び散る。

また剣を振る。大切な人が倒れる。また剣を振る。仲間と呼んだ人が倒れる。

剣を振って振って振って振って剣を振って振って振って振って剣を振って振って振って振って剣を振って振って振って振って剣を振って振って振って振って剣を振って振って振って振って剣を振って振って振って振って……。


 つう。由香の瞳から赤い涙が流れた。

「『眷属』ヲコロサナイト。オ父サンヲ コロサナイト」赤い血が手に広がる。光景。

「友達ヲ殺サナイト」「仲間ヲ殺ス」赤い血が飛び散る。思い出。

思わず手が緩む二人。彼らも。由香と同じ。


 ――― 『殺して』『もう私は貴様達が知っている私ではない』『俺を殺せジャスティン』『私を殺して。常勝』 ―――


 『私が。私でいる間のうちに』

救いは。他に無い。無かった。他に無いのかと苦悩することすら。なくしてしまった。

悪鬼魔道に身を染めて、それでも魔を討つ使命に身を投げた。


 安らぎなど捨てた。自らの安らぎなど、既に無かったから。望むこともできないから。

聖なる力に。悪鬼の力に身を沈め、ただ『魔』を討つ。

いつか『魔』そのものになり、『眷属』となって仲間に討たれるその日まで。


 彼等の心は聖を目指しながら魔のそばにあり、魔に剣を振るう。

出口の見えぬ戦いを続ける聖騎士。戦巫女。そして願武装僧。

戦い続けることのみが罪から逃れる手段であり、戦い続けることで更なる罪を生み出す。


 その先に光が差した。春の香りの名の娘。

不思議な娘だった。『魔』でありながら『正義神』が『悪』であることを否定し、

『嘘』をつかず、『魔』でありながら穢れの無い少女。


 様子見として、上から『監視』命令を受け、彼女と過ごす日々。

久しぶりに笑って。喜んで。ふざけあった。人生が『楽しい』事など忘れていた。

だから、忘れていたのだ。『戦う』事を。『監視』を言い訳に人に戻った罰。

罪を忘れた罰を受けたのだ。それほどまでにあの『春の香り』と『暖かさ』は抗えない誘惑だったのだ。

『魅了の瞳』や『蟲惑の体液』など関係ない。自らの問題。

『馴れ合う気など。ありませんから』大嘘だった。


 「常勝……」「嫌だ」

穢れは穢れで洗い流すことができる。

聖なる力でどうしようもない時のために最後の抵抗として『彼』はいる。


 暴れる女性を取り押さえようと奮闘する二人。

計器が砕け、瓶が割れ、硝子ガラスが砕ける。


 「俺はな。由香。何度も何度も心の中でお前を穢したがやっぱり」

いつものお前がいいや。じょうしょうは呟いた。


 「なら、殺してよッ! 頭が。割れるようなの。

殺せ。犯せって聞こえるのっ! 私の声よっ?!

私、『眷属』になっちゃったのよっ! 『邪悪』でしょ! 」


 「汝は、『邪悪』ならず。……よって『神罰』の執行を不可とする」聖騎士は呟いた。

「嘘つき」由香の舌が言葉を放つ。同時に彼女は舌を噛み切った。血が噴き出すが。彼女は死なない。死ねない。

常勝は答えた。「嘘も方便と申す」


……。

 ……。

 「ここ……は」

『ケガレタ血ガ 入ッチャッタジャナイノ』

大切な女性の声が脳裏にリフレインする。いや、大切だとかおもっていたのは自分だけだった。

『彼女』たちは自分を監視するために一緒にいたのだから。勝手に友人と呼んでいたのは自分。

迷惑だったのだ。ただ。迷惑だったのだ。あの困ったような微笑も、転んだときに差し伸べられた手も。


 よろよろと立ち上がるセリカ(芹香)。

一面は向日葵ヒマワリだらけだ。優しい黄色。暖かい緑。


 「ずいぶん、寝ていたのね」

大輪の向日葵の花のひとつにちょこんと座る。少女。

重力など無いかのように花びらの上に立つ。明らかに人ではない。

「私の名前は。『桔梗キキョウ』。此花コノハナ桔梗キキョウ。御機嫌よう。セリカ(芹香)さん」


 くすっと微笑む白い肌の少女。

艶やかな『魅力』がセリカ(芹香)に降りかかるが、黒い肌の少女は不愉快そうに頭を振るだけ。

「あら。案外強い意志ね」「貴女は、どなたですか? 何をなさっていらっしゃるのですか? 」


 此花このはなと名乗った少女。桔梗は血よりも赤くなまめかしい唇を動かして語る。

「泥棒の寝顔を見ていただけだけど? 」「泥棒? 」

「私の、血を分けた」「意味がわかりません」

セリカ(芹香)は首を振り、『桔梗ききょう』を睨む。


 「あら。恐い目」「不愉快な思いをさせて申し訳ありません」

セリカ(芹香)は桔梗を睨みながら軽く頭を下げ、謝罪の意を示す。

それでも。「……初対面の方に泥棒と呼ばれる覚えは無いのですが。どういう、意味ですか? 」


 沈黙。

桔梗はあざ笑うようにセリカ(芹香)に語る。

「わたしの『肉』に埋もれたコ。私の血が入ったコ。私の身体に入るべきコ」

桔梗はセリカ(芹香)に笑う。「ダークエルフ。去りなさい。あの子は私の糧に成るべきコ」


 セリカ(芹香)は答えない。

「貴女の血が邪魔なの。貴女がいなければあのコは私のモノなのに」

桔梗は告げる。「貴女の眷属になりたくないってあの子は叫んでいるわよ? だったら」


 『『断る』』

セリカ(芹香)の唇から二人分の『声』が洩れた。


 「『桔梗』さん。ここは退いてくださいませんか? 」

セリカ(芹香)はそうつぶやく。桔梗はくすりと微笑んだ。


 「なら、『私』は、退くわ。でも、いいの? 貴女の役立たずの『眷属』と私の『眷属』は違うわよ」

御機嫌よう。いい夜を。その言葉を残して桔梗は夜の闇に消えた。

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