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SeLica ~Who am I ? ~  作者: 鴉野 兄貴
お父様。お母様。セリカ(芹香)はお盆までには帰ります。どうかご自愛ください。

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第二十三話。私を殺して

身体の半分以上が無くなった。脳は『血』で侵されていく。

吸血鬼化か、『肉』と同化するかそれだけの運命。

『渡さん』悪魔の声。「殺してよ」悪魔は彼女の望みを無視した。

 「なん……ですか。コレは」

セリカ(芹香)ちゃん! ビルに駆け込んできた真由美は吐き気に襲われたが何とか耐えた。


 壁が、床が蠢き、『生きて』いる。

ゴキブリや昆虫、犬や猫。人間などの部品が雑多に組み合わされ、壁と融合し、

彼女たちが踏みつけるたびに激痛を訴える。


 「由香さんっ! ジャスティンさん! 常勝さんっ! 」

ダークエルフであるセリカ(芹香)はこの空間において精力を回復することができるのだが彼女は気付くことは無い。


 先ほどの人面犬と同じく、適当な生物同士、機械と生物を吸血鬼の回復能力の応用でくっつけた『モノ』が襲い掛かるが、真由美の蹴りの一撃で吹き飛んだ。

吸血鬼ではないならば遺伝子強化人間にして『眷族』である真由美の敵ではない。


 「セリちゃん! 真由美ちゃん! 戻れっ! 小型核で焼却処分する! 」寺嶋からの通信が入るが。

「お友達がいるんですっ! 」セリカ(芹香)は彼女には珍しく大声で反論した。

「あと5分待つ! 」もし5分経過したならば小型核を使ってでもこの空間を消さなければならない。後の甚大な放射能被害を考慮に入れてもだ。


 「……! 」

「せり……せりか。ちゃん? 」


 セリカ(芹香)はビルの中を駆け抜ける。

『壁』や『床』が襲ってくるがセリカ(芹香)を捕らえることはできない。

すべん。この状況でもセリカ(芹香)は転んだ。

一斉に襲い掛かる『壁』。しかし彼らは真由美の散弾銃の露となった。


 「由香さんっ! ジャスティンさんッ! あとついでに常勝さん!!? あと5分ですっ! 」

「ついではひどいぜ」ぽたぽたと流れる血。歓喜の声を上げる『床』を強く彼が踏みつけると周囲に梵字ぼんじが浮かび上がり、『床』が塵になっていく。


 「だって。常勝さんが死ぬわけないですから」

セリカ(芹香)はそういって悪戯げに笑い。振り向いた。

血まみれになりつつ微笑む破戒僧と目が合う。


 「まぁ。私に蹴られてピンピンしてたしねぇ」

真由美のヒールには魔導強化された銀板が仕込まれていて、ガードレール程度の鉄板ならば一撃で粉砕する。


 「やべぇ。血と汗でほとんどの経が消えているんだ」

改良が加えられているが、常勝の身体能力を強化する経を書く為の墨は安易に水で消えてしまう。

今の彼は少し怪力な僧でしかない筈なのだが。

また襲ってきた『巨大なゴキブリ』を金砕棒の一撃で粉砕する。

「やになっちまうぜ」その背後から完全武装をした青年が姿を現す。


 「悪い……な。常勝……」「いいってこと。お前の小うるさい説教が無いと寂しいからな」

「ジャスティンさん?! 良かった! 」「森田君っ!? 」


 「ちょ、ちょっと?! 楼蘭人さんっ?! 」「あっ……」

こんな状況でなければ微笑ましいのだが。思わず若い男性に抱きついてしまったセリカ(芹香)は頬を染め、ジャスティンはため息をついた。

無事を喜ぶセリカ(芹香)たちだったが、信じられない台詞を二人が吐いた。

「由香がやられた」


……。

 ……。


 しくじった。そのことを由香が悟ることはできなかった。

彼女の細く綺麗な下半身は敵の一撃に耐え切れず、どこかに吹き飛んで『床』の一部に吸収された。

細い腹部は液状になって消滅した。それほどの攻撃力だった。攻撃を受けたのは『腰』である。

肺から上の部分が支えを失い、だるま落としの要領で落下した。

肺から上は原型をとどめているが、吸血鬼の持つ自己回復能力によって『床』と同化していく。

血を求める喜び。快楽が体中を。脳を侵していく。


 「……かさんっ?! 由香さんっ?! 」誰かが呼んでいる。

「花子っ?! 花子ッ! 」「山田アァッ! 」モリちゃん。ヒジりん。その名前で呼ぶなと。

「あと1分ッ! 」「『経』爆裂を用意したっ! 核利用を止めさせろッ! 」

当たり前だが、帝都で核を利用すれば厳罰を避けられない。それでも吸血鬼の災禍はそれを上回る。


 「渡さんぞ」

誰かの声が聞こえる。『悪魔』がいるならば、こういう声だと思った。


……。

 ……。


 夢を見ていた。たまにしか帰ってこない父親と仲良く歩く。いろんなものを見てまわり、おねだりする。


 父親の隣には父の同僚のハルカナルおじさん二人。

血のつながりは無いらしいが兄弟のように仲が良い。

『魔の霧』に侵食されていく仲間を捨てて日本本土まで逃げ切った白系ロシア人の血を引く山田親子は目立つ。人によっては眉をひそめるものもいる。しかし、この二人は分け隔てなく付き合ってくれる。

遥さん二人にじゃれつき、父の大きな背中に甘えながら最後は帰るのだ。


 誰かが背中に抱きついている。誰かが笑っている。

「由香さん」「由香さん」じゃれ付いてくるやわらかい感触。

「馴れ合う気はありませんから」自分の声。

「はいっ! 」すごく。暖かい。気持ちいい。


 急速に意識がはっきりしていく。電子機械音が聞こえる。

誰かの声が五月蝿い。「奇跡だ」とか聞こえた。わずらわしい。寝かせてよ。


 ああ。血がほしい。血が抜ける。キモチヨクナリタイ。モットモット。

チヲクレ。チヲクレ。チヲヨコセ。ワタシカラ カイラク ヲ ウバウナ。

チヲヨコセ チヲヨコセ チヲヨコセ チヲヨコセ チヲヨコセ チヲヨコセ チヲヨコセ。


 『欲しいの? あげる。 いっぱい。 あげちゃう……』

『だから』『"吸血鬼アイツ"なんかにアナタをあげない』


『 あ な た は "私 の モ ノ " 』


……。

 ……。


 「ここは? 」由香は恐る恐る声を出す。

確か、吸血鬼と戦っていた筈だが。


 「由香……」

常勝の濃い顔が目の前にある。思わずひっぱたきかけて気がついた。腕が無い。


 「どうして。吸血鬼の肉に埋もれていて、生還できたのか色々聞きたいところなのですが」

医者が不思議そうに問う。


 「良かったっ! 由香姉ッ! 」

泣きついて来る少年は最近出入りしている交番によく現れる少年だった。

「どうして。私は生きているの? 」由香は震える声で言った。


 「……」

ジャスティンは答えない。


 腕が無いのは、この際仕方ない。胸より下が無いのも。今の時代ならばなんとかなる。

『普通は生きていない』だけだ。吸血鬼や、彼女の知る『アレ』は別として。


 「君は言うまでも無く、身体の大部分を欠損し。

大量の血液を無くした上、脳のほとんどを吸血鬼の『血』に侵されていた」

寺嶋の声がする。正直。実感がない。


 「『血』を追い出すためにそれ以上の血で強制洗浄を行うところだが……。

君の血液型は特殊でね。該当者が一人しかいなかった。『彼女』は快く応じてくれたよ」

それ以上は、言わないで。


 「殺してよ……」

由香は力なく呟いた。

皆は何も言わない。誰かが持ち込んだらしい白い花が力なくしおれている。

暗い病室に、無機質な電子音と、由香の声が洩れる。


きたない血が。混じっちゃったじゃないッ!! 」


 扉が。開いた。

病室の外で愛する友人の回復を喜び、花を持って入ってこようとした少女。

その言葉を聞いた少女は浮き足立っていた脚を。身体を奮わせ。止めた。

呆然と立つ少女。白い花が病室の床に音も無く落ちる。


 由香は冷たい声でもう一度呟いた。

けがれた血を、私に入れたのね」

黒い肌の少女は嗚咽を漏らしながら病院を走り去った。

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