第七話。貴女を護りたい
魔族が SEKKYOU☆開始。
「あなたたちは。最低です」
『お前が言うな』「小説家になろう」ではそういう説教をSEKKYOU☆と呼んで区別するという。
具体的に言うと転生時に神様からチート能力を貰った主人公が「努力が足りない」と説教するなどの状況を指す。
努力してないのはお前だ。
魔族は、最低とかそういうレベルの存在ではない。
存在自体が悪であり、恐怖そのものだ。
『気に入られ』れば最後、身体と魂を弄ばれた挙句、
残った肉の塊は快楽を求めて無差別に周囲を襲う化け物に作り変えられる。
勿論、セリカ(芹香)にそんな自覚はない。困った無自覚チート娘だ。
「適恵さん。帰りましょう」
セリカ(芹香)がそういうが。瑞姫は江藤を捕縛したままだ。
「瑞姫さん。その女の子を放してください」
セリカ(芹香)の言葉を受け、瑞姫は苦笑いした。
「すごく、美味しそうなんだけど。この子」
「食べるのはダメです」「性的に『食べる』のはいいよね? 」「絶対ダメです」
顔をほのかに赤らめながらセリカ(芹香)は苦言する。セリカ(芹香)の中で瑞姫は苦手になりつつある。
「む~。お姉さんとしては、こういう魂の真っ黒な子、逃がしたくないんだけどぉ? 」
瑞姫は顔をしかめる。「じゃ、セリカ(芹香)ちゃん。大人の快楽をお姉さんと一緒に」「却下します」
速攻でセリカ(芹香)から否定の言葉が返ってきて瑞姫はさめざめと泣いた。
「聖職たる教師が、『やりすぎるなよ』とは何事ですか? 本来止めるべき立場ではないのですか? 」
セリカ(芹香)の瞳が教師を捉える。教師は糞尿を噴出し、髪の毛が一斉に抜け落ちて何も聞ける状況ではない。
必死でセリカ(芹香)から逃れようとするが、既に手も脚も動く状況に無い。
「級友のあなた達。どうして誰も止めないのですか」
彼らもセリカ(芹香)の声が届く状況に無いのは明らかで、全員バタバタと倒れている。
「もういい。セリカ(芹香)。あとは俺がやる」
夢路は楽しそうに手を上げる。そしてセリカ(芹香)の口元を手で塞ぐ。
若い男性に手を触れられる経験のないセリカ(芹香)には口元を手でふさがれただけでも顔を赤くしてしまう原因になる。
「で。お前等どうするの? 」
夢路は楽しそうに笑う。
「野郎共。お前らが恋文を送った相手が、芹香に連れて行かれるぞ? どうするんだ? 」
其の言葉を聴いても動く男はいない。夢路は肩をすくめた。
「お前等は、好きな女も護れない。ムシだな。いや、ムシは命をかけて女と一緒になろうとするぞ。ムシ以下だな」
ムシと適恵を蔑み、酷い目に会わせつつ、護って欲しいなら恋人になれと手紙を送っていた彼らに対する侮蔑の瞳を夢路は送る。
「あ、あなたが護ってくれますよねっ? あなたは先の英雄、遥少尉でしょう? 」
だれか正気の残っている女生徒が叫ぶ。それに対して夢路は冷たい目を彼女に向けた。
「ほ、本当だっ?! 遥大尉だっ?! 」「魔族弐体と交戦して生還したという?! 」
「俺は戦車を両断したって聞いたっ?! 」「俺は核兵器を受けて平気だって! 」
「英雄? ただの人殺しだ。あと、保身しか考えない卑怯者は我らの帝国には要らぬ」
そういってあざ笑う夢路。どうみても悪魔である。
「行きましょう。適恵さん」
セリカ(芹香)が適恵の手を引く。
適恵が、教室から出て行こうとする。
「ま……て……」
倒れていた少年の一人が呟く。
「適恵さんを連れて行くなっ?! 魔族っ!!!!!!!!!!! 」
そういって、泣きながら筆箱をセリカ(芹香)に投げる。
「僕が、僕が、僕がっ??! 僕はっ! 僕はっ!!!! 」
其の少年は、適恵と同じか、それ以上に苛められていた。
便所に口付けをされ、服を脱がされ、身体に火をつけられて。
女子に蔑まれ、男子に殴られ、担任に全裸にされて授業すら受けさせてもらえない。
適恵を護るどころか、自分すら護れない。
だが。
「適恵さんを放せぇええええええええええええええええっ!!!!!! 」
彼は鉛筆を掴むと、セリカ(芹香)に襲い掛かった。その切っ先はセリカ(芹香)の優しい瞳。
ぱし。
苦笑いする夢路にその凶刃は防がれる。
「放せっ! はなせっ! 適恵さんを護るんだっ! 僕は、僕は、僕はっ! 男の子だぁああああ!!! 」
「ふーん」
夢路は笑った。
「お前等、ここに真の男がいるぞ? 」
そういって一同を見渡す。級友は驚愕していた。あのムシ二号がこれほどの男気を見せるとは思ってなかった。
鉛筆一本でダークエルフに立ち向かうなど、蛮勇を超えている。
「で。お前らは友達を踏み合い、蹴りあい、自分だけは助かろうって腹か」
夢路は笑う。そして呟く。「セリカ(芹香)。大丈夫か? 」
「少し……驚いただけです」
息も絶え絶えにセリカ(芹香)は答える。
彼女にとっては鉛筆を片手にいきなり襲い掛かってきた凶暴な少年にしか見えない。
「悪気はない。赦してやって欲しい。ただ、勝手に俺たちが級友を連れ出そうとしたから狂乱したようだ」
「理解しました。貴重なお昼休みにごめんなさい」
ぺこりと頭を下げるセリカ(芹香)に、少年は呆然としている。
糞尿で服を汚し、涙と涎で顔中が悲惨なことになっている少年は、「い、いえ。こちらこそ」と反射的に返した。
級友達にとって。この状況は意味が異なる。
『ムシ二号と呼んでいた男が、たった一本の鉛筆を手に、魔族に立ち向かい。なおかつ頭を下げさせた』
驚愕とともに、その事実は彼らの脳裏に刻まれた。
「適恵。お前はやっぱり家に帰れ」
夢路は糞尿に溢れかえる教室にしゃがみこみ、生徒たちと担任を睨む。
「この状況を放置したテメェ。担任の資格はない。教育委員会もそうだが、校長や教頭にも伝えておけ。
『遥夢路が怒っている』とな」「ひぃいいい??! 」
「あの……」「どうした? セリカ(芹香)? 」
おずおずと手を上げるセリカ(芹香)に微笑む夢路。
「このような案件がないようにするための提案があるのですが、小父さま。宜しいでしょうか? 」
「なんなりと。というか、俺は瑞姫に全員食ってもらうつもりだったんだが? 」「だよ♪ 」
『ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっ????????! 』
ガタガタと震える生徒たちを一瞥する夢路。
「でも、完食しちゃったら、太っちゃいそう♪ 」そういって微笑む瑞姫はまんざらではなさそうだ。
「この子は、絶対食べていいよね? この子だけは欲しいなぁ☆ 」
瑞姫はそういって江藤のうなじに舌を這わせる。ビクンと震える江藤。
既に江藤の身体には媚薬が回り、痛みを感じぬ身体になっているようだ。
「まて。セリカ(芹香)の話を聞け」
夢路にとって、江藤の運命はそれほど重要ではない。
実際、水桶に放り込んで水滴を垂らしてゆっくり溺死させるつもりだったくらいだ。
「これは、お父様が実際にやっていた部隊内の志気を保つ手法ですが」
手を上げるセリカ(芹香)は提案する。
「これを私はいじめと認識していますが、間違いありませんか? 」
「そんなつもりはっ?! 」「ダークエルフの眷属とは思いませんでしたっ?! 」
必死で弁明する生徒たち。セリカ(芹香)は無視して話を続ける。
「先生。どうなんですか? 」
「ひいいいいいいいいいいっ?? 申し訳ありませんっ! 失職したくないんですっ?! 」
ため息をつくセリカ(芹香)。ちなみに、セリカ(芹香)にしては本気で怒っている。
基本的に『怒り』の感情のない娘なので、落ち着いているように見えるだけだ。
「校長先生や教頭先生には報告しましたか」「してませんっ! 」
「校長先生や教頭先生は、『遥君一人が我慢すれば何事も起きない』と」
適恵が震える声で補足する。その補足に眉をしかめるセリカ(芹香)。
「適恵さん。今後は、そういうことがあった場合、私にも相談してくださいませ」
セリカ(芹香)の言葉に、適恵は遠慮がちに首をゆっくり縦に振った。
「これから、宜しくお願いします」セリカ(芹香)は深く、適恵に頭を下げた。
『ダークエルフが。頭を下げる怖ろしい相手』
適恵に対する認識は、この瞬間、完全に変わった。
「では。小父さま」
セリカ(芹香)は、その提案を夢路に話す。
そうすると夢路は「面白そうだな」と微笑んだ。芹香の提案は以下の通り。
1.
苛めの認知は本人、生徒、友人、担任などの教師誰であっても「この事案を心配している人がいた」と統一する。
そうしないと、加害者や其の親から『誰がそんなことを言った』と反撃されて事態が悪化する。
2.
必ず教師は一人ではなく、複数で対策チームを作り、複数いる加害者と一対一で話す。
3.
15分を基準に教師たちはそれぞれ加害者たちの証言を突き合わせ、矛盾点を見出し、情報を分析。
4.
2と3を繰り返す。加害者たちに「苛めの事実」を認識させるまで続ける。
5.
事実を認識した加害者たちに泣くまで反省を迫る。
なお、今まで学校で努力してきた成果(学業や運動会、部活動など)を挙げ、
「なのにお前は何をやっているのだ」と自省を促せるのが効果的である。
6.
加害者にすぐ謝らせると、「すっきりして」しまうため、一週間の間被害者との接触を禁止する。
7.
保護者を交えて話をする。
「ほう。楼蘭人のヤツも面白いことをする」
夢路は其の話を聞いて苦笑した。なかなか良いではないか。
「では、校長たちにも会ってこようか。セリカ(芹香)。同行してくれ」
「あの。私は部外者なのですが。これはあくまで提案で」「お前が責任を取れ」
そういって微笑む夢路。
「ところで、適恵がこいつらを『許さない』って言ったら、友人としてはどう思う? 」
「……友人なら、『許さない』と答えると思います」
『ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!! 』
彼らは一斉に気絶した。彼らは一週間もの間、父兄と共にダークエルフの来襲に脅える地獄を味わうことになった。
ちなみに、ダークエルフは『影から影に』移動する能力を持っており、逃げることは不可能である。
「じゃ、校長に話をつけてこよう。適恵。帰るぞ。……お前等。
『一週間後』適恵の返答しだいでは。どうなるか、解っているよな? 」
そういって微笑む先には、不思議そうな顔のセリカ(芹香)。
彼らは夢路の台詞を聞ける状況に無い。全員気絶しているからだ。
「あと、お前」「はいっ?! 」
鉛筆が折れるほど握り締めた結果、手が血まみれになっている少年に夢路は微笑む。
「ウンコまみれだ。保健室で褌と下穿きをかえてもらえ。ついてこい。行くぞ」「は、はい」
其の様子に、今回張り切って出てきた瑞姫は、
全員気絶した教室で延々と「の」の字を床に描いて拗ねていた。
夢路は瑞姫の様子に微笑みながら、少年の背を抱く。臭いは気にしていないようだ。
「そういう顔するな。お前は勇気がある」「僕に、勇気? 」
自分に勇気があるなんて。彼は思ったことも無い。
「お前は、誰より強い心がある。もちろん、アイツらなんて目じゃないほどな」ぼくに、強い、心??!
伝説の英雄と称えられる遥少尉の言葉が、彼の心に染み渡る。
「お前。名前は、なんていうんだ? 」「大田 正宣です」
「そうか、大田君」そういって夢路はガハハと笑う。
「遥のヤツに代わって、適恵との交際を許すっ!!!!!!!!! 」
「か、勝手に決めないでくださいっ?! 」適恵が顔を赤らめる。
「いいじゃないか。鍛えればコイツは伸びるぞ。交際はさておき、明日から一緒に道場でしごく」
「お、小父さまがそう仰るなら……確かに二人だけでは」
なら、決定だ。と夢路は微笑んだ。
「セリカ(芹香)。帰るぞ」「は、はい……小父さま」
下着を換え、服を換えた大田少年と歩き出す三人。
校長や教頭や学年主任はセリカ(芹香)の提案に『実に好意的に』応じてくれた。
大田少年に対する苛めもなくなることだろう。
「ところで」
帰路に向かう三人に。セリカ(芹香)は尋ねた。
「ダークエルフって。なんですか」




