第三話。『豆鉄砲』は御守りにしかならない
仕事明けの夕方、酒場に繰り出すOLたち。
ロッカーをあけ、化粧直しをして同僚の女の子とはしゃぎあう。
「今日は遅くなったわ」彼女たちは機関銃をバックに放り込んだ。
「私は、仕事に行くけど」
真由美は呟いた。「セリカ(芹香)ちゃんは、まだお休みにしてあるはずだから来ちゃダメ」
というか、今のうちに根回ししておかないと大騒ぎになる。職場が機能しなくなる。
「……いえ、無給期間だからこそ、誠実に働いて皆様に覚えていただかないと」
「気持ちは嬉しいけど、ダメ」真由美は念を押す。「絶対。『帝都観光』に来ちゃダメよ」
貴女は4月からの勤務なんだからこの家で大人しくしておいて。そう言い放つ。
ちなみに、仕事が始まるのは午前7時。4時が終業。春先なのにサマータイムだ。
真由美は若輩なので、本日は午後2時までには仕事が終わり、職業訓練の時間が始まる。
どちらかというと、訓練の時間のほうが真由美には辛い時間だったり。
「あ。予備の小型銃忘れた」
真由美は物騒なことを言うと、普段は小さく、使用時は即座に展開する小型軽量のサブマシンガンをバックに放り込む。
「買いたてだからなぁ。まだ慣れていないのよねぇ」
そういって、芹香に微笑むが、芹香の笑みは凍っている。
コレを至近距離でぶっぱなされたら、流石の魔族もかすり傷くらいなら食らう事もある。
今は朝5時。若輩にして真面目な真由美は早朝出勤が基本だ。
適恵は真由美より早く起床して、皆の食事を用意して、皆を起こして回っている。
当然だが、夢路はいくら適恵が揺り起こしても起きない。キスしても起きないだろう。
つんつん。適恵は幸せそうな顔を浮かべて夢路の頬をつつき倒し、
「では、行って来ます。小父さま」と微笑んで居候の部屋をでる。
この男は、毎日遅刻する。上司失格だ。
智魅は意図して起きない。実は誰よりも睡眠を必要としない身体だが、
いつも真面目な妹が揺り起こしに来るのを待っている。そして、布団に引きずり込んでからかう。
適恵が彼女を起こしに行くのはいつも最後だ。家事を大いに妨害する。
もっとも、其の後は手伝ってくれるのが上の姉との違いだ。上の姉はさっさと追い出さないと逆に家が散らかって適恵が遅刻してしまう。
閑話休題。
物騒な銃を見せられてセリカ(芹香)は固まっている。
「な、なんに使うんですか? 」「護身用の御守り? 気休めだけど」
魔族やその眷族に襲われたら、ただの豆鉄砲だ。
「あ。帰って来たら、日曜までにセリカ(芹香)ちゃんの銃を見てあげる」
とんでもなく物騒なことを言われて、芹香はぶんぶんと首を横に振るが、
「婦女子なんだから、銃くらい扱えないと」
と。真由美は不思議そうにいってのけた。
「この銃は反動を魔導処理で可也抑えることが出来るのよ? 」
代償に銀を沢山使わないとダメだから、賞与全額使っちゃったけどと続ける真由美。
「……大人しく、家にいます」
賢明な判断だ。主に暴漢の皆様が助かる。
「おっと、早く行かないと! 」
そういって、真っ暗な中、真由美は外に飛び出す。
「家にいなさいよ! 」
コクコクと首を振る。セリカ(芹香)。あんな銃が家の外では『護身用程度』。
ヒキコモリフラグが立ちそうな勢いだが、それはむずかしい話だ。彼女はどっちにせよ近日出勤しなければいけない。
無断欠勤は事実上、再就職不可能になってしまう。この世界の常識的にそれはありえない選択だ。
「……セリカ(芹香)さん」
真由美を送り出し、呆然としているセリカ(芹香)に、適恵が微笑んでいる。
「私も、学校に行って来ます」しずしずと頭をさげる適恵。
「……はい。学んできてください」通信教育で育った芹香には正直。適恵が羨ましかった。
「学校……楽しそうですね」「……」
芹香の一言に適恵の表情が曇った。
「私、通信教育で育ったので、お友達に憧れます」
芹香はそういうと、適恵の表情に気がついた。
「どうなさいました? 適恵さん? 」
「……なんでも。ありません」
走り去る適恵を見て、芹香は不審なものを感じた。
「……あ。お弁当」
適恵の弁当に気がついた芹香は、適恵を呼び止めようとしたが。
「お昼に届けに行けば。迷惑にならないでしょうか? 」
ひとりごちる。流石に早朝に押しかけては迷惑だろう。昼休みに学校とやらを見てみたい。
素敵な計画を思いつき、微笑んだ芹香は、早速夢路に代わって遥家の大掃除を開始した。




