五十三ノ罪 緑の風④
天使の神槍と咎の剣が激しくぶつかり合う。
鈍い金属音が絶え間なく響き、大地を覆う黒雲が二つに分かれた。
空はザイガに呼応するように
ミカエルは六枚の羽根を広げ、竜巻を次々に生み出しては、ザイガへと向け放った。
「また風か!亜久良、童子!避けるぞ!」
亜久良が指示出すよりも早く、傑が二人に指示を出す。
二人は傑の指示に反応し、ザイガの三対の異なる羽根を動かした。
瓦礫を微塵に切り刻むほどの鋭さを持った竜巻は、空を飛び続けるザイガを追跡し、尽きる事を知らない。
空高く飛び、逃げるザイガを追いかけるように竜巻は成長を続け、細く長い龍の様な姿へと変貌していく。
それに加え、ミカエルは白い球体をザイガに向け放つ。
真上に上昇していく悪魔の後ろを追い続け、ミカエルの放つ光を吸収。
それに比例し、白く輝く球体は加速を始め、大きさも最初にであった頃よりも更に巨大化する。
「童子!行けるか!?」
「任せて!」
亜久良の言葉に童子は気合いを入れて返事をし、力いっぱいに操縦桿に力を込めた。
ザイガは旋回を始め、竜巻と|白キ破滅ノカウントダウン《ヴァイス・クーゲル》に真正面から文字通り向き合う。
ザイガの腹部が大きく開き、深淵が姿を現した。
深淵は、四本もの竜巻も、天使の放った巨大なエネルギー体も飲み込み始め、周囲はザイガの吸引力、白く巨大なエネルギー体、成長する竜巻によって激震が走り、大地が、空が、大気が揺れる。
「うぐ……っ!ぐぐぐぅぅぅ~……!!」
ザイガのコックピット内も激しく揺れ、それでも尚、童子は全ての攻撃を吸収しようと意識を前方へと集中させた。
地獄の門が開かれたような轟音が、荒廃した東京の街中に響く。
人も、動物も、全てが無になった東京で、地獄の門は天使の裁きを消し去らんとその空虚にも似た異次元へと白い光を、荒ぶる旋風を送り込んだ。
しかし、ミカエルの攻撃は当然、それだけでは終わらない。
自身の高出力のエネルギー体を囮に、その陰に隠れ自身は神槍を構え、ザイガを一突きしようと突進を仕掛ける。
『熾天使の一突き』
それは、以前よりも精錬され、威力も大幅に上がった聖なる一撃であった。
白き神槍の鋭利な先端は悪魔の心臓を捉え、突き刺したかに思えた。
しかし、寸での所でザイガは機体を捻り、掠めるに至っては両手で神槍を掴み取る。
「喰らってたまるかよ!」
傑の言葉を無視し、ミカエルは神槍を握ったザイガを地面へと振り落とし、再度神槍を構えた。
『熾天使の一突き』
地面に落ちたザイガ目掛け、ミカエルは‘‘熾天使の一突き’’を放つ。
一発、二発、三発――。
加速度的に繰り出されるソレは常人では計り知れない速度で、地面に仰向けになっているであろうザイガを刺し続ける。
何発続いただろうか。
周囲には土煙が舞い、ミカエルの姿も、ザイガの姿も飲まれ見えなくなっている。
とどまる事を知らなかった一突きは、やっと動きを止め、ミカエルは静かにかつての敵であったザイガの最後の姿を見届けようとしていたが、ある違和感を感じ、すぐに空へ羽ばたく準備をした。
だが、もう遅い——。
空へ舞う為に広げた羽は、紅く、黒い御柱によって灼かれ、空へ立つこともままならない状況となり、瀕死と思われていたザイガはその黒く太い手掌でミカエルの頭部を掴み地面へと叩きつけた。
ザイガのボディは、アスロトの頑丈さを有し、それがミカエルの一撃から身を守ることが出来た要因となっていた。
しかし、直後に放ったアグリールは、傑の身体に多大なダメージを負わせ、次への行動もままならない。
亜久良は瞬時に次の行動を橋姫へ伝え、彼女は操縦桿を動かした。
ミカエルの頭部を掴み、地面へと叩きつけたザイガは、決して離すことなく——。
「しっ……かり……掴んでろよ……橋姫。もう一発お見舞いしてやるからな」
ザイガの胸部はエネルギーを集め、もう一度アグリールを放つ準備を進めるが、それを亜久良は止める。
「待て!もしそれで斃せなかったらどうする!?ただでさえ、さっきの一撃で致命傷には至らなかったんだ!もう一回放ったところで斃せる確証はどこにもない!それに、貴様の二発目の代償がどれほどのモノかも分かったものじゃない!今後の戦闘に影響が出るのか、普通に生活が送れるかどうかも怪しいのだ!むやみやたらに放つな!」
亜久良の言うことは正しい。
ザイガとなり、使用する‘‘アグリール’’は以前よりも大幅に強化された。
その威力は絶大なものとなり、未だに傑はアグリール放出後に訪れる罰を克服できず、現在もその衝撃に身体は蝕まれている。
これまで一度が限界であったものを二度も使うことは未知の領域であり、傑にどれ程の衝撃が訪れるか分かったものではない。
戦闘は可能なのか、ザイガは合体を保つことが出来るのか、そして……傑自身、無事でいられるのか。
そのような状態で、負担が激しい‘‘悪魔王ノ息吹’’を使うのは例え、天使相手であったとしても、とてもリスクがあるものであり、そんなものをむやみやたらに扱う訳にもいかないのだ。
しかし、そうなると切り札とも謂える悪魔王ノ息吹を使わずに戦う必要があり、亜久良は、どうやって目前の天使を斃すべきかを算段する。
真っ先に思い浮かぶのは、自身が担当する傲慢の専用武器。
羽根には内蔵されたザイガ自身を強化させる粒子が内蔵されており、目の前の天使を斃す為、解放する。
‘‘悪魔王ノ威厳’’
黒く羽ばたく羽根から、燃えるような紅く朧気に光る粒子がザイガの周りを漂う。
粒子を内包した悪魔の王はミカエルへと突撃し、右手に携えた剣を振るい始めた。
傑は先程のアグリールの反動で、動けない状態となり、代わりに亜久良がリーダーとして指示を出す。
攻撃力を上昇させたザイガの斬撃は凄まじく、ミカエルは防戦一方となるが、隙をついて距離を置いては、大蛇の様に波状に動く竜巻を再度四本、垂直に出現させた。
ミカエルはザイガへとその斬り裂く大蛇を向かわせる。
ザイガの巨体は後方に退き、距離をとっては、悪魔王ノ羽根から緑の粒子を流して本体に取り込み、万が一直撃した際に備え防御力を上げた。
更に蝿王ノ翅を激しく揺らし、土埃を巻き上げ、熾天使の大蛇を相殺するための防壁を作り、 それを防ぐ。
二種類の風はぶつかり合い、周囲の大気が振動する程の衝撃が走った。
四本の内、二本は壁と相対したまま、残り二本は進路を変え壁の外側から回り込んではザイガの巨大なボディを狙う。
風切り音は化け物の悲鳴によく似た声で啼き、コックピット内のパイロット達にもその声が耳に届いた。
「何なのこの音!頭の中が掻き乱れされそうな気持ち悪さ!」
「うぅぅ~!気持ち悪いぃ~!」
「耐えろ!耳を塞げば、反応が遅れて、奴の風にやられるぞ!」
「そうは言っても!」
「……だったら、俺が何とかするしかねーな!亜久良!お前の羽だけで、このデカブツの向きを少し変えられるか!」
「何をする気だ?!」
「いいから出来るかどうか答えろ!」
「無論やって見せる!どっちに動かせばいい!」
「右に頼む!」
「了解した!」
白狐の指示に亜久良は白き翼を動かし、機体を右へと捻らした。
左から向かってきた竜巻はザイガを掠め、衝撃が内部にも伝わるが、白狐はそれにものともせず、左の腕部を動かし、手掌で竜巻を掴む。
「よっし!奪ったぞ!」
「流石だ!白狐!助かった!」
「これで奴はあの面倒くさそうな竜巻は使えない!こっから反撃だ!」
『我の風を奪ったか……。だがそれだけで終わったとは思わぬことだ。他者の物を奪う穢れはここで払わなくてはならない」
「貴様達だって、人間の命を奪い取っているだろう!それに比べれば、貴様の風を奪ったくらい、可愛いものだろう!」
「我等は貴様達が行なっている愚行を正している迄。貴様達の人殺しと一緒にするな」
風を奪われた熾天使の神槍には、巨大な白光球が生成されていた。




