12 魔力と気力と霊力と
怪物犇めく洞窟の中。
鍾乳洞のように凸凹とした岩が散見される中、そのうちの一つの陰に悠人の姿があった。
「さてと……」
少し試してみたいことがある。
というのも、ついさっきLvΩになった情報体が関係しているのだが。
『認識LvΩ』。
主に眼球から得られる情報体だ。
ゴブリンもどきは眼球が十個もあるから、頭を狙わずに倒せばその全てからこの情報体を得ることが出来る。
たとえ頭を狙ったとしても、五つくらいは潰れずに残るため、比較的集めやすかった。
まあとはいっても面倒なものは面倒で、最初はゴブリンもどきを倒さずに情報体だけかっさらうことを計画していたのだが、それが無理だったのは誤算だった。
生き物からはどうやら情報体を得ることが出来ないらしい。
どうにもはじかれるような感覚があってダメだった。
死体は大丈夫なのに。
それはともかく。
この『認識』の情報体だが、これを『魔力』、『気力』、『霊力』の情報体を組み合わせれば、これまで意味不明だった羊皮紙の情報を少しは読み解けるのではないかと考えたのだ。
『魔力』、『気力』、『霊力』の三つは、どうやら生物の主要と思われる臓器から一つしか取得できないらしく、その数は他の情報体に比べてとても少ない。
その為あまり使いたくはないのだが、実験として少し使用するくらいなら大丈夫だろう。
「おお! これは……」
試しに『魔力Lv1』と『認識LvΩ』を自身の眼球に使ってみると、視界が色鮮やかに彩られた。
それは目を刺激するような色ではない。
全体的に寒色系のスッキリした感じの色合いのように思えた。
思えた、というのはそもそもその視覚が通常の感覚と違いすぎて、そう言い表すしかなかったからである。
正直これは、実際に体験してみないと分からないだろう。
言葉では言い表せない特殊な感覚だ。
自分の体を見てみると、青や紫の多い周りの景色に比べ真っ黒、純粋な黒とでもいうべき色が流れるように体の中を巡っているのが分かった。
周囲と色が違うのは、何か理由があるのだろうか。
悠人にその理由は分からない。
次に気力を視認する。
ただ、これはあまり魔力と変わらなかった。
寒色系の周りと、純黒の自分。
違いがあるとすれば、自身の黒は魔力のときより濃く、周囲に漂う青色は魔力のときよりひどく薄かった。
霊力は他二つと大きな違いがあった。
まず、岩や空気中など周囲には一欠けらも霊力は存在していなかった。
あるのは悠人の身体のみ。
それも少し異なっていた。
肉体にはほんの僅かだけ白っぽい靄が漂っているのみ。
しかしそれ以外に、悠人の身体と同じ形の濃い人型が身体に重なって見える。
本来の身体の方が実体があるというのに、靄の人型の方が身体より強い存在感を放っていた。
なんなんだこれは。
訳の分からないものに、悠人の体がぶるりと震える。
しかしその人型は何をするでもない。
悠人が右腕を上げると、それも同じように右腕を上げた。
霊力を見ようとしてこれが見えたということは、もしかしてこれは自分の霊体というやつなんじゃないのだろうか。
自分の身体と同じ形というのが、そんな感じがする。
しかし実際のことろは分からないので、何とも言えない気持ちだけが残ることとなった。
夢中になっていろいろと調べているうちに、一つのことに気がついた。
周囲に漂う魔力について。
それが、どうやら一定の流れを持って動いているようなのだ。
洞窟の通路に沿って、川の流れのように動いている。
これを辿れば、今までのように当てなくさまようだけだった状態に光が差すかもしれない。
しかし問題は、この流れの上流と下流、どちらを目指して進むべきかという事だ。
悠人はしばらく考え、上流を目指すことにした。
理由はそう難しいことではない。
簡単に言って、下流の場合ははずれがある可能性があると考えただけだ。
ただ流れているだけで、下流の方では溜まっているだけかもしれない。
川のように海に流れる保証はない。
下では渦巻いているだけで、意味が無いかもしれない。
それに比べ、上流の方ではこの魔力を生み出す何かがあるはずだ。
磁力のように全体で渦を作っているだけの可能性はあるが、何も指針がない場合よりはましだろう。
それにその場合は、渦の中心部に何かがある場合がある。
できれば『魔力』はLvΩまで上げて、消費を気にしなくて良いようにしたいところだ。
これが悠人にとってのこれからの方位磁針になるのだから。
――これまで以上に狩りをしなくてはならないな。
打開の啓示と戦いの憂鬱さが混じり、悠人は何とも言えない感覚に陥るのだった。
お読みくださりありがとうございます。
次回、ボスバトル! ……の、予定。