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第六話 地下迷宮ヴィーシ その4


 その夜、俺とキセーラが交代で見張りをすることになった。


 今は俺の番が終わり、キセーラを起こす。


「キセーラ、交代だ」


「もう、三時間経ったのか」


「ああ、俺はもうひと眠りさせてもらう」


 眠りにつき、翌日の早朝。


 各自、簡単に食事を済まし荷物を整える。


 俺たちは花畑のような地下八階の探索を再開した。


 歩く俺の隣にラハヤが並び、俺の首に掛けられた熊爪の首飾りを覗く。


「お兄さんのそれって、おじいさんの形見なんだっけ?」


「そうだよ。祖父が健在の時に、狩猟免許を取った記念でもらったんだ」


「シドーさんは、おじいちゃんっ子だったんですね」


「育ての親が祖父だっただけだよ」


 他愛ない会話をしていると、先行するキセーラが次の階段を見つけた。


「階段はこっちだ!」


 遠くにいるキセーラが手を振り、大声で呼ぶ。


 階段を降りて地下九階に到達した。


 森林のような地下九階を進む。光が余り届かない暗い森林だった。松明だけが頼りだ。


 俺たちは巨大なクモの巣に絡まる、新たな行方不明者の男を二人発見した。


「アラクネの巣に絡まってますね。あ、あそこにアラクネが居ました」


「俺は後ろ向いておくよ。あいつもどうせ魅了持ちなんだろ?」


 と言いつつ、横目で見る。上半身が女で下半身がクモの魔物だった。


「直視すると吸い寄せられますよ。最後には食べられます」


「そりゃ怖えな……」


「ラハヤ、松明でクモの巣を溶かしてしまえ」


「うん、分かった。燃やせばいいんだよね」


 ラハヤが近くの枝に松明の火を移し、燃えた枝を投げる。クモの巣の端が溶けて、行方不明者の男たちが地面に落ちた。


 怒声を上げたアラクネが這い出たところを、キセーラが毒矢で射抜く。流れ作業だ。


「シドー、終わったぞ」


「さて、どうしてこうなったか、聞くとするか」


 彼ら二人を合わせて、これで一七名を発見したことになる。どの行方不明者も多少の衰弱は見て取れるものの、命に別状はなかった。ただし、何故か半裸で近くには女性型の魔物がいた。


「あんたたちは誰なんだ?」


 目を覚ました二人は、少し衰弱した様子だった。だが、俺たちの素性を聞く余裕はあるらしい。


「まずは水でもどうぞ」


「……あ、ああ。ありがとう」


 俺が渡した皮製水筒の水を男が飲み干す。


「それでどうしてこうなったのか、聞いてもいいですかね?」


 男が渋い顔をした。


「誰にも言わないと約束するなら」


 俺たちは頷き、男がこの騒動の訳を話す。


「ギムレット皇太子は、幼少期から女性型の魔物が描かれた本がお好きな方で……。この地下迷宮が出現し、女性型の魔物が多く生息すると聞いた時には飛び出していた」


「それでこんなところに来ちゃったんですか?」


 呆れた理由だった。


 言葉を変えればギムレット皇太子は『近衛騎士を連れて魔物の女の子とキャッキャウフフしに地下迷宮へ行った』ということになる。そして、結果はこのざまだ。


「名目上は武功を立てるためだったのだ。平和な今の時代に武功を立てようとすれば、地下迷宮に潜るしかない。だが、実際はさきほど言った通り。くれぐれも他言は無用に……」


「ええ、分かってますよ。迎えはモイモイが魔法の小鳥で呼ぶので、あなた方は待機しといてください」


「お兄さん、すぐに降りる?」


「さっさと降りて色ボケ皇太子を救出しよう」


「内密な依頼になる訳です」


「シドー、階段はあっちだ。クーが勝手に進んでる」


 匂いが近いのだろう。クーが足早に進んでいた。


 クーの後ろに続き、地下十階に降りる。


 円形状の広間の中心に薄い布を纏う魔物がいた。その魔物もやはり若く美しい女の姿をしている。だが、両足が木の根のようになっていた。


「ドリュアスですね」


 ドリュアスの足先から伸びる根が、ズボンだけ穿いたギムレット皇太子を絡めとっている。彼は幸せそうな顔をしているが、顔色が青い。


「モイモイ、やっちまえ」


「せいぜい、皇太子は巻き込まないように火力は調整しますよ! ――紅蓮雷(フレイムボルト)!」


 火焔の雷がドリュアスを焼き払う。ギムレット皇太子のズボンに引火した。


「あち、あっちぃ!!」


 全く火力調整出来ていなかった。


「おっと、火加減が強すぎました」


「加減出来てねえじゃねえか!」


 下半身が火達磨になりかけたギムレット皇太子に、俺は急いで水筒を取り出し水を掛けて鎮火する。危うく俺たちが皇太子を暗殺するところだった。


「……お前たちは助けに来てくれたのか?」


「ええ、そうですよ。さあ、殿下、帰りましょう」


 これにて救出の依頼は成功し、銀貨二〇〇枚の報奨金という名の口止め料をもらった俺たちは、久しぶりに我が家に帰った。


 俺たちの名声も少しずつ上がり、精霊国への旅程を考え始めた矢先である。


 この日の深夜。外は満月で寝付きやすい夜だった。


 これまでが順調に見えても、俺たちの知らないところでは当然の如く世界は回っている。それは騒動も含まれている。そして今まさに、新たな騒動の足音が忍び寄っていた。


 いきなり屋敷の窓ガラスが一斉に割れて、そいつらはやって来た。


次回から鬼人と熊狩りと魔食会の話です。

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