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Bの後輩くん

Bとロゼのおまけみたいなものです。

 

 

 

 

 

 私は聞き逃さなかった。

 Bとロゼの一悶着があった後、B達宮廷騎士団は今後の日程等を話し合っていた。

 話の内容は完全に仕事のものなので聞かずにいたが、その中に聞き捨てならない言葉が紛れていた。

 どうやらBが可愛がっていたという例の後輩が、明日この店に来るらしい。

 Bに会いたがっているのでこの店を教えてもいいかといった話をしていたのだ。

 そんな面白そうな話を聞き逃す私ではない。


「A、私明日も来るわ」


「おう、ええで」


 何故って、見てみたいからだ。Bが体を張ってまで守ったその後輩とやらを。


 翌日、私とロゼは通常の三倍はあろうかという速度で仕事を終わらせた。

 仕事さえきちんと終わらせていれば、出かけようと遊ぼうと旦那様には怒られない!


「トリー準備出来た!?」


「出来た! ロゼ早い!!」


 急いでAの店に来てみれば、苦笑を零すAがカウンターの向こうに座っていた。


「まだやで。今Bが迎えに行っとる」


 どうやら間に合ったらしい。

 いつものカウンター席に腰を下ろすと、Aがりんごジュースを出してくれた。「搾りたてやで」なんて言いながら。

 ちらりとシュトフのほうを見ると彼女も同じりんごジュースをキラキラした目をしながら飲んでいた。どうやら美味しかったらしい。

 厨房からとてもいい匂いがしているし、なにやら音もしているようなのでもしかしたら赤松が来ているのかもしれない。


「しかしBが可愛がる後輩ってどんな感じの子なんだろね」


「せやなぁ。そもそもBが後輩を可愛がる様子とか見たことあらへんからなぁ」


 私とAはしばし昔を思い出す。

 赤松とAとBという三人のグループは危険なヤンキーとしてクラスの中で完全に浮いていて、あまり友達は多くなかったようだった。

 そもそも当の三人も、私が初めて見た時はそこまで仲が良かったわけでもなさそうだったのだ。

 だから私はコイツ等のことをこっそり人見知りだと思っている。


「生意気なやつだったら喧嘩売るだけで絶対仲良くなったりしなさそうだよね」


「それな。せやけど類は友を呼ぶ、っちゅーしな」


「あー、だとしたらクソ生意気じゃん」


 そんなことを言いながら二人でげらげら笑っていると、カランカランとドアベルが鳴った。


「なんでやねん。っちゅーか外まで聞こえとるがな」


 私達の笑い声が外まで聞こえていたらしい。そんなことよりも、だ。


「ほれ、ここやで。俺が今働いとる店」


「わぁ、いい店ですね!」


 すげぇイケメン来たんだけど!?

 背丈はBとほぼ同じくらいだけどどちらかというと細身ですらりとしている。しかしやはりそこは騎士、しっかりと鍛えられた素晴らしい筋肉をお持ちのようだ。

 少し長めのキラキラした金髪を後ろで結んでいて、それと同じ色の睫毛が縁取る瞳はアメジストのようだった。

 何が言いたいかっていうと、絶対モテる。あれは絶対にモテる。全然類が友を呼んでいない気がする。


「紹介するわ。こっちが俺の雇い主のオッド、ほんでこっちがこの店の従業員のシュトフちゃん、これが野次馬の葉鳥で、こっちが俺の恋人のローゼさんや」


「イーヴンさんに恋人!?」


 めちゃくちゃビックリされてるじゃんっていうか私の紹介雑過ぎないか。野次馬っつったな今。まぁ野次馬だけど。


「びっくりしすぎやろ。ほれ、お前ここ座れ」


 Bは苦笑を零しながら、後輩くんをテーブル席に座らせた。自分もその正面に座り、その隣にはロゼを座らせている。


「いや、だってイーヴンさんってなんかいつも寂しそうなわりに他人のことなんかどうでもよさそうでしたし……」


 そんな人がちゃんと人付き合いをしていることに驚いた、と彼は言った。


「想像でけへん」


 というAの言葉に、私はこくこくと頷く。


「わかる。もう他人のパーソナルスペースに土足で踏み込んでくるみたいなBしか見たことないもんな」


「お前等ちょっと黙ってもろてええかな? あー……まぁ、俺もコイツ等に会って変わったっていうか、な」


 Bは照れ臭そうに笑っている。

 よく考えたら、後輩くんが知っているBは、日本での記憶が戻る前のBなのだから、今とは少し違っていて当たり前なのだ。


「イーヴンさんが楽しそうで、俺嬉しいです」


 そう言って微笑んだ後輩くんは、どこかの神が作った彫刻のように美しかった。

 これぞまさに乙女の憧れ宮廷騎士団そのものなのではないだろうか。あれは絶対モテるわ。

 私が確信していると、視界の端で何かが動いた。


「昼飯出来たで。え、誰」


 赤松がひょっこり厨房から出てきただけだった。私の「お前やっぱり居たのか」という言葉に重なるように、Bが喋りだす。


「おう、前言うてた俺の後輩やで。あの人は伯爵や」


 後輩くんの何故伯爵が昼食を? という軽い混乱を尻目に、私達は折角なので皆で昼食をとることにした。

 メニューはチーズたっぷりのトマトソースピザに、角切りトマト入りボロネーゼというトマト祭りだ。なんでもトマトが安かったので大量に仕入れて赤松がトマトソースにしていたんだとか。


「へー、そういやBが騎士団退団した詳しい理由知らんかったな」


 昼食を食べながら、昨日居なかった赤松にも分かるように掻い摘んで昨日の出来事を教えている。


「まぁ揉めて退団って聞いたらそりゃBっぽいわ、としか思わないもんね」


「Bて元々短気やったもんな」


 私とAが笑えば、Bが「失礼ちゃう?」と唇を尖らせる。


「俺のせいなんです。俺さえ静かに耐えていれば」


 自分を責めようとする後輩くんの言葉を、Bが遮った。


「ちゃうよ。そいつ等の言う通り俺が短気やったからや」


 自分のせいだ、いや俺の、という論争が始まりかけたが、それは赤松の「いや悪いんは全部その上司ちゃう?」という一言で収まった。そう、誰がなんと言おうと悪いのは彼らの上司ただ一人。


「なぁなぁ、騎士団時代のコイツってどんな奴やったん?」


 Aが後輩くんに問いかける。私達が知らないBがどんな奴だったのか、私も知りたい。


「騎士団に入る前からかっこいい先輩だったんです!」


 キラキラしたイケメンがキラキラしたオーラを振りまきながらそう言った。眩しい。


「剣術はもちろん素手での対人格闘術も馬術も、どれも落ち度がなくて。誰よりも強くて、俺の憧れだったんです。だから、俺が無理言って弟子入りして」


 私達がBに疑いの目を向けると、Bはへらりと笑う。「筋トレばっかりやってただけやねんけどな」なんて言いながら。


「いずれ宮廷騎士団長になるんだろうなって、あの時は誰もが思っていたと思います」


 さらに疑いの目を向けると、Bは何も言わずにぶんぶんと首を横に振るだけだった。どうやら本人にそのつもりは一切無かったようだ。


「はぁ、あの上司さえ居なければ。……あの上司の仕打ちを見て助けてくれたのもイーヴンさんだけだったんです。皆あの上司を恐れて見て見ぬフリだったけど、イーヴンさんだけ」


 その上司とやらはコネ的な力でその地位を得た、みたいなことを昨日の宮廷騎士団の男達が言っていたし、皆そいつを敵に回したくなかったのだろう。


「イーヴンさんが冷たい目で上司を見下ろして、胸倉を掴んで「俺が辞めれば気が済むんだろう」って言ってそのまま上司を投げた姿、不謹慎ながらとてもかっこよくて」


 彼にとってBは憧れの先輩なのだから、その姿はさぞかっこよく見えただろう。

 ロゼもその話を聞きながらうっとりしているので、恐らくかっこいいと思っているはずだ。

 私はさすが脳筋ゴリラ、と思っている。言わないけど。


「俺、何から何までイーヴンさんに世話になりっぱなしなのに、恩を仇で返したってずっと思ってて……許してもらえないと思ってました」


「許すも何もまず怒ってへんし」


 彼はずっとBに対して申し訳ないと思い続けていたんだな。


「怒ってないどころか感謝してるくらいじゃない? 騎士団辞めたからこそロゼと恋人になれたわけだし。昨日だってあんなにイチャイチャしちゃって」


 明るく笑って、自責という重荷を下ろしてほしいと思った。きっとBもそう思っているはずだから。


「そうなんですか?」


「そうそう。こうやって、手なんか握っちゃって「ずっと一緒に居てくれる?」っつって!」


 丁度隣に居た赤松の手を握って再現してみたところ、ロゼに「トリー!!」とちょっと怒られたので赤松の手をぽいっと捨てて笑って誤魔化した。


「イーヴンさんをよろしくお願いしますローゼさん!」


「え、あっ、はい!」


 元気良く返事をしたロゼを見たBの表情がどこからどう見ても嬉しそうにデレデレしているので、後輩くんもきっと一安心だろう。


「あぁ、そうだイーヴンさん、俺、今度騎馬警邏隊に入ることになりました!」


 昼食後のデザート、りんごジャム入りのプチパイを食べていたところ、後輩くんが唐突にそう言った。彼の言葉を聞いたBは目を丸くしている。


「騎馬警邏隊?」


 私がそう言って首を傾げると、Bが我に返った。


「花形中の花形や。顔のええやつしか入られへん部隊」


 納得せざるを得ない。むしろ後輩くんのためにある部隊なのでは。


「あの日、イーヴンさんに負けるなって言ってもらってから、やっとここまで来ました」


「そうか。お前は花形部隊に上り詰め、俺はここで幸せに、なかなかええ感じの仕返しが出来たな、あの上司に」


 そう言って、二人は笑い合っていた。


「その騎馬警邏隊入りが決まったから、この任務にも来ることが出来たんです」


 この任務、とは多分昨日の宮廷騎士団の男達が言っていたトーン子爵家の天使の護衛のことなんだろうけど、騎馬警邏隊がどう関係するというのか……馬にでも乗るのか?


「なんでも今回の第四王女が来る話が唐突なので天使が驚いて逃げないように、って。天使は女性だそうだから宮廷騎士団の花形を付ければ……みたいなこと言われました」


「……逆効果ちゃう?」


 また私に視線が集まるわけだが。


「まぁ脳筋ゴリラ付けられるより顔のいい男付けてもらったほうが、その……天使も嬉しいんじゃない?」


 知らんけど、と呟けば、赤松とAがクスクスと笑っている。


「喜んでくれればいいなぁ。実は俺の姉がずっと天使を見てみたいって言ってて、今回の任務もとても喜んでくれてるんです! 天使と仕事が出来るなんて、私の自慢の弟だって言って!」


 喜んであげなくてはならない流れになってしまった。

 しかしこの彼の無邪気な笑顔を見ると全力で喜んであげようと思わなくもない。これはBが可愛がるはずだわ、と。


「でもなぁ、花形と言っても俺はまだ入ることが決まったばっかりなだけだし、そもそも俺なんかと比べ物にならないくらい整った顔の人は山のように居るのに……ハトリさんはどう思います?」


 えぇ……


「まぁ……自信持てばいいんじゃないでしょうか」


 それ以外になんと答えるのが正解だったのかが分からない。


「せやけどお前、天使っていう言葉だけ聞いてあんまり侮ったらあかんで」


「え? はい」


「もしかしたらその天使、俺より素手での対人格闘術が強い可能性もあんねんから」


 Bは半笑いで、明らかに面白がっていた。

 そう思っているのなら、後で覚えておけよ。


 後日、トーン子爵家の天使として現れた私を見た後輩くんはやはり驚いていた。

 そして私に殴られるBを見て「イーヴンさんが言ってたのは嘘じゃなかったんだ……!」と言っていた。

 B信者もいい加減にしろよ、と正直後輩くんも一発殴ってやろうかと思った。

 さすがにBより強いことはないわ。多分。……多分ね?





 

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