76 サラの観察~謎な人~
サラ視点です。
本当に不思議な人だなってつくづく思う。
不思議っていうか謎って感じなんだけど。
マレッティの街からここ、サランヴィーネの街までの数日間をルカさんと過ごして分かったことがある。
それは、“よく分からない人”ということ。
うん、自分でもなに言ってんだろうって思うけど、実際にそうなんだから仕方ない。
ルカさんは、優しい人、だと思う。
でも、良い人……ではない、とも思う。
私はまだ自分の目で見た訳ではなくお兄ちゃんに聞いただけなんだけど、なんの躊躇もなく人を殺すんだって。
お兄ちゃん達がマレッティの街に戻ってくる道中で出逢った盗賊を、皆殺しにしてしまった。それを顔色どころか表情一つ変えず、あの暖かい優しい手で、なんの躊躇いもなく簡単に人の命を奪ったのだと。
お兄ちゃんがなにを思って“その事”を私に話したのか、意味もお兄ちゃんの心意も分からないけど、私はただ純粋に恐いと思った。
今まで、私の近くにはそんな人がいなかったから。
魔物だけではなく、人と武器を持って争い命を奪い合う戦いがあることを知っている。それを仕事、或いは生業としている人達がいることを知っている。
でもそれは、その“世界”は私の“世界”には無かったから。
知っていても、理解していたわけではないから。
だから初めてそんな人を自分の肌で感じて、純粋に恐いと思った。
でも、それだけだった。
恐いと思っても、ルカさんに対して恐怖とか嫌悪とかは生まれなかった。お兄ちゃんがルカさんを心から信頼しているのが大きかったのかもしれない。私が辛い時に、お兄ちゃんと一緒に手を差し伸べてくれたからかもしれない。
だから、ルカさんを拒絶するような感情は生まれなかったんじゃないかなって改めて考えて思った。
ルカさんは、面白い?楽しい人?なのかな?
ルカさんはずっと旅をしていたらしく、とても物知りだった。色んな事を知っていた。ただ質問をしても、半分くらいしか教えてくれないけど(自分で考えて分からなければ自分で調べる、そうやって得た知識が自らの価値になるからだって)。
よく話をしていると、おかしなことを言ってお兄ちゃんや従魔さん達に突っ込まれたり呆れられたりしている。
でもそれは天然とか無意識でとかではなく、計算というか分かっててやっているみたい。
そのやり取りを楽しんでいるんだと思う。従魔さん達もお兄ちゃんもなんだか楽しそうだもの。
でも私はちょっとよく分からないし突っ込みも出来そうもないから、話に加わらず見ているだけなんだけど。
でも聞いているだけで私まで楽しい。
あと、ルカさんは凄く強いらしい。
まだ私は戦っているところを見たことがないから、とても興味がある。あんな大きな亀の魔物を一人で倒してしまうくらいだから、本当に強いんだろうなって思うから。
そして、芯がしっかりしている人、だとも思う。
自分をしっかり持っている、信念がある、自分の中で定めた確固たる“なにか”がある。
だから他人の言葉や感情、様々なことに対して欠片も揺るがないんだと思う。
それをあの時、冒険者ギルドで言われた言葉に強く感じた。
だからあんな言葉が言えるのだろう。
だから武器を持って戦い、人の命を奪えるのだろう。
それは時に頼もしくもあり、時に恐ろしくもある。
私は、そう感じた。
ルカさんと出逢って数日、私には分かったことがある。
ルカさんは、沢山の一面を持った、よく分からないとても優しい人なのだ、と。
人で溢れるサランヴィーネの港街にやってきて、ルカさんの謎は深まった。
ルカさんはここでやるべきことがあるようだった。その内容は詳しく教えてはくれなかったけど、サランヴィーネに着いたら話してくれる、と言っていた。
そして港で起こった商船への魔物の襲撃で、ルカさんはマリアちゃんになにかを頼んでいた。その時見た空に浮かぶマリアちゃんの姿には、本当に驚いてしまった。
ルカさんの肩に乗っている普段の小さな姿ではなく、まさかあんなに巨大な姿が本当の姿だなんて………。
本当に驚いた。
そしてマリアちゃんが帰ってきた翌日のルカさんの話は、それを軽く上回った。
ルカさんの目的、やるべきこととは、サランヴィーネの港街に出現したダンジョンを探しだし調査、消滅させること。
ルカさんはこれをとある人に頼まれ、やらなければならないらしい。
しかもここだけではなく、他に三ヶ所もあるらしかった。
お兄ちゃんと一緒に行ったというヴァルザ火山にも、強力なダンジョンが出現して周囲に影響を与えていたようで、だからルカさんは向かったらしい。
そんな危険なところにお兄ちゃんを向かわせてしまった事実に、胸が苦しくなった。ルカさんがいてくれて、お兄ちゃんを見つけてくれて本当に良かった。
ダンジョンの話は色々と気にかかり、お兄ちゃん達のように突っ込みたくなってしまったけど、私には無理だからお兄ちゃんに任せよう。
それはともかくとして、そんなわけでルカさんはダンジョンに行かなければならない。
そこで問題なのが私とお兄ちゃんのこと。
海の底のダンジョンはどうやらSランクになっているらしく、冒険者になったばかりの初心者な私達には危険過ぎる場所。
お兄ちゃんは同じくSランクになっていたらしいヴァルザ火山のダンジョンに行ったけど、あれは特別なことだし本来なら連れて行かないような場所。お兄ちゃんはもとより私もサランヴィーネの街で待っていた方が良い。
ダンジョンではなにがあるか分からないから。
本来なら。
でも今サランヴィーネの街に私達だけを残すのはかなり不安であるし、折角だし?、ということでルカさんは私達を連れていくつもりみたい。
お兄ちゃんにはリトちゃんが、私にはネタロウちゃんが守りとして付いているから安全面では(たぶん)大丈夫のようだけど、精神的な部分は私が私自身でやらなければならないことだから。
だからルカさんは、私に覚悟を問うた。お兄ちゃんにも改めて問いていた。
自分が生きる為に武器を持ち戦い続けることが出来るのか、と。
覚悟はしていた。そのはずだった。
だけど改めて面と向かって問われて、身体が震えてしまった。
恐い、と。
でも、それでも私は、ルカさんの目を見てはっきり頷き答えることができた。
覚悟は出来ている、と。
お兄ちゃんも同じように答えた。
私達の答えを聞いて、ルカさんは深く笑んだ。
何故だろう?その笑みを見て、背中に悪寒が走ったのは。
そして何故、テトちゃんはその笑みを見て「あっ、まずいな」と呟いたのかな?
嫌な予感しかしないんだけどな?
「主のスイッチが入ってしまったぞ?」
すいっち?
「勇者が言っていたわね。「英雄は“スポ根”の一面がある‼」って」
“すぽこん”?
「あれが出ると周囲に悪影響が出る。なるべく離れていよう」
「それが一番ね」
「賛成!」
「きゅ!」
悪影響⁉なにを言っているのかよく分からないけど、良いことでないのは分かりました!というか何気に従魔さん達冷たいですね⁉見捨てないで!
それに然り気無く、勇者様とか英雄様って言いましたね?やっぱりルカさんってそうなんですか⁉
ううん……ううん……今はそれは置いておこう。
それよりも、うぅ………ルカさんの笑みが恐いです………。
心の中で戦々恐々としている内に、話は進み早速明日ダンジョンに行くことになった。
ダンジョンに入る為の準備は出来ているらしい。ルカさんが持っているアイテムボックスになんでも入っているみたい。
そもそも今のこの街では、まともな買い物など出来ないだろうけど。
とにもかくにも、明日から私は冒険者として一歩を踏み出すことになった。
本当に、つくづく思う。
ルカさんは、謎な人である、と。
読んで頂いてありがとうございました。
次話は小話を入れます。




