66 早とちり?と出発
コッシュトーの街の門の所で、挨拶をしたい人がいるというシンとサラと別れて、瑠華は宿屋を探していた。と言っても雀の涙ほどの期待しか抱いていなかったが。
コッシュトーの街とサランヴィーネの港街との間の街道に陣取っているという魔物のせいで、コッシュトーの街には人が溢れている。マレッティの街から流れてきた人達がいるというのは聞いていたが、それにしては多すぎる。
恐らく商人や冒険者が立ち往生しているようなので、宿屋も期待は出来ないだろうと思われる。
瑠華としては野宿でも一向に構わないのだが、シンはともかくサラのことを考え、一応宿屋を探しているということだ。
だが案の定、三軒程聞いてみたがどこも満室だった。というか食堂で寝泊まりしている者もいる始末。
瑠華は早々に宿屋を諦め、昼食にしようと屋台が建ち並ぶ道へと歩を進めた。先程から、たしたしと瑠華の首や肩を叩いて主張する存在がいるので、早歩きで向かう。
さてなにがいいかな、と悩みながら歩いていると、マリアとムツキが串焼きが売っている屋台を指したのでそちらに向かう。
屋台のおじさんに注文して焼き上がるのを待ちながら周りを眺めていたら、直ぐ近くにシン達の気配を感じた。姿を見付けて声を掛けると気付き近付いてきた。
シンの話を聞いてから待ち合わせ場所を決めて、屋台のおじさんから焼き上がった串焼きを貰って、二人から離れて瑠華は適当に通りを歩いた。
別にシン達と一緒にいても良かったのだが、どうやらサラは僕といると緊張するらしく(視線が逸らされるし)ぎこちないので、二人きりにしようと思った。
人見知りする風には見えなかったが、よく知りもしない男と一緒では緊張するのは仕方ないことだろう。つい先日まで辛い場所に居たことだし。
大きな串焼きを食べてご満悦だったマリアが、全く足りないようで再びたしたしと肩を叩いて瑠華の思考を遮る。
「主、お腹空いたわ」
「きゅう」
「ああ、了解。マリア、ムツキ、食事しながら適当にぶらついて、その後冒険者ギルドに行こうか。気になることがある」
二頭から了承の返事を受け取り、瑠華は面倒くさいけど、と小さく呟いた。それを聞き咎めたマリアに後頭部を叩かれた。
暴力は~んた~い!
相変わらずの食欲を発揮したマリアとムツキが満足するまで屋台を回り、瑠華はその後冒険者ギルドへとやってきた。
ギルドの中も、昼時だというのに冒険者達が大勢隣接している酒場で騒いでいた。
即行で帰りたくなった瑠華だが、マリアがちっちゃい手でたしたし後頭部を叩くので(食事の催促ではない)、仕方なくちらりと依頼ボードを見て依頼がないのを確認して、空いている受付に行き人族の女性に話しかける。
「すみません、Dランクの依頼ってありますか?ボードに無いんですが?」
何故か普通依頼が貼ってある筈のボードに、なにも貼っていなかったのだ。
Eランク以下の依頼なら貼ってあるけれど(それも常時受け付けているようなものだったが)、Dランク以上が貼っていなかった。
Aランク以上なら少し貼ってあったが、流石にDランクでは受けられない。
「申し訳ありません………現在、冒険者の数が増えすぎて需要が間に合わないのです。サランヴィーネへの街道に魔物が現れ、通る人達を襲っている状況です。大きく迂回すればサランヴィーネへは行けますが、日数も物資もかかるので皆様困っているんです。
街道の魔物さえ討伐できれば………」
「強いんですか?」
「はい、もう何人も討伐に行きましたが未だに……」
「サランヴィーネの領主はどう対処を?」
これが気になっていたことだった。
サランヴィーネの領主はとても生真面目だ。愚直なまでに民を想い政策を行うような女性だ。
そんな彼女が、こんな状況を放っておくとは思えなかった。魔物を避けたのか、出会わなかったのかは知らないが、彼女が騎士を連れてあんな場所にいたのが引っかっかってしまった。
まぁあ、例の魔物のことを思い出して引っかっかったのは、彼女にトリロ伯爵のことをおしつ………頼んだ後だったのだけれど。
だから思ったんだ。
あれ?もしかしなくても僕の早とちりじゃね?、と。
もしかしたら彼女は、例の魔物のことでトリロ伯爵に直談判しに行ったのかもしれない。
そうであったなら、悪いことをしてしまったわけである。
故に冒険者ギルドで情報を集める為にやってきた。彼女が魔物に対しての対処をしているならば、この街の冒険者ギルドも関わっていてもおかしくないからだ。
「サランヴィーネの領主、ディンダリン伯爵様は一月程前から王都へ行っておりまして、ご不在なのです。勿論魔物のことを知らせる為の使者が出されましたので、こちらに向かっているとは思うのですが………」
「…………」
あ~あ~……成る程ね~彼女は王都から直接マレッティの街に向かったのね。
ということは、どうやら本当に悪いことをしてしまったようだった。
「これは……詫びをせねばならないか」
「はい?」
瑠華の呟きが聞こえた受付嬢は小さく小首を傾げた。それに苦笑と共に首を振って答えた瑠華は、もう一つ質問をした。
「その街道に現れたという魔物の情報をお願いします」
「あ、はい。種族はロックタートルという魔物で地属性、体長三メル以上とされ固い甲羅と強靭な顎を持っており、普通の武器では歯がたちません。動きも俊敏らしく、接近戦は難しいとの話です。
街道を通る者を襲っているそうですが、街道から動くことはないので、大きく迂回すればサランヴィーネの港街に辿り着けます」
「成る程。ありがとうございました」
「いえ、行かれるのであらば気を付けて下さい」
丁寧に頭を下げた受付嬢に会釈を返して瑠華は冒険者ギルドを出る。その足で、瑠華はシン達と待ち合わせをした噴水広場までやってきた。
中央の噴水の前に、既にシン達は座っていて瑠華を待っていた。
「お待たせ」
「ルカ様、おかえりなさい。もう用事は済んだのですか?」
「ああ、僕はこの街にはもう用はない。お前達は?」
「俺達も大丈夫です」
シンとサラが頷くのを確認して、瑠華も頷き返す。
「なら街を出よう」
「え?今からですか?もう日が沈みますが……」
「ああ、この街の宿屋はどこも満室でね、野宿することにした。サラはそれでも大丈夫か?」
「はい、私なら大丈夫です」
少しの懸念を交えてサラに問えば、不安そうではあるがしっかりとした声で答えたので、瑠華は目を細めてサラの頭を撫でた。
「なら、出発しよう」
瑠華を先頭に、人混みを掻き分けてサランヴィーネの港街に続く街道へと出る門に向けて歩き出す。
その三人の背後を数人の影が追いかけていた―――
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