63 両親への報告
いつもより少し短いです。
シン視点です。
ルカ様を先頭に倉庫から出て、街の入り口へは向かわずに倉庫街の更に奥に進み、街を囲む塀の前に辿り着く。
塀の高さは二十メルくらいだろうか。魔物の襲撃に備えて、高く頑丈に造られている。
ルカ様に言われた通りにここまでの道を教えたけど、なにをするのだろう?………まさか、ねぇ?
「ルカ様、これからどうするのですか?」
「どうするって飛び越えるに決まって………ん?シン、今僕のことなんて呼んだ?」
「ルカ様と」
「…………なんで?」
「そう、お呼びしたいので」
えへ、と笑顔で告げれば、ルカ様は若干うろんな目つきで見てきた。
「様とかいらないから。呼び捨てでいいから。寧ろ敬語とかもいらないから」
「俺がそう呼びたいんです。すみません」
「……………まぁ、好きに呼びなさい」
軽く頭を下げながら謝れば、ルカ様はなんだか諦めたように言った。隣でサラが不思議そうに首を傾げて見つめてきていたので、笑顔で頭を撫でた。
「さて、じゃあ行こうか」
「………本当にここから行くんですか?」
「………なんだか夜逃げみたいですね。朝ですけど」
サラが怖々と塀を見上げながら問い掛け、俺はなんとも言い表せない微妙な気分で呟いた。
前を向いていて顔は見えないけれど、ふふふ、とルカ様から不気味な笑い声が聞こえた。
「夜逃げはね、楽しいよ?」
「…………したことあるんですか?夜逃げ」
「うん、三回程ね」
「多くないですか⁉」
顔だけ向けられ、(見えないけれど恐らく)にっこり笑顔で告げられた言葉に、思わず突っ込んでしまった。
「だって仕方ないじゃない?追いかけてくるんだもの」
「…………そうですか」
きっと詳しい内容なんて聞いちゃいけないんだろうな。俺の心の平穏の為には。
俺は一人、うんうんと頷いて浮かんだ疑問を頭から消し去る。
すると今まで黙って聞いていたテトが、呆れたようにため息を吐き先を促した。
「ああ、ごめんね、テト。行くよ」
そう言ってルカ様は、俺とサラの腰に腕を回して両脇に抱え、少し腰を落とした。
「え?」
「はえ?」
二人して間が抜けた声が出てしまったけれど、ルカ様は気にした風もなく力強く跳躍し、空中でもう一度跳躍した。
なんで空中でもう一度跳躍できるのかとか、そんなことを気にする余裕はなかった。突然の浮遊感と軽い衝撃に叫びそうになったけれど、喉が引きつって声は出なかった。
ルカ様は一度塀の上に乗って、そのまま外側に飛び降りた。人間を二人も抱えてるとは思えない身の軽さで。
腰を抱えられているので当然だが、俺の顔は下を向いているので、迫り来る地面に恐怖し強く目を瞑る。だが恐れていた衝撃は来ず、軽くたんっと音がして浮遊感が無くなった。
それと同時に腰を離されたけれど、とてもではないが立つことが出来ず、地面に四つん這いの格好で煩く鳴る心臓を落ち着かせようとじっとしていた。
ちらりと隣を見ると、サラも同じような格好で項垂れていた。
うん、そうなるよね。
「……せめて飛ぶ前に一言言って欲しかった………」
すっごく怖かった。出来れば心構えの時間がほしかった。
「面倒だった」
ルカ様、次はぜひ一言お願いします!
心の中で叫びつつ少しの間休ませてもらって、一緒に飛び越えたテトにルカ様が、リトに俺とサラが跨がり出発した。
テト達初心者のサラが居るということで、ゆっくりめに駆け出していった。
コッシュトーの街へと続く街道から右に外れた森の中に、父さん達が亡くなった場所がある。父さん達のことを教えてくれた旅人の話では、盗賊に追われて森に逃げたけれど捕まって殺されてしまったらしい。
この森には盗賊の隠れ家がある、という噂があった為俺達は入れなかった。トリロ伯爵が命じて兵士達が捜索、討伐に行ったけれど父さん達の遺体は結局見付からなかった。
今思えばトリロ伯爵と盗賊は繋がっていたらしいから、捜索も討伐も行われていなかったのかもしれない。
だから父さんと母さんに別れをするなら、墓に行くよりこちらの方がいい。
森に入って少し奥に進むと、その場所はある。
二ヶ月近く経つからもう襲われた跡なんて残っていないと思うけど、旅人に聞いていた場所ははっきりと覚えている。
周囲を見回しながら森を歩いていくと、不自然に草木が荒れている場所があった。
恐らく、ここで間違いないと思う。
「この辺りか?」
「はい、恐らく此処です。この場所で父さん達は亡くなったそうです」
何故か献花を持っていたルカ様から花を頂いて、その場に佇む大きな木の根本に添える。
サラと並んで膝立ちになり、手を合わせて目を閉じ祈りを捧げた。
父さん、母さん、俺とサラは旅に出ます。
父さん達のように、世界を見に行ってくるよ。
だから此処には、次いつ帰ってこられるか分からない。生きて帰ってこられるかも分からない。
でもまた此処に帰ってこれるように、俺頑張るからね。今度こそ、サラを守って二人一緒に戻ってくるから。
それとね、英雄様に出逢えたよ。明確な肯定をしてくれた訳ではないけれど、否定もされなかったから俺は間違ってないと思う。
父さん達の分までしっかり恩返しするからね。
どうか見守っていて下さい。
それじゃあ、行ってきます!
心の中で決意とさよならを言い目を開けて後ろを振り向いたら、そこにはリトしかいなかった。周囲を見回しても、ルカ様とテトの姿は見当たらなかった。
首を傾げつつ、ちょこんとお座りしているリトに問いかける。
「リト、ルカ様は?」
「直ぐに戻るわ。ここで待っていて」
父さん達への別れを終えたサラとその場で座って待っていると、程なくルカ様とテトが更に森の奥から現れた。
ルカ様もテトもゆったりと森を散策してきたような雰囲気で、特になにかがあったようには見えなかった。
「ルカ様、なにかあったんですか?」
「うん。盗賊が居たからか………討伐してきた」
「え?」
この短時間で?ていうかなにしてるんですか⁉
「結構な数がいたからね。ちょっと手間取ったけど終わったよ。これでここら辺も、少しは安心できる場所になると思うよ」
「あ、ありがとうございます」
盗賊が減れば街の人達も安心するだろうから、良かった。もうあの街に俺達の居場所はなくても、やっぱり生まれ故郷が荒らされるのは嫌だから。
治める人があんな人では、一時的なことなのかもしれないけれど。
街がある方角を一度見てから、思考を切り替える為に頭を振り街道へと歩き出したルカ様の背中を追いかける。そして森を出てテトとリトにそれぞれ跨がり、コッシュトーの街に向けて駆け出した。
読んで頂いてありがとうございました!




