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58 暗躍(只の証拠探し)

 テトについて静かな廊下を歩いていく。トリロ伯爵の館の中には、それなりに人の気配がするが、すれ違うことはなかった。皆、先を行くテトを見て逃げていくらしい。


 「ここだ」


 館の大分奥の部屋の前で、テトは止まり瑠華を振り返る。瑠華が気配を探れば、確かにその部屋の中には人の気配がある。

 瑠華はテトに一つ頷いてから撫で、部屋のドアノブに手をかけた。かちゃりと音を立てて扉が少し開いたが、瑠華は静かにそっと閉めた。そして、斜め後ろに立っていたシンに顔を向ける。


 「どうしたんですか?」

 「………これを持って、先に君が入って。大丈夫になったら呼んでくれればいい」

 「?分かりました」


 頭に?マークを浮かべて首を傾げるシンは、瑠華がアイテムボックスから取り出した布を受け取り、ドアを開けて入っていった。その際、驚愕、動揺、怒りが入り交じった表情に変化していた。

 それを、部屋の中が見えない位置に移動していた瑠華は見守り、シンが部屋の扉を閉めると、壁に凭れながら左手で眼鏡を上げつつ小さくため息を吐いた。

 (あるじ)のその姿を見たテトは、問いかけるように瑠華を見つめる。


 「どうした?」

 「……部屋の中のベッドに、裸の女の子がいた………」

 「……成る程」


 テトが納得したように頷き、笑いを押し殺すように下を向く。

 瑠華はもう一度、今度は深くため息を吐いた。










 「何事にも、不可抗力ってあると思うんだよね」

 「……誰に言い訳をしているんだ?」

 「……取り敢えず、シンに」


 シンが部屋の中に入ってから、瑠華達は扉から少しずれた場所で待っていたのだが、少し経った頃こちらへと近付いてくる複数の気配を感じ取った。

 恐らく、伯爵が部下達に瑠華達を捕らえるように命じでもしたのだろう。


 なんにせよ、面倒なことになりそうではある。


 「……(あるじ)よ」

 「ふむ………シーン、も~い~かい?」


 コン、コンと扉を叩きながら、シンを呼ぶ。すると中から、大丈夫です、という返事が聞こえてきたので、扉を開ける。

 部屋の右の壁際に置かれているベッドの前に、シンとシンによく似た外見を持つ女の子が立っていた。



 シンは茶色の髪に、エメラルドグリーンの瞳。中性的ではないが男としては線が細く、優しそうな雰囲気をしている。

 妹のサラは蜂蜜色(ハニーブロンド)といえばいいか、色素の薄い髪にシンと同じエメラルドグリーンの瞳。見た目はシンと似ているが、目元が若干鋭いので勝ち気な印象を受ける。


 今は扉から入ってきた、フードを目深に被った瑠華をただじっと見つめていた。

 瑠華の心意を見抜くように。


 「ルカさん、お待たせしました」

 「いや、大丈夫だよ。でもこちらに向かってくる気配があるから、さっさとここを出よう」

 「……分かりました。サラ、ルカさんは信頼できる方だからそう見るな。後でちゃんと説明するから」

 「……うん、分かった」


 サラがしっかりとシンに頷いて、次いで瑠華へと向き直り頭を下げる。


 「兄がご迷惑をおかけしたようで、すみませんでした。そしてありがとうございます。もう少しだけお力を貸して下さい」

 「勿論、そのつもりだよ。シン、妹の手を離しては駄目だよ」

 「勿論です」


 シンがサラの手を握りしめて瑠華に頷く。


 「それじゃあ悪いけど、シン達は先に安全な場所に行ってて。僕は伯爵のやっていたことの証拠を探してくるから。テトも一緒に行かせよう」

 「一人で行くんですか?」

 「こういうことは、一人の方が動きやすいからね。それにマリアとムツキが一緒だから、大丈夫だよ」

 「それもそうですね。分かりました」


 実際には、証拠があるのかどうか、微妙ではあるんだけれどね。でも貴族ってやつは自身の安全を最優先するから、自らの保険の為に取り引きの書類は取っておくことが多い。

 だから、証拠はある可能性の方が高い。


 「この街で落ち着ける場所はあるかな?今から街を出たら、コッシュトーの街に着くのが夜になってしまうから、この街で一夜過ごそう」

 「………そうですね………俺達の家はもう、伯爵のものになっていますから……南の倉庫街に行きましょう。あそこの周りはもう人は住んでいませんし、隠れるには丁度いいかと」

 「ふむ、ではそこで。シンは案内役ね。テト、シン達をよろしくね?」

 「了解です」

 「うむ、気を付けろよ」


 窓際に移動し、シンが影からリトを呼び出す。


 「リト」

 「分かっているわ。二人のことは任せなさい」

 「わっ、お兄ちゃんの影からもこもこが出てきた⁉」

 「いや、テトとリトはもふもふだよ」


 そこは譲らないよ?


 「ルカさん、ノらないで下さい」

 「どうでもいい。さっさと行くぞ」


 先ずリトに跨がったシンとサラが窓から飛び出し、次いでテトが後を追う。


 瑠華も窓から身を投げ出し、人の気配がない上の階へとひらりと登る。運良く窓が開いていたので、身体を滑り込ませる。



 さてと、書斎はどこかな~。執務室でもいいよ~。やっぱり秘密の書類はそのどちらかだよね、定番的に。



 人の気配を避けつつ、手当たり次第に部屋を覗いて調べる。そしてこれまた運良く、直ぐに執務室だろう部屋を見付けることができた。扉を開けて中に入り、鍵を掛ける。


 「マリア、ムツキ、金庫らしきモノを探して、って思いっきり目の前にあったよ」


 瑠華の呟き通り、あからさまに金庫にしか見えない箱が部屋の左側にでんっと置かれていた。


 「……あの男って馬鹿なのかしら?」

 「激しく同意したいね」


 なんて言っていても、此処はファンタジーな世界。魔法でなにかしらの細工や仕掛けがされているのは容易に予想がつくけれど。


 そう思い金庫の下を見てみると、案の定金庫が置いてある床には馬鹿正直に魔法陣が敷かれていた。偽物(フェイク)か⁉、と疑いたくなるくらい堂々と描かれていた。


 普通こういうものは分からぬよう、隠されているものなのだが?



 瑠華は肩を竦め、スキル「完全解析」で魔法陣を確認する。



 『雷撃の陣』‥‥陣発動時に登録された血と魔力を持つ者以外が触れると、『雷撃(サンダーボルト)』が発動する。



 なんともシンプルな魔法陣だった。

 見るからに簡単な魔法陣だと分かったのだろうか、瑠華が壊そうとする前に、マリアがフードから抜け出し魔法陣の前に降り立つ。

 そして純粋な魔力を陣へと流し、魔法陣を破壊してしまった。


 これぞ、魔力の力業である。


 「マリア、やるのはいいけれど、ちゃんと調べてからにしてね」

 「大丈夫。ちゃんと主を見ていたわ。問題なしと判断したから、やったの」


 マリアの言葉に苦笑してしまう。


 「まぁ、気を付けてくれればそれでいいよ。さて、早くシン達に合流しないとね」


 魔法陣が壊され何事もなく開かれた金庫には、書類とお金が入っていた。お金の方には手をつけず、瑠華は書類のみを根こそぎアイテムボックスに入れてしまう。


 その後、シン達に合流すべく、窓から外へと下りたところで、ふとある事に気づいた。


 「?どうしたの?主」

 「う~ん……そういえば、武器を預けたままだったなって思ってね」

 「あら、そういえば」


 トリロ伯爵の館に入る時に預けた武器は、そのまま兵士が何処かへ持っていってしまった。

 瑠華が持っていたミスリルの長剣、シンに渡していた鉄の(ロッド)、その二つの内、(ロッド)はともかくミスリルはそれなりに高価なものだ。

 しかし瑠華はミスリルの長剣は数十本は持っているし、それよりも遥かに価値があり剣の性能も強力で素晴らしい剣を持っている。だから全く惜しくはない。


 「ま、いっか」


 故に、別に引き返してまで取りに行くことはない、という結論を出した。


 ただ単純に面倒だった、というのが一番の理由だったりするが。


 というわけで、瑠華はテトの気配を追って南の倉庫街へと向かっていった。











 



読んで頂いてありがとうございました。

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