40 炎獄のダンジョン その四
「あ~~………マジですかぁ……………」
思わずといった呟きが漏れてしまう。
本当に、できれば別の場所で見つけたかった。
「なにをしている、主!急いで部屋から出ねば、身体がもたないぞ⁉」
「ルカさん!早く行きましょう!」
テトとシンが瑠華に先を促すが、瑠華は二人にちらりと視線を送ってから、“それ”に注意が向くように首を動かす。
「「「…………!」」」
テトとシン、リトが瑠華の視線を辿って、漸く“それ”に気付いた。シンが目を大きく見開き“それ”を凝視する。
炎晶石‥‥火の魔素の結晶体。純度が高く最高級品に分類される。
紅晶石‥‥焔の魔素の結晶体。純度が高く最高級品に分類される。
スキル「完全解析」で見てみると間違く僕達が探していたものだった。漸く、見つけることができたようだ。
「本当に炎晶石ですか?」
「ああ、間違いないよ」
炎晶石から目を離さず凝視しているシンが今にも飛び出しそうなので、肩を掴んで留めておく。
「でもどうするの?あそこまで行く道はないし、周りには足をつく場所もない。しかもこの熱さ。早く手に入れなければ死ぬわよ?」
リトもシンが飛び出さないように、シンの前に回り込み体で道を塞ぎながら瑠華に問いかける。
瑠華は暫し考え込むが、その間にも大量の汗が流れていく。
「…………とある魔女っ子が言っていた………」
「魔女っ子?」
突然不思議なことを呟きだした瑠華を、全員が注視する。
「困ったことに直面したならば……………」
「主よ、大丈夫か?」
テトがおっかなびっくり声をかけるが、瑠華は答えない。
「取り敢えず魔法をぶっぱなせばいいのだ、と!」
「うん!取り敢えずなんか危険なことだけは分かりました‼」
なにかする気だ、と全員が急いで後ろに下がり瑠華から距離を取る。
『ここは我以外、何人も生が赦されぬ死の世界。ここにあるのは我が孤独のみ。我は孤独を受け入れその先に訪れる死を甘受する。故に我は全てを拒絶する。我が為に穢れなき白き死の世界を』
唄うように紡がれる詠唱と共に、莫大な魔力の渦が瑠華の周りで荒れ狂う。瑠華は目を閉じて、魔力を解き放つ魔法の言霊を解き放つ。
『絶対なる死と氷の世界、フリージングワールド』
言霊が紡がれた瞬間、パキィィンという鋭く甲高い音が辺りに響いて、部屋一面を白銀の世界へと変えた。
「いよっしゃあああ‼これぞ魔法の真骨頂‼」
おっと、いけない。思わずガッツポーズで叫んでしまった。
「……………ルカさんが壊れた?…………」
「ふむ、熱さで頭の中がふやけて、おかしな精神状態になっただけだろう。氷の塊でもぶつけてやれば正気に戻るさ、きっと」
うっさいですよ、外野。
ちなみに氷の塊をぶつけられたら痛みで正気に戻るだろうけれど、そのまま天に召されそうだね。
「魔女っ子はこうも言っていた…………」
「………………えっと、なんて?」
シンが一応という体で聞いてくれた。うちの可愛い従魔さん達は呆れたような冷めた視線を向けてきているというのに。
君は優しい子だね。
「押して駄目なら更なる魔力のごり押しだ、と!」
「取り敢えず最初から最後まで非常識ということですね。分かりました」
諦めたような疲れたようなため息を吐き、シンが無理矢理納得し会話を終わらせた。
「兎に角、これでもう大丈夫だね。早速取りに行っちゃおうっとはっくしょい!」
瑠華がこれでもかと魔力を込めて発現させた魔法により、部屋全体が凍っていた。床一面に広がっていた溶岩から天井まで全て。先程までの蒸せ返るような熱さはないけれど、今度は寒すぎて凍死しそうであった。
特に瑠華は、大量の汗をかいていたので余計に。
マリアとムツキがシンが着ているローブのフードから出てきて、瑠華の両肩に乗り暖めるように体を擦り付ける。
もふもふふわふわしていて暖かくて気持ちよく、瑠華は目を細めて薄く笑う。
「ありがとうね、マリア、ムツキ」
瑠華もお返しにと、二頭の体をすりすり撫で撫でする。お返しなのに瑠華の方がもふもふに癒されてしまう。
一人と二頭がいちゃこらしている間に、待ちきれなかったシンは、リトを伴い炎晶石の所まで氷の道を慎重に歩いていく。その様子を見て、瑠華が声を発する。
「シン、転ぶなよ~」
「はい、大丈夫です」
シンの後をゆっくり歩きながら追いつつ、少しの希望を込めて言ってみたけれど、シンには含んだ意味まで伝わらなかったみたいだ。
残念………。
「シン、そういう時は転ばないと駄目だろう?」
「えっ、なんでですか?」
転ばぬように下を見ながら歩くシンは、振り返らずに聞き返す。
「その方が面白いだろう?絵的に」
「なにを言ってるのかさっぱり分かりませんね!」
漸く炎晶石の所まで転ばずに辿り着き、シンは瑠華に向き直る。
「なんですか?絵的にって。まだルカさんが面白いからって言われた方が納得できます」
「勿論そういう意味もあったけれど、敢えて言わなかっただけだよ?」
「………………これどうしましょう?完全に氷に埋まってしまってますね」
「砕けばいいんじゃない?」
シンが見事なスルースキルを発揮した。ちっ。
リトはいつも通り瑠華の言葉に取り合わずに、えいっ、と前足を振り下ろし、炎晶石と紅晶石をそれぞれ根本付近からかち割った。
ごろん、と氷の上に転がった、両腕に抱えるくらいの大きさの炎晶石を、シンが慎重に壊れないようにそっと持ち上げる。
「やっと………やっと手に入れた…………」
感極まったように、シンは炎晶石を抱き締めて涙を流す。瑠華はシンを見て小さく優しい笑みを浮かべ、地面に転がったままの紅晶石を拾いアイテムボックスにしまう。
「これでまた……………」
シンを暫くそのままでいさせてやりたいが、限界が近い。このままでは凍え死ぬ。
「シン、君はこれからどうする?僕的にはこのまま同行した方がいいとは思うけれど、早く地上に戻りたいならリトと戻ってもいいよ?」
「………いえ、このまま一緒に行かせて下さい。足手まといで微力でしかありませんが、最後まで共に行きます」
涙を拭い毅然と言ったシンの言葉に、瑠華は目を細めて優しく笑い頭を撫でる。
「君は足手まといなんかじゃないよ、大丈夫」
「…………ありがとうございます……………」
シンは少しだけ頬を染め、嬉しそうにはにかみながらお礼を言った。瑠華は静かに頭を撫で続けた。
「さて、じゃあ行きますか!」
「はい!」
氷に包まれたままの炎晶石を、壊さないようにアイテムボックスにしまっておく。
シンの目的は達した。
後は僕のやるべきこと、このダンジョンを破壊するだけだ。
読んで頂いてありがとうございました。




