17 シェシカルの街 その三
冒険者ギルドでの三度の面倒くさい出来事に、瑠華はため息を禁じ得なかった。
「ちょっと聞いてんの!あんたに言ってんだけど!早く退いてよ‼」
「俺達は疲れてんだ!っておい!聞いてんのか⁉」
どうやら彼女と仲間らしい男は、僕に言っているとみていいのかな?
後ろではまだ女が飽きもせず喚いていて、男が怒鳴っている。そろそろ語彙がなくなってきたのか、同じことを繰り返していた。
アミーナは邪神の眷属にでも出くわしたみたいな、恐怖に引きつった顔で瑠華を見ていた。
わぁ、なんだか以前の旅でよく見たかけたなぁ、この顔。そんな瞳で見つめられると…………………クセになりそう?
そんなアホなことを瑠華が考えていると、痺れを切らしたのか(我慢が出来ないんだねぇ)、男の方が肩を後ろから掴んだ。
瑠華は本当に小さくため息を吐き、肩を掴まれた手首を掴み、身体を反転させながら足払いをかける。重い音を出して、床にうつ伏せに倒れた男の頭を踏みつけると、グシャっと気持ち悪い音が辺りに響く。
次いでぽかんとしている女の首を鷲掴みし、足がつくかつかないかギリギリのところまで持ち上げる。
そしてちらりと視線を滑らせる。
「動かない方がいいと思うよ?」
女の斜め後方にいた剣士風の冒険者の男が、腰の剣に手を伸ばそうとするのを見て、取り敢えず制止の声をかける。
剣士風の冒険者の男はどうするか迷うように瞳を揺らし、仲間を助けるのが先だと判断したようで、姿勢を正し軽く頭を下げた。
「仲間が失礼をした。どうか許して頂きたい」
「………あんた、さっき止めようとしなかっただろ?」
「え?」
「さっきこいつらが僕に絡んできた時、あんたはため息を吐いていただけで止めようとしなかった。つまりこいつらは、こんなことをよくやっているんだろう?」
「そ、それは…………」
剣士風の冒険者の男が口ごもる。
この男は先程、僕に女と男が文句を言っている時、またか、という感じでため息を吐いていた。それも癇に障った。
女は苦しそうに喘ぎ、瑠華の手を外そうともがく。
「ならばこういう状況も自業自得だろう?今までどうだったかは知らないけれど、僕は大人しく従う気はない。そして許す気もない。お前達で三度目、不運だったと諦めるんだね」
瑠華の言葉に、剣士風の冒険者の男は顔を歪める。苦し気にもがく女を見て、次に瑠華が未だに頭に足を乗せたままの床に倒れた男を見る。
僕としてはこれ以上どうこうするつもりはないけれど、脅しておこう。本当に常習犯っぽかったので。
「…………貴方には不快な思いをさせて本当にすまない。これからは俺が二人を止める。有り金を全部持っていっていいから、どうか二人を許してもらえないだろうか?」
先程より深く頭を下げる。彼の後ろにいる、更に仲間らしい二人も(ずっと武器を手に瑠華を睨んでいた)姿勢を正し頭を下げた。
瑠華はもう一度ため息を吐いて、肩越しに受付に視線をやり、アミーナを見る。彼女は怯えた目で呆然と瑠華を見ていた。
冒険者ギルドの受付嬢なのに、こういうことに慣れてないんだろうか、と若干呆れつつ、瑠華は彼女に声をかける。
「アミーナさん、処理は終わっていますか?」
「…………………はっ、はい‼大丈夫です‼」
アミーナが差し出したギルドカードとお金を受け取る。
首を掴んでいた女は、既に意識がなく両手をだらりと下げた状態で失禁していた。すっと手を離すと、自らがつくった水溜まりに崩れ落ちる。
次いで倒れている男の頭の上から足を退かせば、慌てて仲間が近より助け起こそうとしている。それを横目に、受付の後方、上へと上がる階段の所にいる気配を消して佇む存在を見やる。こちらからは死角になっていて姿は見えない。
あれは恐らく、気配からしてギルマスだろうなぁ。流石に二度目ともなれば、目を付けられて当然か。
でも、まぁ、出てこないところをみると、お咎めはなしってことでいいのかな?
ギルドは基本、冒険者同士のいざこざには口出しできないものだからねぇ。
瑠華は小さく肩を竦めると、そのまま誰にも声をかけず、誰からも声をかけられずにギルドを出た。
薄暗い道を歩き宿屋に着くと、受付にいた男性から鍵を受け取り部屋に行く。部屋に入って鍵を掛けると、フードの中からマリアとムツキが飛び出してベッドに乗った。そして不機嫌そうに鳴いた。
「不愉快だわ」
「きゅう、きゅう」
「二人とも、僕の為に我慢してくれてありがとうね」
ベッドに腰掛け、マリアとムツキを宥めるように撫でていく。
実はギルドでのやり取りの間、二頭から飛びかからんばかりの殺気が放たれていた。でもあの場で出ると、瑠華が困ると理解していたから我慢していたのだ。
その時、影からテトが出てきた。
「やれやれ、主は本当によく絡まれるな。やはり呪われてるんじゃないのか?」
「……………それは言わないでほしい………」
テトの言う通り、【カイン】の一人旅の時から本当によく絡まれていた。
成人するまでは子供体型だったから、絡まれても、まぁ、分かるのだけど、成人後は一気に身長が伸びて、180手前になった。それからも絡まれたし、今だって身長は180はあるんだから、御しやすそうには見えないと思うんだけど。
不思議に思って、一度絡んで襲ってきた男を血の海に沈めてから理由を聞いてみたら、綺麗な顔した優男だからいいと思った、と言いやがった。
もう一度、地獄を見せてやった。
一つの街のギルドで絡まれた時、過剰に返り討ちにしてやると避けられるようになるけれど、別の街に行くとまた絡まれる。その繰り返しだった。
今日のように一日に二度絡まれることもあった。その時は過剰どころか、心をへし折る感じで対処してやった。
クラン《紫紺の太陽》を創り、有名になってくると無駄に絡まれることは少なくなったが、逆に腕試し的な奴が増えた。どゆこと?
僕はもううんざりしていたので、クランのメンバーに押しつけたり、押しつけたり、押しつけたりしていた。
だって本当にうざくて面倒だったんだもの………。
勇者と旅に出てからは、絡まれることがまた増えた。というか以前より増えたように思う。
勇者は優しそうな可愛らしい顔をしているから、御しやすいと見えるらしい。
“勇者”という肩書きを隠していたせいでもあるだろう。
勇者は泣き虫だが気が弱いわけではないので、絡んで手が出てくるような奴には反撃していた。口だけなら笑って受け流していたけれど。
しかし勇者の反撃は甘いもので相手も懲りていないようだったので、カインが追加で二度と襲ってこないよう地に沈めていた。
それでも絡まれることは無くならなかった。
本当に呪われているんだろうか………。
ふぅ……まぁ、それはそれとして、疲れたのでお風呂に入ろう。
従魔達に適当にアイテムボックスから多めの食事を取り出してから、お風呂へと向かう。
お風呂場は大人が十人程が入れる大きさだった。まだ食事時だからか、人はいなく貸し切り状態なので、ゆるりと暖かな湯を満喫することができた。
さっぱりしてお風呂から上がると、従魔達は食事を終えて、各々ベッドで寝そべりまったりしていた。瑠華も簡単に食事をしてからベッドの上に座り、従魔達と向き合って今までとこれからの目的を話し出した。
「…………ということで、僕は彼方の世界で生まれ変わって「六花咲瑠華」として過ごしていたけど、突然此方の世界に召喚されてね。その後セラフィミリムに逢って、話をしたら頼み事をされたというわけ。だから、これからまた旅をすることになったんだよ」
「成る程。今度は死ぬなんてことはなさそうだな。主が生きることを望んでいれば」
テトに嫌みを言われてしまった。ちょっと悲しい………。
「最初はヴァルザ火山に行くから、サピセスの街、ヤカサルの村経由で行こうと思う。サピセスの街はここから馬車で十日程だけど、途中にある小さな村とかには寄らなくていいよね?必要なものはアルテムボックスに揃ってるし」
右腕に着けているアルテムボックスに触れながら従魔達に聞いてみる。と言っても、マリア達はその身一つで生きていける自然界に寄り添う存在なので、元々必要となるものなどない。
強いて言えば、美味しい料理とその材料だろう。
今日調べて確認したヴァルザ火山までの道程を頭に浮かべながら、旅の行程を考える。
セラフィミリムが指定した場所であるヴァルザ火山、サランヴィーネの港街、コヴェーレン峡谷、ララフィウェートの魔窟、ウォレッテの街を地図の上から見ると、ここから一番近いのはサランヴィーネの港街になるが、先にヴァルザ火山に行くことにした。
他三つの場所は大陸が違うので、海を渡る必要がある。サランヴィーネの港街から船が出ているので、ダンジョンと一石二鳥になる。
位置的に少し戻る感じになってしまうが、こればかりは仕方ない。
「ふむ、分かった。直ぐに出るのか?」
「ああ、この街でやることはないからね。身分証になる冒険者ギルドのギルドカードは手に入れたし、色々と確認したいことも確認できた。それにギルドに目を付けられていそうだし、なによりこの街にいても気分が悪くなるだけだから」
テトが苦笑し、マリアとムツキがうんうん頷いている。
抱き着いて頬ずりしたい。
最初の目的地も異論はないようだし、明日早朝に出発することにしたので、少し早いが寝ることにした。
年寄りみたいな規則正しい生活だなんて思っちゃいけないな、きっと。
従魔達と一緒に寝ても十分な広さがあるベッドに入り、眼鏡を外して夜の祈りを捧げてから横になる。
もっふもふに囲まれて、気持ちよく眠ることが出来ました。
読んで頂いてありがとうございました。




