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15 シェシカルの街 その一

 シェシカルの街。

 二つの国の国境に近い為、国の端である辺境の街にしてはかなり大きい。人も物も集まってくる。街の周辺には魔物の狩り場も多いから、この街を拠点にしている冒険者も多い。

 けれどその分、治安は良いとは言えない。街の住人も夜はあまり出歩かないくらいで、騎士や兵士が目を光らせていても犯罪はなかなか減らないそうだ。


 門から兵士の後について行った瑠華は、兵士の詰め所へと入った。外から見て分かるが、かなりこじんまりとしている。詰め所というより簡単な手続きの為と、兵士の休憩用の建物のような感じだった。

 入って直ぐのところで瑠華がぼけっと突っ立って待っていると、奥の部屋に行っていた兵士が台座にセットされた水晶を持ってきた。それは、真偽の魔道具だった。

 真偽の魔道具とは、触れた者の賞罰を映し視ることが出来るもの。


 兵士がテーブルに台座を置き、瑠華に触るように促す。言われた通りに真偽の魔道具の上に手を添える。

 真偽の魔道具が一瞬光り手を退けると、そこにはなにも映されていなかった。なにもないのだから当然ではある。



 あったとしても、僕には“完全隠蔽”のスキルがあるので、隠そうと思えば隠すことができる。真偽の魔道具より、“完全隠蔽”のスキルの方がそのものが持つ“力”が上だから。

 けれど一応、もう一度言おう。僕には(やま)しいことはなにもない。ただ言ってみただけである。


 「はい、大丈夫ですね。ではこちらが、仮の身分証になります。期限は三日間。その間に正式の身分証を作って下さい。すみませんが、通行料の銀貨一枚は頂きます」


 懐から出すふりをしてアイテムボックスから取り出した銀貨一枚を渡して、仮の身分証を受け取る。礼を言って出ようとした時、従魔についてなにも言われなかったことに気付く。


 契約した従魔は街中で連れていてもいいが、その場合〔従魔の首飾り〕というものをしなければならない。

 〔従魔の首飾り〕とは単なる装飾品だが、“従魔”だという証明のものだ。これをしていない場合、魔物として斬り捨てられても文句を言えない。だから街中で連れて歩く時は、必須のアイテムとなる。

 先日確認した時、アイテムボックスには一つしか入っていなかったので、瑠華は二つ程買っておきたいと考えていた。



 というか兵士さん、貴方が言うべきことでしょう?思いっきり肩に幻獣(ムツキ)が乗ってるでしょう?



 「すみませんが、〔従魔の首飾り〕を二つ頂けませんか?」

 「ああ、そうでしたね。少しお待ち下さい。」


 兵士は、またもや一瞬面倒くさそうな顔をして奥に向かう。



 お前は新人か?表情くらい隠せよ……というか真面目に仕事しろよ?、と兵士の背中に少しの殺気を込めて念を送れば、兵士は飛び上がり辺りを見回した。



 若干イラっとしたのでつい………………てへ♪



 直ぐに兵士は〔従魔の首飾り〕を二つ持ってきた。何故かその顔は青ざめいて、怯えたような視線を向けられたので、瑠華は眼鏡を上げつつ、なにかありましたか的な素知らぬ顔で首を傾げる。

 兵士は青ざめたまま首を横に振る。〔従魔の首飾り〕は二つで銀貨五枚(ちょっと高いんだよね)。銀貨を渡すと逃げるように外に出ていった。瑠華は肩を竦めると、マリアとムツキの首に〔従魔の首飾り〕を掛けてからフードを目深に被り直して、外に出て冒険者ギルドを目指して歩き出す。


 もう何度も思ったが、懐かしさが込み上げ思わず笑みが溢れる。


 彼方の世界で生まれ育った場所とは、明らかに違う街並み。様々な人種が行き交う通り。一七年ぶりに見る慣れ親しんだ食材や、彼方の世界では玩具やコスプレでしか見ることのなかった、紛い物ではなく“本物”の剣や鎧といった装備品。


 【カイン】が当たり前に見て過ごしていた世界が、其処には広がっていた。



 門から続く大通りには沢山の屋台が立ち並び、美味しそうな匂いを漂わせていた。

 まだ昼には時間があるので食べ物の屋台は開いていないが、匂いはそこかしこからしている。


 (お腹が減っていると軽い拷問だな………)


 実際瑠華も、森での歩きと戦闘とその後の走りで小腹が空いている。後ろ髪を引かれるが、先ずは冒険者ギルドで登録しなければ、と大通りを進んでいく。

 匂いにつられ、マリアとムツキが鼻をひくひくさせていた。



 冒険者ギルドは街の中心に近い場所にある。大通りから少し離れた場所に三階建ての木造の建物が見えてきた。

 一本の剣が中心に立ちその後ろに二本の剣が交差している、というエンブレムを掲げた看板が入り口にぶら下がっている。


 冒険者ギルドの入り口の戸の前に立ち、ムツキを一撫でしてフードの中に入るように促す。



 念のために、ムツキには隠れてもらう。念のために、ね。




 扉を開けて、付いていた鈴のからんからんという音を聞きながら中に入る。ギルドの中には冒険者がそれなりに居た。早い者は既に依頼を受注してこなしている頃だろう。ここにいる者達は割りのいい依頼を取られた後か、遅れてきたか、逆に今帰ってきたところという感じか。

 こんな時間に隣接された酒場で、飲んでいる冒険者もいる。


 この場にいるほとんどの者から視線を感じる。全身を覆うローブと、目深に被ったフードで顔を隠しているからやはり目につくのだろう。

 興味、敵意、疑念、観察するような視線だ。


 そんなものはまるっと無視し、三つ並ぶ受付を見る。受付の女性は皆それなり以上に美人だった。

 人族、獣人族、人族と並ぶ。獣人族は犬耳だろうか。取り敢えず左の人が空いているのでそちらに向かう。


 「こんにちは、いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか?」


 近づく瑠華に気付き、受付嬢は笑顔で挨拶をする。瑠華も受付嬢の前まで行き、軽く頭を下げる。


 「すみません、冒険者登録をしたいのですが」

 「ご登録ですね?ありがとうございます。失礼ですが、成人しておりますでしょうか?」

 「はい、それは大丈夫です」

 「畏まりました。ではこちらに手を置いてください」


 受付嬢が取り出したのは、先程兵士の詰所で見た真偽の魔道具と同じものだ。水晶の上に手を置き、賞罰が無いことを確認する。


 「はい、大丈夫のようですね。では、こちらの紙に必要事項を書いて下さい。必要であればこちらで代筆を致します」

 「いえ、大丈夫です」


 差し出された登録用紙に書かれていた文字を見て、軽く心が舞い上がった。



 おぉ、懐かしい!って今までも散々見てきましたけれどね?改めてって感じで。僕にとっては十数年ぶりだけど、ちゃんとこの世界の文字が書けるね。良かった。



 登録用紙には名前、年齢、種族、主な武器、属性、その他(従魔など)を書く。全て書いた登録用紙を受付嬢に渡す。

 受付嬢は上から下までしっかり確認する。


 「お名前は、ルカ様ですね。はい、大丈夫ですね。召喚師ということですが、〔従魔の首飾り〕はお持ちですか?」

 「はい、門で兵士に頂きました」

 「ではこちらで登録致しますので、少々お待ち下さい」


 受付嬢は席を立ち、奥へと向かった。

 受付嬢を待っている間に、依頼でも見ようかな、と身体を動かそうとして止める。斜め後ろから強い視線を感じる。敵意と殺気が込められた視線。


 嫌という程身に覚えがあり過ぎる気配。


 (これが、テンプレってやつかな?)


 背中に感じるもの凄く懐かしい視線に集中していると、受付嬢が帰ってきた。


 「ルカ様、お待たせしました。こちらが冒険者ギルドのギルドカードになります」


 受付嬢から掌サイズのカードを受け取る。


 「ギルドカードは身分証にもなりますので、無くさないで下さいね。再発行は初回は銀貨一枚、次からは金貨五枚頂きます」

 「分かりました」


 以前も思っていたんだけど、金貨五枚ってぼったくり過ぎじゃないかな?


 「冒険者ギルドについて説明致しますが、宜しいでしょうか?」

 「いえ、説明は大丈夫です。ただこの二年の内に、なにか特別に変わったことがあれば知りたいのですが」

 「二年ですか?冒険者ギルドとしては、特に変わりはありませんね。もしなにか知りたいことがあれば、ギルド内にある資料部屋で調べてみてはいかがでしょう?」


 確かに資料部屋なら、ギルドの事や魔物の情報なんかも見れる。後で見に行ってみよう。


 「そうします」

 「冒険者ギルドについて、本当に説明は大丈夫でしょうか?」

 「ええ、知っているので大丈夫です」


 もう一度瑠華がきっぱり言うと、受付嬢は一つ頷き笑顔を浮かべた。


 「分かりました。今日から貴方はギルドの一員、冒険者です。これから励み、頑張って上を目指してください」

 「はい。よろしくお願いします」

 「あっ、遅ればせながら私はアミーナと申します。よろしくお願いいたします」


 椅子に座ったまま、ぺこんと頭を下げた彼女に口元が緩みそうになった時だった。

 横から野太い声が聞こえてきたのは。


 「おうおう、てめぇなに勝手にアミーナちゃんと話してるんだよ!てめぇみたいなローブ野郎、アミーナちゃんは相手にしねぇよ!分かったらさっさと出ていけ!このピ――――――野郎!」


 言葉が汚いので自主規制入りました。


 「…………」


 瑠華は黙ったまま立っていた。受付嬢ことアミーナは止めようか誰かを呼ぶか迷っているように、瑠華と瑠華の横を交互に見ていた。


 「てめぇ!聞いてんのか⁉」


 野太い声の(ぬし)は痺れを切らしたように声を上げ、瑠華の肩を右横から掴もうと手を伸ばす。

 そちらには一瞥もくれずに、瑠華は一歩後ろに大きく下がり、男の手を空振りさせると、男はバランスを崩して前のめりになった。そして前のめりになった男の足を軽く払い転倒させ、そのまま片方の足首を踏み砕く。

 およそ人体から鳴ってはいけない音がして男が絶叫を上げる。


 瑠華はそれにすらなんのリアクションもせずに踵を返し、依頼が貼ってあるボードに行き、Gランクの依頼を三つ適当に選び、受付まで戻った。


 受付の前で男が丸まって足を抑え呻いていて邪魔だったので、足の側面で軽くボールを横に蹴るような感覚で男の尻を蹴れば、男は十メルは飛んで壁に激突し動かなくなった。


 やはり瑠華は男には視線も向けず、受付嬢に声を掛ける。


 「すみません、この依頼を受けたいのですが」


 アミーナに依頼の紙とギルドカードを渡すが、アミーナはぽかんとして瑠華を見上げていた。ギルド内にいる他の冒険者も、口を開けて間抜け面を晒している。



 ギルドは静寂に包まれていた。



 その中で、英雄だけが不思議そうに首を傾げていた。






読んで頂いてありがとうございました。

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