追憶 二年前の戦争
ここから六話、過去編が続きます。
これは、“生きた伝説”と呼ばれる物語。
二年前――
この世界、ヴェントゥーザで異世界より召喚されし勇者、その仲間達と邪悪なる者、邪神との闘いがあった。闘いは世界をも巻き込む戦争となる。
勇者と邪神の力は拮抗し、闘いは熾烈を極み、両者とも一歩も引かなかった。勇者を支える仲間達も激しい闘いの中、自らの武器を握り立ち向かった。
勇者は三年の旅を経て得た仲間と絆を信じて、自らがもつ全ての力を出しきって闘った。
邪神を倒す。
それが彼がこの世界に喚ばれた理由であり、与えられた使命なのだから。
世界が、人々が“それ”に気付いたのは小さな変化からだった。ほんの些細な違和感。
魔物の数が増えた、いるはずのない魔物がいた、稀少種を見た、異常種を見たなど、時折見られる些細な変化だった。けれど、その変化の数が次第に増していった。
世界各地で変化が起きていた。
とある国で、魔物による暴動が発生する。それ事態は、別に珍しいことではない。どこの大陸や国でも、一年に一度は起こることだから。
けれど同じ場所で五日後に同じ事が起こった時、違和感はある推測へと変わる。
―曰く、邪神が現れたのではないか。
その推測は多くの者達の頭に浮かぶが、誰も口には出せなかった。言葉にしてしまったら“それ”が現実になってしまうんじゃないか、という不安が人々の口を閉ざした。
しかし、人々の不安は現実となる。
世界五大国が一つ、ランクオーネ公国が誇る貿易の要である港街が、突如空から降り注いだ無数の炎に呑み込まれる。人々はなにが起こったのか理解できないまま逃げ惑う。
街は火の海となり、崩壊していく。街に住む者達はその様を、絶望に囚われながら見ていることしか出来なかった。
その時、空から人々の耳に“声”が届いた。
――我は邪神の眷属なり。我はここに、邪神の復活を宣言する。これは我が主に捧げる祝いである。
その日から、世界中で魔物の数が激増し活発化していった。
各国は厳戒態勢を敷き、魔物の脅威に備えた。魔物から力なき人々を護る為、騎士や冒険者達は武器を取り闘った。
多くの血が流れ、少なくない犠牲を出した。
そんな中、一つのクランの名が上がる。
《紫紺の太陽》
元々、そのクランは有名であった。
先ず彼らの出で立ちが、黒で統一された軍服のような綺麗な服と装備、右の上腕部分に結ばれた紺の布。揃いの衣装が、人々の目を引いた。
次いで、クランのメンバーに注視する。
人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族、妖精族、そして魔族。多種族の者が所属していた。
世界的に、人種差別がないわけではない。五百年前までは、人族が他種族を支配し、奴隷としていた歴史もある。
現在では人族以外も国や街を造り、友好関係を築いている。
けれど一部の国や宗教では昔の慣習が残っており、人族至上主義が掲げられている地すらある。
種族間の因縁、蟠りというのもある。
遥か昔より、エルフ族とドワーフ族は互いに相入れない存在で、決して交流を持とうとしなかった。
他の種族にも、少なからずそういうものがあった。
故に《紫紺の太陽》の、種族に関係なく仲間として手を取り合い、笑い合う様に驚く。
そして戦いになれば洗練された動きと統率力で、冒険者のイメージ―粗野で横暴、協調性に欠ける、不潔―とかけ離れていたことから依頼主やギルド関係者、一般人の印象に残ることになる。
そして《紫紺の太陽》を有名にした最大の要因は、世界で数千万人いるという冒険者の中でも、たった三人しかいないSSSランクの一人が創立し、リーダーを務めていたからだった。
カイン・フューナ・フィンランディ。
この世界において、必ず誰もが持つ魔力を欠片も持たない彼は、剣を初めとする様々な武器、ほとんどその概念がないとされる格闘術、魔力とは違う身体に流れる“気”を使った技術などを用い戦う。
中でも剣技は、一流と名を馳せる剣士でも全く相手にならない程卓越しており、他の者の追従を許さなかった。
《紫紺の太陽》は世界各地で、邪神の眷属と眷属が力を与えた魔物と戦い駆逐していく。
そして常に誰よりも前に立ち、皆を率いて戦うカインの姿を見て、人々は彼を“英雄”と呼ぶようになる。
怯まず、諦めず、血を流しながらも人々を護るその姿に後押しされ、各国の騎士や冒険者達は劣勢だった状況を覆していく。
人々が奮起した結果、邪神の眷属や魔物達の勢いは削がれ、戦況は拮抗するまで持ち直した。
邪神の眷属は人々が持つ力に戦いたのか、世界各地から気配を消し身を潜めた。
世界に、一時の仮初めの安らぎが訪れる。
人々はこれを逃さずに、態勢を整えていく。
そしてこの時、世界五大国が一つ、ジルトニア皇国に一つの神託が下る。
勇者召喚の神託である。
ジルトニア皇国は神託に従い、勇者召喚を執り行う。
そうして黒髪黒目を持つ異世界の者、桐生暁がこの世界に降り立つ。
勇者の闘いの師には、英雄が就いた。
英雄の指導の下、勇者としての強大な力を身につけていき、僅か一月で邪神を探し倒す為に英雄と共に旅に出る。
勇者は旅で多くの経験をし、出逢いと別れを繰り返しながら、かけがえのない七人の仲間を得る。旅を通して皆で成長しながら、勇者と英雄を中心に強い絆を結んでいくことになる。
そして三年後――
勇者と邪神は相対す。
勇者の為に邪神へと剣が届くよう英雄が、剣士が、槍戦士が、重戦士が武器を振るい、魔女が、精霊術師が魔法を放ち、聖女が、神官が皆を護り癒しながら支援をする。
勇者一行と邪神の闘いの邪魔をさせないよう、世界中から集った各国の騎士や冒険者達が、邪神の眷属と集められた魔物達と闘う。
激しい闘いの中、ついに勇者によって邪神は倒され、世界が光に満たされた。
それが、世に伝わった情報である。
英雄の死とともに―――
邪神は、世界の終わりを願う。
それが、邪神が生まれた“意味”だから。
己の力を与えた眷属に、世界の破壊を命じる。邪神の眷属は、力と知恵を使って人や街、国を襲う。
人々は武器を持ち抗うが、強大な力の前には無力で“弱者”であった。
だから弱き人々は、勇者に縋る。英雄に願いを託す。勇者一行に希望を夢見る。
邪神を倒すのは、“勇者”。
それは一つの決まり事。
けれど、世界は救われない。
英雄は知っていた。解っていた。
神との約束。
神の願いを受け入れ、この世界に生まれた理由。
果たさなければならない約束の為、そして自らの願いの為に、英雄は死を受け入れ、唯一つの魔術を謳う。
そうして、世界は光に満たされた。
だがこの時、静かに動き出していた歪んだ歯車の存在に、気付いている者はまだ誰もいない――――
読んで頂いてありがとうございました。




