↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/98

幕間 勇者と聖女の怒り

前半は勇者視点、後半は聖女視点です。

 「はぁぁぁあっ‼」


 勇者が振るう火の聖剣の一閃。

 それだけで周囲に群がる魔物達の十数体が、血飛沫を上げながら倒れる。

 勇者とそして共に戦う者達を囲む魔物の軍勢は、恐れるように後ずさる。目は逃げるか戦うか、迷うように揺れている。

 勇者達はこの機を逃さず、武器を手に猛攻し魔物達を殲滅(せんめつ)していく。

 街に侵入し暴虐の限りを尽くしていた二百体を越える魔物の群れは、勇者達によって全てその命を狩り尽くされた。





 「お疲れ様でした‼勇者様‼」

 「ありがとうございます!勇者様‼」

 「本当にありがとうございました‼」


 尊敬の眼差しで元気一杯に告げる者、涙を流してお礼を言う者、(うやうや)しく静かに頭を下げる者、黄色い声で叫びながらその声に熱を乗せて囁く者、様々な人達で決して広くはないその場が、騒然としている。



 ―――まるで見せ物みたい………。



 人々が道の左右に別れて、遠まきに自分達に声をかける姿に、そんなことを思う。



 “勇者”として邪神を倒してからというもの、容姿の特徴が世界中に知れ渡り、行く先々でこんな感じだ。

 いや、勇者が“黒髪黒目”っていうのは召喚されてから、噂話で囁かれていたけれども。

 というかそれ以前に伝承として、歴代勇者は全員黒髪黒目だったと伝わっているから、直ぐに身バレするんだけど。


 旅に出てから“勇者”と知られると騒ぎにはなっていたけど、“邪神を倒した”という事実がそれを顕著(けんちょ)にした。


 黒髪黒目はこの世界では、特にこの大陸では大変珍しい。いない、と言った方が正しいかもしれない。どちらか一方を持つ人になら逢ったことがあるけれど、それも極僅か。その人達も、別大陸から来た旅人のようなもの。


 英雄の話では、遥か東にあるロドウィン島と呼ばれる、小さな大陸?に黒髪をもつ人達がいるらしいけど、その人達の中でも黒目をもつ人は珍しいらしい。

 ちなみにその人達の料理は薄味で、彼方の世界の味に似ているらしく、英雄が初めて食べた時、懐かしくて感動で涙が滲みそうになったとか。

 俺の場合、英雄が彼方の世界の料理を再現して作って食べさせてくれてたから、そこまで恋しいと思わないなぁ…………とここまで考えて、思考することを止めた。

 気持ちがず――んと下がり、膝を抱えたくなった。



 英雄が目の前で死んだ事実が、重く心にのし掛かる。二年経った今でも、英雄のことを思えば悲しみが胸に溢れる。


 俺にとってそれ程に、彼の存在は大きかったから。



 俺がこんな状態なのだから、聖女の悲しみを思えば辛くなる。でも彼女はそれを周りに見せないよう、気丈に振る舞う。それが余計に、皆の心配を煽る。聖女もそれを察して更に笑顔を振り撒く、という悪循環が出来上がっている。

 なんとかしなければと思うが、下手なことをすれば彼女の心を(えぐ)ることになるから慎重になる。

 俺達は、今は見ていることしか出来ない。


 聖女に本当の笑顔をさせられる人物は、たった一人だけ。そのたった一人がいないのだから、どうしようもない。



 しかも更に頭を抱えたくなるようなことが、二つある。

 一つは聖女の心が弱っているのをいいことに、そこにつけこむ馬鹿でアホで、自分を“聖女に相応しい良い男”と思っている愚か者の存在だ。

 身分はとある侯爵家の長男で、女性が十人に八人は格好良いと言うぐらいには容姿は整っている。性格も少し他者を、特に平民や魔力が低い人達を見下す傾向にはあるが、(おおむ)ね温厚で優しく人当たりもいい(と勇者は思っていた)。

 確かに聖女、というか皇女様には相応しい相手ではある。


 だがしかし‼皇帝陛下を初め、皇妃様皇太子様、皇子皇女様方、皇国の有力貴族(特にフィンランディ公爵家)、勇者一行の一人で聖女の親友の神官、そして俺は一切その男を認めていない‼


 聖女もその男の相手はするが、笑顔は誰が見ても作り笑いだと分かるものだし、瞳も極寒の如く冷えきっているのに、何故あの男は気づかないのか?

 何故自分は聖女に好かれていると、声を高々に周りに言いふらしているのか?

 あの男が聖女に近づけないよう、周りが然り気無く邪魔をしているというのに、それすら気づかず聖女を探しだし、自らの愛を囁く。


 馬鹿なんじゃないの?、と皆面と向かって言いたいのを堪えている、とよく愚痴っている。


 俺は知らなかったんだけど、英雄が居た時から、あの男は聖女に言い寄ってはいたらしい。

 聖女が英雄に恋しているのは、誰が見ても明らかだったのに(聖女は隠していたみたいだけど)。


 あの男も勿論それは分かっていたから、よく英雄を見つけては決闘を申し込んでいたらしい。英雄は全く相手にせず、眼中にすら入れていなかったから、結局決闘は行われなかったらしいけど。


 しかも、いつものらりくらりと避ける英雄に業を煮やしたのか、ある時いつものように声を掛けて、英雄が“欠陥色(けっかんしょく)”であることを最大限に見下し、これでもかと罵詈雑言を吐きまくったそうな。

 あまつさえ、その場に聖女が居たにも関わらず、彼女の目の前で言ってはならないことを言ってしまった。



 ―――無能は死ね。



 これには聖女のみならず、皇帝陛下や英雄の父親であるフィンランディ公爵様も動いた。

 普通に考えて(俺は一般市民でしかないので知識でしか知らないけれど)、侯爵子息が公爵子息に対してとっていい言動ではない(言われた当の本人が、全く気にしていないとしてもね)。


 それにこの時既に、英雄は冒険者ランクがSSランクになっていて、ジルトニア皇国だけではなく、獣人の国ティアッティマレイと、魔族の国ミシュッピィ・ソファディと冒険者として契約していた。




 国と冒険者の契約は、冒険者が国の後ろ楯を得るようなもので、Sランク以上になると大抵どこかの国と契約する。


 契約すると、主にその国で冒険者として依頼を受けるけれど、別に他の国で依頼を受けてはいけないってことではない。当然、契約した国にはいい顔はされないけれど。


 契約は、ほぼ一つの国とだけ。三つの国と契約しているのは英雄だけ(これには他の国も納得する理由がある)らしい。


 ちなみに俺は一応冒険者ではあるけれど、どこの国とも契約していない。

 “勇者”だから、ね。



 でもほとんど、ジルトニア皇国で活動している。

 だって英雄がいた国だし、召喚された場所だから思い入れがあるんだ。

 そんなこと絶対に口には出せないけど。


 話は逸れちゃったけど、そんな世界的に有名で重要な人物に対して、“気に入らないから”ってだけで喧嘩売っちゃいけないよね。一つ目の理由だけで、アウトだと思う。


 言われた当の本人は、本当に全く、心の底から、雀の涙ほども気にしていなかったから、滑稽(こっけい)(あわ)れだと思うけど。

 でも侯爵家が責められて、あの男が断罪されても周りを止めないんだから、英雄も少しは怒ってたのかな?


 というか侯爵家も、原因を作った人間をそのままにしてるのはどうなのかな?なにか理由があるんだろうか?


 まぁ、俺は本当に貴族のことはさっぱりだから、余計なことは言わないし、言えないけれど。


 これが一つ目の面倒で厄介な、頭が痛くなる。


 聖女は英雄を失った悲しみを癒せずにいるのに、そんな男の言動に心を痛めている。いつか倒れるんじゃいかと周りが気が気ではないというのに、更に追い討ちをかけるような馬鹿共が現れた。


 それが二つ目の嫌な話、なんだけれども………。


 その馬鹿共のことを思い出し、そこでまた思考を切る。あいつらを思い出すと、冷静でいられないからだ。

 身内しかいないような場合なら、心のままに愚痴るけど、ここは人目がありすぎるからね。



 凱旋のようになっている道を進み、宿へと入った。そこでも盛大にお礼を言われるが、相手もそこそこに借りている部屋に向かった。部屋に入ってベッドに腰掛けて、一息吐く。


 「お疲れ様です、アカツキ」


 俺が一息吐いて落ち着いたのを見計らって、この街に一緒に来ていた神官が声をかけてくる。



 フィーリア・ランベージ。

 勇者一行の“神官”と呼ばれる人。ジルトニア皇国ランベージ伯爵の次女で、身長は160前半、腰まである美しい金髪、瞳は淡いエメラルド、キメ細かい白い肌、細く均等のとれた身体を白い聖職者の制服で隠している。その顔にはいつも穏やかな微笑を浮かべていて、慈悲深く誰にでも優しい。

 俺がイメージしていた神官像そのまんまの人。


 でも俺が英雄にいじ………遊ばれてても助けてくれない。曰く、“英雄様”が恐ろしいから、巻き込まれたくないらしい…………………ぐすん。


 そして俺が心から愛する人。



 彼女は子供の時から神殿に通っていて、自らの癒しと護りの力で聖職者と共に働いていたらしい。

 そして邪神が現れ眷属達が動き始めてからは、神殿が支援する慈善活動として世界を巡っていた。

 その時に俺と出逢った。

 俺はフィーリアの直向(ひたむ)きな強さと、優しい心に惹かれた。



 「うん、お疲れ様。結構な大群がいたね」

 「ええ、間に合って良かったです」


 お互いに顔を見合わせ、笑い合う。




 俺達は、この街から冒険者ギルドに緊急依頼が出され、その依頼を皇都のギルドマスター経由で知らされて、急遽この街に来た。

 街のすぐ側にある森に、魔物が集まっているという情報で来てみれば、街が既に魔物の侵攻を受けていた。

 先ずは街に入り込んだ魔物から始末し、徐々に森の手前まで押し返して、そこで一気に殲滅した。


 緊急だった為、こちらはフィーリアと偶々近くにいたAランクパーティー三人の計五人しか来れなかったが、なんとかなって良かった。

 ちょっぴり不安ではあった。魔物と村の状況が分からなかったから。なんとか殲滅できて本当に良かった。


 でも今ここに英雄がいたら怒るんだろうな、と思う。常日頃から、いつでも戦えるように万全に準備しておけって、何度も何度も繰り返し言われていた。


 フィーリアとデート中だったんですって言った瞬間に、アイアンクローされ、服の中に英雄が愛する従魔のキャタピラーさん(勇者専用教育アイテム)を入れられるんだろうなぁ…………………………ガクブル!



 この世界に来て出来た、二年間更新されず、これからも更新されないであろう心のトラウマノートが開きかけたので、そっと閉じる。

 思い出してはいけない。見てはいけない。心の平穏の為に。


 そんな心の中でブルブルしていたら、フィーリアが隣に座り労るように頬に触れてきた。


 「先程、悲しそうな顔をしていましたが、なにかありましたか?………またカイン様のことですか?」

 「うん、アオのこともそうだけど、聖女……レミーディアのこともね」

 「そうですか…………」


 フィーリアも辛そうに顔を歪ませる。彼女はレミーディアと親友だから余計だろう。

 フィーリアもレミーディアになにもしてやれない自分に苛立っているし、例の男に関して暗殺でもするんじゃないかってくらい殺意を抱いている。ちょっと怖い……………。



 その時、窓から一羽の鳥が入ってきた。

 その鳥はジルトニア皇家で契約している、連絡などの役割を担っている幻獣の鳥である。呼び名は連鳥(れんどり)……………この世界のネーミングセンスに一度もの申してみたい………。


 窓から入ってきたレンドリさんは、色鮮やかな姿をしている。体は全体的に明るい赤だが、頭の上に触角のように後ろに伸びている長い毛は金に近い黄色。尾羽は根元から先にかけて、赤から青へ徐々に変わっている、というなんとも目立つ鳥である。

 能力は素晴らしく、連絡役や伝達などを失敗したことはないらしい。

 ジルトニア皇家初代当主が、勇者と共に旅をしていた時からの相棒らしく、九百年間ジルトニア皇国を見守ってきた存在だ。

 けれど、彼から過去を聞くことはほとんど出来ない。何故なら彼は、要件以外は話さない超絶無口な鳥だからだ。


 ちなみに俺も、レンドリさんと同じ幻獣と契約している。

 邪神討伐の旅の途中に英雄から紹介され、契約した。今は里帰り中で一緒にはいない。


 名前は【そうくん】。くんまでが名前だよ。

 呼び捨てになんかしたら、英雄様から見事な踵落としがくるんだからね?



 余談だけど、この世界には通信機の魔道具がある。だが数は少なく、主に皇軍で使われている。

 俺も持っている。英雄に貰ったの。

 凄いよね~。英雄ったらなんでも持ってたんだよ。それを簡単に人に渡すの。ビックリだよね?



 フィーリアがレンドリさんに近づき両手を差し出しば、レンドリさんは静かにその手に乗った。フィーリアはそのままの状態で俺の前に連れてきた。俺の前に来たレンドリさんは、小さな嘴を開き話し始める。とっても格好いいダンディーな美声で。


 「勇者よ、緊急の話がある。急ぎ皇都に戻られたし」


 皇帝陛下からの呼び出しだ。


 「皇帝陛下からですか。なにかあったのでしょうか?」

 「う~ん、また魔物関連かな?」

 「でしたら、急いで帰らなければなりませんね。明日は早朝に発ちましょう」

 「了解」


 要件を伝えたレンドリさんは、直ぐに皇都へと飛び立っていったので見送り、明日の為に早々に休むことにした。まだ空は茜色に染まり始めたばかりで、外では街の人達が忙しく動き回っている声が聞こえてくる。


 今回の魔物の襲撃では、ほとんど街の人達には被害はない。森に魔物が集まっているのを見つけた時から、なにがあってもいいように森から離れていたらしい。

 だから街自体の被害はあるけど、少数の軽傷者ですんだようだ。

 というわけで、俺達は宿で休ませてもらうことにした。


 フィーリアと一緒に軽く食事をしてゆっくりと休み、次の日の早朝に俺達は街を出た。



 そして皇都に戻った俺達は、直ぐに皇宮に向かい皇帝陛下から話を聞いた。


 そして今、俺の心は怒りに染まっている。


 皇太子であるグレン様が、カーウェン鍾乳洞で異世界の者を発見した。それも一人ではなく十一人もだ。しかも更に居るらしい。


 それを聞いて顔をしかめる。


 それはありえない、あってはならないこと。


 異世界の者がこの世界に来るのは、勇者召喚のみだから。それ以外は決してない。創造神セラフィミリム様がしない。

 勇者召喚は邪神を倒す為に行われる儀式だから、邪神がいない今、そんなことは行われない。


 なら何故、異世界の者が居るのか?

 人間が召喚したってこと?神の御業を真似て?なんの為に?



 悪いことの為、としか思えないよなぁ…………。



 許さないよ?

 英雄が、アオが命をかけて護った世界を、皆が安心して暮らしている平和を壊そうとしているの?

 何処の誰だが知らないけど、そんなこと俺が許さないよ?


 アオが認めてくれた勇者の力で、完膚なきまでに潰してやる―――








 そしてこの(のち)、俺に一つの神託が下ることになる。






          ☆☆☆






 朝露に濡れる草木が、朝陽に照らされキラキラと光っている。

 あの場所に行くこの時が、今のわたくしにとってかけがえのない時間。

 愛しい方を亡くした痛みは、癒えることなく私の心にある。きっと一生、癒えはしないだろう。

 けれど、それで構わない。


 私があの方を忘れることなど、生涯あり得ないのだから。



 坂道を登っていくと、皇都を一望できる丘に出る。


 皇都の後ろに(そび)える聖なる森。その森との間にある小さな丘。そこに、二年前の戦争の慰霊碑をつくりました。

 ここには、誰の遺体も埋葬されておりません。身元が分かる方はそれぞれの家に、身体の損傷が激しく身元が分からない方、身内がいない方などは()の地で皆が見守る中、癒しと浄化をもつ神聖な焔で供養しました。


 愛しい方もフィンランディ公爵家の領地で、公爵家のお墓に入られ、静かな眠りへとついています。

 フィンランディ公爵家の領地にはあまり行けませんから、こうして慰霊碑に毎日毎朝来ております。


 愛しい方を思い出すのは、嬉しくて悲しくて辛くて、泣きたくなるような愛しさが込み上げてきます。


 だから私にとって、この時間がなによりも大事。


 ここに来た後は気持ちが溢れてしまって、自分でも分かるくらい笑顔がぎこちなくて、そんな私を皆が心配してくれていることは身に染みて分かってはいるけれど、ここに来ることは止められない。

 父も母も兄弟達も誰も、行くなとは言わない。皆の優しさに甘えている自覚はあるけれど、私はここに来る。

 それが、私を私として保つ為に必要なことだから。



 慰霊碑に黙祷を捧げ、心を落ち着かせるように深く深呼吸をする。瞑っていた瞳を開き、最後に愛しい方を想い笑顔を送る。


 振り返れば、二人の護衛が静かに佇み待っていてくれた。

 勇者と神官の親友がいる時は彼等と三人で来るけれど、今は魔物討伐の依頼を受けて皇都を離れている。私は一人では皇都を離れられないから、二人がいない時はこの二人が一緒についてきてくれる。


 カミラ・フォウス・フィンランディ。

 キース=ウィレア・トラン・ディザーレウェハス。


 フィンランディ公爵家三男と皇家第二皇子。


 この二人は、特に一緒に居てくれる。忙しくて側にいられない両親や兄の代わりに。二人に感謝の意を込めて小さく頷いてから、近くの木に繋いでいた愛馬に声をかけて跨がり歩を進める。

 二人もなにも言わずに頷き返して、馬に乗り追従してきます。


 二人は黙ったまま。

 私がこの時間を大切にしていることを知っているから、一言も発することはない。



 そのまま皇都の門まで愛馬をかっぽかっぽと歩かせながら行くと、いつもより騎士の数が多くいました。通常、門の騎士は二人のはずなのに四人いる。私は不思議に思い、キースに視線を送り意味を問う。

 するとキースも知らないのか、眉を寄せて隣のカミラを見やるが、けれどカミラも知らないらしい。

 なにかあったのでしょうか?


 不安に思いながら、門へと近づいていく。


 「お帰りなさいませ、レミーディア皇女殿下、キース皇子殿下」

 「はい、ただいま戻りました」

 「ご苦労様。なにかあったのか?」


 私の斜め後ろから、キースが問いかけます。


 「はっ、皇帝陛下より皇女様、皇子様が戻られましたら謁見の間に来るように、と」

 「直ぐにか?」

 「戻り次第と仰せです」

 「分かった。直ぐに参ります、と皇帝陛下にお伝えしてくれ」


 騎士は一礼して踵を返し馬に乗り、走り去ります。

 私達も急いで皇宮を目指しました。




 皇宮に着き、馬から降りて近くの騎士に預けて入り、自分の部屋へと行き、侍女に身なりを整えてもらってから謁見の間に足を運ぶ。扉を守る騎士に目線をやれば、(うやうや)しく頭を下げ重厚な扉を開ける。


 既に、私以外の主だった者は集まっていた。キースやカミラも定位置に着いていた。私は玉座に座る父の前で淑女の礼をとる。


 「遅くなってしまい申し訳ありません、皇帝陛下」

 「よい、まだグレンも帰ってきておらぬでな」

 「お兄様、ですか?お兄様になにかあったのですか?」

 「いや、グレンになにかあったのではない。ただ昨夜、グレンから緊急通信が来てな、その内容についてだ」


 お父様の気配が険しい。なにかよからぬ事が起こったに違いありません。



 皇太子であるグレンお兄様は、三日ほど前にカーウェン鍾乳洞に精霊石を求めて向かいました。

 カーウェン鍾乳洞は、精霊様が支配する領域。立ち入ることは本来なら得策ではありません。

 ですが最近、世界中で報告されている奇妙な出来事に対応する為に、精霊石が必要になるかもしれないのです。


 それなので、カーウェン鍾乳洞に住む精霊様達に敬意を示す為に、皇太子であるお兄様が行かれました。


 その地で一体なにがあったのでしょう…………。



 その後直ぐに、お兄様がご帰還なさったと連絡が来たので、私は母の隣、第一皇女の席に着き兄の到着を待ちました。





 そして兄が謁見の間に入ってきた時、私の心臓は痛いほど跳ねました。

 兄の後ろから謁見の間に入ってきた者達は、明らかにこの世界の者では滅多にいない色合いと雰囲気をもっている方達。


 そう、異世界から召喚された勇者、アカツキ・キリュウ様と同じ気配。

 どういうこと?何故、彼等はここにいるの?


 皆が驚愕する中、兄が彼等について説明をし、また彼等にも話を聞きました。


 やはり彼等は異世界の者でした。突然地面が光り、そこに吸い込まれて気づいたらカーウェン鍾乳洞で倒れていた、と。


 彼等は神様によって召喚された者達ではない。

 神様は、創造神セラフィミリム様はこんなことしない方。

 ならば神様以外、即ちこの世界に生きる者。



 なんの為に?邪神はいない。では異世界の者を召喚して、なにをさせるつもりだった?ただ召喚してみたかっただけ?……………いいえ、そんなことあり得ない。


 意味は分からない。けれど一つだけ、予感がする。


 よくないことが起きる。


 この世界の平和が足下から崩れていく、そんな予感。


 ただの気のせいならいいのだけれど……………。



 けれどもし、この平和を壊そうという者がいるのなら、わたくしはその者を許しません。


 わたくしの愛しい方が願った世界を壊すというなら、わたくしが敵になりましょう。




 覚悟なさいませ。




 わたくしは愛しい方の為ならば、あの方が美しいと言って下さったこの手を、血に染めることも(いと)いません。




 後悔なさいませ。




 二度と愚かな妄執に囚われぬよう、その心根叩き潰して差し上げましょう。





 叶わぬ祈りを捧げて待っていなさい。









読んで頂いてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。