ストレイトスと地の…
ストレイトスと地のウドゥンが斬りあい、名乗りあう少し前。
ノームの商隊が宿泊する、宿の玄関にて。
店内の惨劇を見て卒倒したオレリアを背負い、宿に帰りついたヘヴィ・ランサー、エイリは、オレリアの父親、彼女の雇い主―ヴィクトリオ・シィ・シルエトクとはち合わせてしまった。
オレリアをベッドに寝かせ、報告に降りたエイリに語る、ヴィクトリオが言うには―。
「娘には、情熱が足りない」
~
また始まった―。エイリは槍斧を台座に立て、総て聞き流すことに決めている。いつもの話―。いつもの―。
「僕の子供のころに比べ、あの娘には、情熱が、何かを切り開こうという、気迫がない」「僕があのくらいのころに比べ、確かに僧侶としての鍛錬はしているようだが―いつかは、僕の後を受け継ぐ、誰かに嫁ぐことになる」「僕はあのころ、父の後を継ぎ、行商隊を盛り上げようと―必死だった」
男は―ヴィクトリオは、そこまで語るとエイリの方を振り返り、エイリを舐めるように見るが―エイリは、目を閉じ、何も―何も聞いていない。男は、抑揚をつけ、再び語り出す。
「年頃の娘の気持ちなど、男の僕には解らないものだが―娘はいつまでも少女のままで、―先月で11だが―レディには成りきれていない」「僧侶のまねごとも、祖母の―僕のお袋を真似て始めたものだ」「誰かの後を追うだけで、娘のままで―」―君のようにはなれない。
ヴィクトリオは、娘の父親はそこで言葉を区切り、商品の香木を焚きだした。
―この香りいいだろ? 先の街の鍾乳洞のものだよ。疲労を癒すそうだ―。
エイリは聞き流す。エイリの意見は違う。あの娘の祈りは、自分の出生を受け入れ、自分の住む世界を古き地霊や祖母に―娘は祖母の影響が大きい―報告するためだ。あの娘は―。
「話を戻そう。護衛の君にはなついていて―だから君に任せてあるのだが―姉のように、思っているようだね。だが―」「君は、母親だった―かもしれない」「ワイフがあれを産んだ日、私は天に飛ぶ気持ちで、君のような、男を燃え上がらせる人に、してみせると―」「君の甲冑の下の、燃えるような―」
長い、長い、視線をちらつかせながらの話。娘の眠る寝室の下で、この男は―。
いつか行灯が消え―。豪快に張り倒す音が聞こえたころ。風も絶えて―。