風も絶えた都市の時…
風も絶えた都市の時計塔で―アウリュ・サイは夜の空を眺める。空には上弦の月しかないはずだが―はるか地平線。空とサンドストームの境界に黒く光る星たちを認め、黒の狩猟着は夜の闇に紛れて―。
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いつものように口説いてきた雇い主をエイリが張り倒したころ。目を覚ましていた雇い主の娘が寝ぼけた意識で商隊の猫―イヌハに、祖霊信仰の教義や今日一日を語っていたころ―。宿の灯りが消え、窓から見える外の街なみも灯りを消し―猫の眼が外の闇の中をとらえ、唸りだして―。娘―オレリアが猫の視線を追い、悲鳴を上げ、その場に倒れたころ―。
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この街の地下には息吹がある。黒き星々は未完の世界の残さ。空間を一点に爆縮する奴の魔族の王剣―。奴が門を肉体に収めた時。外世界を集め―呑み込み―。
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張り倒されたヴィクトリオが倒れるのと、オレリアが悲鳴を上げるのは同時で―エイリは階段を駆け上がり、二度目の卒倒をした娘を抱きかかえて―猫の様子に気づく。
女が外に目を向けたときと、宿のものが悲鳴を上げたのは同時で―。
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「もはや戻れぬ生命の園―届かぬ星々―手を延ばし、それでもつかめぬ光―求め―」
風のない夜を埋める死臭。魔族、闇黒の側の、黒衣の詩人がつむぐ詠唱文言―月の砂漠。
詠唱は一つの都市に染みわたり、寺院に眠る死者を呼び起こし―死者は夜の都市をさ迷い、人を喰らい―商隊の宿にも押し寄せ―。
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「―風と灯りが消えた。何者かが―魔族か、その配下が、寺院の死者を揺り起こしている」「ならば寺院の少ない東の倉庫街を抜け、南東の門から脱出しろ」―ヴィクトリオは娘を背に負い、死者の群れを抑えるエイリを振り返るが―。
「すぐに隊をまとめろ―お前が商隊と娘を思うのなら―走れ! 」
それだけをいい、エイリは、その槍斧と甲冑に鈍い色の光砂をまといはじめ―死者を薙ぎ倒す。
その槍斧の炎も暗闇に見えなくなり―ヴィクトリオは裏口から飛び出した―。




