瑠璃さん視点6(下校)
遅れました。
◇◆◇◆
下校時
彼は意識しているのか無意識なのか、ならんで歩く彼は常に車道側を歩いてくれました。足の遅い私に歩幅をあわせてくれました。
優しい彼と一緒にしゃべりながら夜道を歩くのはとても楽しかった。
できればもっとしゃべっていたい。こんな私と一緒に帰ってくれる彼ともう少しだけ一緒に歩いていたい。
彼と話すうちに、家に近づくうちに、悪いと思っても私は歩くペースを徐々に落としてしまいます。
でも彼は嫌な顔もせずまたペースをあわせてくれました。
「瑠璃さんはさ、なんでこの部活に入ったの?。別に嫌味とかなしに純粋な興味なんだけど。」
家までもう少しのところまで来た時でした。彼は話の話題に部活の志望動機を持ってきました。
たくさん話したんですからいつかこの話題が来ることはわかってました。
......できればこの話題は来てほしくありませんでした。
自分を変えたくて入ったなんて言ったら変な目で見られるかもしれない。
嫌われるかもしれない。もう一緒に帰ってくれないかもしれない。
焦りと不安でどうにかなりそうでした。
「......幸一くんはなんでこの部活に入ったの?」
何とか返事を返そうとして的外れなことを聞いてしまいました。
怖くて彼の顔が見れません。きっとこっまった顔をしているに違いありません。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなs
「僕はね、役者志望でここに入ったんだ。別に人の前に立ちたいとか、特別目立ちたいわけでもないんだけどね。まぁなんて言ったらいいのかわかんない。でも役者をやってみたかった。
だからこの前台本が配られたときすごく興奮したんだ。ほら、彼女を成仏させていいのか悩んでいる主人公を狂わせた源因の主人公の親友。あれを演じたら面白いだろうなと思ったんだ。
だからね。僕練習頑張ったんだよ。毎晩毎晩台本を読んで。オーディションを楽しみにしてたんだ。
でもね、落とされちゃった。
他の演劇部の男子一年生は役をもらえたのにね。あれには少し堪えたよ。」
そうだったんだ。やっぱり幸一くんは役者志望だったんだ。やっぱり私と一緒に小道具に配属されたのは不本意だったんだ。
「でもそのおかげで瑠璃さんと仲良くなれたのはよかったかな。」
......思考が一瞬止まった。耳を疑った。
今彼はなんていった?こんな私と仲良くなれたことがよかったって言ったの?
こんな私と?私と仲良くなたことが?
よかった、って嬉しいってことでいいのかな、そうだよね、きっとそうだ。
一気に顔に熱がこもる。
今日は三日月。うまく互いの表情が見えないのが幸いです。
こんな顔今は誰にも見られたくないからです。
だから思わず早口でしゃべってしまいました。
彼にばかり話させてばかりで悪いと思ったからなのか、私と仲良くなれて嬉しいって言ってくれたことに嬉しかったからなのか、私はつい自分のことをしゃべっていました。
優しい彼は私の話を聞いてくれた後に言ってくれました。
焦らなくていいと言ってくれました。
ゆっくり変わればいいって言ってくれました。
役者が似合うと言ってくれました。
謝らなくてもいいと言ってくれました。
......綺麗だって、言ってくれました。
こんな私を綺麗だって。私に言ってくれました。
これからも仲良くしてくれるでしょうか。一緒にしゃべってくれるでしょうか。一緒に帰ってくれるでしょうか。
「私の心の支えになってくれる?。」
ついつい口に出してしまいました。さいわい彼は聞き返したおころを見るとうまく聞けていなかったようです。
気づいたら私の住むマンションの前まで来ていました。
残念ながら彼との楽しい時間は終わりのようです。
「ありがとう。私の家ここだから。送ってくれてありがとう。......」
「うん。楽しかったよ。じゃあまた学校でね。」
「ありがとう。ま、また明日。」
そう言って私はマンションに入り、エレベーターに乗り込むと私の部屋のある階の番号を押しました。
扉が閉まるとき、彼がまだ私を見送っていてくれたのが見えました。
次回「エレベーターと瑠璃の部屋で」
更新日4/5(月)の深夜を予定しています。