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意外性と力と住処

 

「ちょっと、本当に大丈夫なの?」


 アルフレッドが去り、痛みを堪えながら刺さっていた短剣を抜き取った後、痛みで殆ど動かせない俺の左手を擦りながら、クソ女神が心配そうに声をかけてくる。

 まさか、コイツが俺の事を心配してくるとはな。てっきり、無様な俺の姿を見て笑い飛ばして来るかと思ったが……やっぱり、かなり頭が緩くて滅茶苦茶ドジで超バカなだけで、悪いやつでは無いのかなぁ。

 だとすると、心の中でとはいえ、ずっとクソ女神って呼び続けるのも悪いような気がする。俺を女に転生させたのも、わざとでは無いみたいだし……仕方無い、別に完全に許すというわけでは無いが、これからはクソ女神って呼ぶのは止めてやるか。

 ちょっと優しくされた位でへたれるなんて、我ながらどうかとは思うけど、仕方無いじゃないか。美少女や美男……美少女から優しくされれば、童貞なら誰だってこうなる。だから、俺は別にチョロい訳では無い。


「まあ、何とか」


 本当は、地べたをのたうち回りたい位の痛みなのだが、俺にも男としての意地があるので、大丈夫な風を装う。最も、涙が溢れて止まらないし、体全体が小刻みに震えているので、装うと言っても効果があるのか疑問だが。

 現に、セレニアは疑いの目を向けてきている。此処は、とっとと話を変えて俺の左手から意識を逸らさせた方が良いな。


「ところで、幾つか聞きたいことがあるんだが、良いか?」

「えっ、ああ、うん。まあ、一応助けてもらったし別に構わないけど」


 許可も出た事だし、滅茶苦茶名残惜しいが、セレニアの手から左手を離し、幾つか気になっていた疑問を投げ掛ける。


「じゃあ、先ずひとつ目。何であれから10年も経った今になって憲兵団とかいう奴等に追われてるんだ?」


 こいつの事だ。転生させるのを失敗した事実を10年も隠し通せる訳が無い。なのに、何故今さら追われているのか。


「ああ、それは簡単よ。此方や地球みたいな下界と天界では時間の流れが違うのよ。此方では10年も経ってるけど、向こうではまだ1日も経ってないわ 」

「へえ、向こうと此方じゃそんなに時間の流れが違うのか」


 10年で1日も経たないとは驚きだ。確かに、それならコイツが10年も経った今になって、追われ出したのは納得できる。しかし、僅か1日にも満たない時間で、コイツの失敗を関知して捕まえに来ようとする天界の憲兵団ってかなり優秀では?

 ……いや、やっぱりコイツを取り逃がしてる時点でそこまで優秀って訳じゃ無いか。


「ん? 何よ人の顔をジロジロ見て」

「何でもない。それより、次の質問だが、この世界には俺以外の転生者は存在するのか? 今まで、それとなく探して来たんだが、見つからなくてな」


 恐らく、今まで神によって転生させられた者はかなりの数が居るだろう。

 しかしこれ迄、多少仲良くなった人達に、それとなく地球に住んでなければ分からないような事を聞いたりしてみたのだが、残念ながら結果は芳しく無く、俺は自分以外の転生者に会ったことが無い。

 もし会えれば、懐かしい地球の話とか、この世界に来てからの苦労話に花を咲かせてみたりしたいのだが……実際の所、今この世界には何れだけ転生者が居るのだろうか。


「いや、居ない筈よ。えっと確か、転生者同士で争いが起こらないように、同じように見えて違う世界、パ、パ、パラソルワールド?」

「パラレルワールドか」

「そう、それ。そのパラルルワールドとか言うところに送ってるって、先生が言ってたわ……多分 」

「パラレルワールドな。つうか、多分って何だよ……」

「う、煩いわね。ちょっと言い間違えただけじゃない!」


 間違いを指摘したら、セレニアは顔を真っ赤にしてソッポを向いた。


 それにしても、パラレルワールドね。

 地球に居た頃の俺だったら、とてもじゃないけど信じられないような話だが、こうして様々な現実とは思えないような体験をしていると、パラレルワールドも実際にあるんじゃ無いかと思えてくる。まあ、コイツの記憶が信用できるかどうかは疑問だが。

 しかし、もし本当にパラレルワールドがあるんなら、今からでも別の世界線に移ったりすることも出来るんだろうか。そうすれば、この何時死んでも可笑しく無いような危険な世界から、平和な世界におさらば出来るのに……ま、普通に考えて無理だろうけどな。それに、お袋一人残して行くわけにも行かないし。


「じゃあ、次。どうやって此処に来たんだ?」

「ああ、それは私の持つ2つの力の内の1つ、"創造"の力で此方に来る為の装置を作ったからよ。因みに、このボイスレコーダーも私の力で作ったものよ」

「へぇ、それは凄い。因みにだが、もう1つは何だ?」

「破壊よ」

「それはまた……なんというか、凄いなという感想しか浮かんでこないな」


 コイツ、ただの無能じゃ無かったのか。

 ていうか、破壊と創造って如何にもラスボスっぽい力だけど、コイツヤバくないか? もしかして、セレニアって滅茶苦茶強いんじゃ……


「ふふん、そうでしょ、そうでしょ。もっと誉めてくれても良いのよ?」


 俺が誉めると、さっきまでの拗ねた態度から一変して、セレニアは鼻息を荒く得意気に胸を張る。ノーブラで胸を張るのは目のやり場に困るから止めて欲しい。


「あー、はいはい。ところで実際にその力を見せて貰うことって出来るのか?」

「簡単なものなら構わないわよ。見てなさい、今から彼処の木箱を破壊してあげるから」


 セレニアは揚々と頷くと、掌を前に突きだし、「--」と、天界で聞いたものと似たような、聞き慣れない言語で何か単語を呟く。

 しかし、10秒、20秒と待ってみても何も起こらない。

 その後も、セレニアは焦ったように何度も何度も、先程のものも含む、複数の単語を叫んで居たのだが、やはり何も起こらなかった。

 一体、どうしたのかとセレニアの方を見ると、セレニアは顔を真っ青にして唇をわなわなと震わせながら、信じられないようなものを見る目で自分の掌を見ていた。


「どうしたんだ?」

「力が使えない……」

「は?」

「私の神としての力が使えなくなってるの」


 最初は聞き間違いかと思ったが、どうやら違うらしい。

 セレニアは、足から力が抜けてしまったのか、その場にペタリと座り込み、目に涙を浮かべながら、すがるような目で俺を見てくる。


「どうしよう、力が使えないと天界に戻れない」

「戻れないって、さっき言ってた装置を使えば……」

「あれ、一方通行なのよ。戻るにはもう一度此方で同じものを作らないといけないの……」


 あー、なるほど。

 力が使えないから此方で装置をもう一度創る事が出来ず、天界に帰る手段が無いという事か。


「つうかお前、下界に降りたら力が使えなくなるって、知らなかったのかよ」

「……………………………あ、そう言われると、何百年も前に授業でハゲがそんな事言ってたような」

「おい」


 俺がジト目で睨み付けると、セレニアは気まずそうにそっと目を逸らす。

 自業自得じゃねぇか。やっぱりバカだろコイツ。


「だって、仕方無いじゃない! あのハゲの授業眠くなるんだもん! だから、私は悪くないわ! あのハゲの眠くなるような声が悪いのよ! だいたい--」


 そして、セレニアは開き直ったのか、さっき迄の落ち込み様は何処かへと消え、勢い良く立ち上がり、猛然と言い訳を言い出し始める。

 何というか、もう呆れて言葉も出ない。左手も痛いし、此れから商業ギルドに行く用事もあるし、うん、帰るか。


「じゃあな、達者で暮らせよ」

「そんな何百年も前の事なんてイチイチ覚えて--って、ちょっと待ちなさいよ!」

「ぐぇっ」


 その場からとっとと去ろうとしたら、勢い良くシャツの襟首を捕まれて引っ張られた。殺す気か。


「こんな薄汚い路地裏にか弱い美少女を置き去りにして、何一人で帰ろうとしてんのよ!」


 か弱いって、どの口が言ってやがんだこの馬鹿力め。俺の方が圧倒的にか弱いだろうが。


「ゴホッ、ゴホッ、ったく。急に襟首を掴むなっての。だいたい、助けろって言われても、家にはお前を養うような金は無いし、お袋にもどう説明すれば良いんだよ。だから、応援だけはしてやるから一人で頑張って生きてくれ」

「いやいやいや、待って、待ってったら!」

「ああもう、腰を掴むな、鬱陶しい!」


 襟首を掴んでいた手を振り払い、再びその場から去ろうとしたら、今度は涙目になりながら、倒れ込むようにして、両腕でガッチリと腰をホールドされた。振りほどこうと、身を捩るがびくともしない。くっ、無駄に力が強いなコイツ。何が、か弱い美少女だよ。只のゴリラじゃねぇか。


「私たち友達でしょ!? 友達が帰る場所無くて困ってるんだから助けてくれたっていいじゃない!」

「俺たちは友達じゃない。だから、助ける必要は無い。と言うわけで、離せ」

「嫌よ! 家に置いてくれるって言うまで離さないわよ!」


 セレニアはそう言うと、更にお腹に回した腕の力を強めてくる。

 ヤバい、これは早急に何とかしないと何か色々と漏れそう。


「ああもう、めんどくせぇ! 今から言う条件を守れば家に置いてやるから一回離せ!」

「本当? 嘘ついたら針一億万本飲ますからね?」

「本当だから、一回離せって。お前、力強すぎて苦しいんだよ!」


 セレニアの力が弱まったところで、腕を振りほどいて脱出。

 大きく深呼吸して肺に名一杯の空気を吸い込む。

 あー、ヤバかった。もう少しで、上から朝食べたパンどころか戻すどころか、下からも色々と漏らすところだった。


「それで、条件って何よ」

「あー……」


 どうしよう、とにかくコイツを引きばかしたい思いが強すぎて、何も考えてなかった。

 この期待に満ちたキラキラした目を見ると、今さらやっぱ無理なんて言ったら殺されそうだし。でも、本当に金無いし、お袋に説明するのも面倒だしなぁ……あ、そうだ。


「ちゃんと、働けば置いてやる事を考えても良いぞ」

「え~」


 露骨に嫌そうな顔しやがったなコイツ。

 だが、これだけは俺も譲れない。只でさえ家の財政は火の車なのだ。せめて自分で食べる分は自分で稼いで貰わないと。

 お袋の説得に関しては……まぁ、仕方無いから俺が頑張るけど、家に置く以上は此だけは絶対にしてもらう。


「自分の食べる分くらい自分で稼げよ」

「いや、だって私って今まで働いた事なんて無いし。それに、神であるこの私が人間達に混じって働くってのは、ちょっとねぇ。この世界に私がやるのにふさわしい仕事があるとも思えないし。だいたい、天上の世界の住人であるこの私が働くのが間違ってるっていうか--」


 コイツ、人が折角譲歩してやったのに、仕事もしないで部屋でゲームばかりやってるヒキニートみたいな言い訳まで始めやがった。そんなに働くのが嫌か。

 そうか、そうなのか。よし、置いてこう。


「じゃあな」

「待って待ってったら、ちゃんと働くから置いてかないでよぉっ!」

「ハァ、最初からそう言えよ」


 俺が背を向けると、またもや目に涙を浮かべながら腰へと抱きついてくる。今度は、先程のように全力で抱きついて来るわけでは無く、ちゃんと力を加減している為か、そこまで苦しくは無い。

 こういう配慮が出来るなら、最初からしてくれよ。


「一応、仕事を探すのは手伝ってやるし、1週間はタダで置いてやるからその間にちゃんと仕事を探せよ」

「……うん。努力するわ」


 俺の言葉にセレニアは目を逸らしながら小さく頷く。

 その姿を見て、俺は前途多難な未来しか想像できず、重い溜め息を吐いた。


 ハァ、選択誤ったかなぁ……







 


















 

今更ですが、執筆の進歩状況が気になる方は、マイページの方に何処まで進んでるか簡単に書いてあるので、そちらを御覧ください。

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