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帰国子女とお兄様

…どうしよう、動悸が治まらない。

隣の人に聞こえてしまうのではないかと思うぐらい、大きな音を立てながら心臓が脈打つ。

動悸の原因はわかりきってる。

_華音だ。





華音の試合を見ての感想は『戦慄』の一言に尽きる。

相手(田原)に何を言われたのかは知らないが、絶対零度の笑みを浮かべて相手(田原)を爪先からじわじわと凍らせていく華音は、この世の者とは思えなかった。

いつもの華音が『童話のお姫様』だとすれば、今の華音は『魔王陛下(ブラック華音様)』である。

…温厚な華音をここまで怒らせるって田原は一体何をやらかしたのだろう。




「美月!私の試合は見ましたか?」

「あ、あぁもちろん見ていたよ。1回戦突破おめでとう、華音。」

「ありがとうございます。」

頬をほんのりと赤らめ嬉しそうに笑う華音はまるで、天使か何かの様に愛らしく美しかった。

つい先刻さっき対戦相手を嗜虐的サディスティックな微笑みを浮かべながら凍らせていた魔王とは同一人物とは思えない。

あれ(・・)は悪い夢を見たとでも思おう。

そう心に決めた。









それからの私と華音は、破竹の勢いで第1学年トーナメントを駆け上っていった。

私は対戦相手を開始3秒で氷像にする事に専念し、華音は持ち前の膨大な魔力で次々と相手をひれ伏していった。

…この3日間で学んだ事のうち一番大切だと思うのは『華音を怒らせない』という事である。

私から見た華音はとても温厚で優しいのだが、どこかに逆鱗がある様で、逆鱗そこに触れた愚か者共は例外なく魔王陛下(ブラック華音様)の制裁を食らっていた。

一体何が逆鱗なのかは皆目見当もつかないが。






そして第1学年Cブロック代表に決まった私は、同じくAブロック代表に決まった華音と共に職員室へ向かっていた。

何でも本選についての説明と対戦相手の発表があるらしい。

「予選突破おめでとうございます。」

「ありがとう、華音も予選突破おめでとう。」

西日の差す渡り廊下を渡りながら、職員室へ向かう。

BブロックとDブロックの代表は誰だろう。

多分、筆記試験学年1位の奴と…もう1人は想像がつかないな。

思案に耽る暇もなく職員室の扉が開く。



「失礼します、1のA鈴原美月です。」

「失礼します、同じく八田華音です。」

職員室に足を踏み入れると、いつもは応接セットがある場所にホワイトボードと長机、パイプ椅子が並んでいた。

どうやら私達が一番乗りのようだ。



ホワイトボードに貼られた表に従って、一番前の長机に座る。

「他のブロック代表は誰方なのでしょうね。」

つい先刻さっき自身で考えた事と同じ質問を受けて、再び思考に耽る。

「2、3年は生徒会+αなんだろうけど、1年は予想がつかないな…」

そうして華音とたわいもない話をしながら、他のブロック代表者が来るのを待った。



少しするとぼちぼちと他のブロック代表者がやって来た。

その中にはもちろんチートを含む、全生徒会役員が入っていた。

…戦闘能力ゼロの頭でっかち集団だったら良かったのに。



「全員揃いましたか?」

規定の時間になったので、小宮先生がやって来て出欠を取り始めた。

「第3学年、揃いました。」

「第2学年、揃いました。」

「第1学年…Dブロック以外揃いました。」

私の左隣の席だけぽっかりと空いていて、とても目立つ。

Dブロック代表者は一体何をしているのだろうか。

もうとっくに試合は終わっている筈なのだが。


ちなみに規定の時間内に職員室へ来なかったブロック代表者は自動的に棄権リタイア扱いになるらしい。

Dブロック代表者とは一体どこの馬鹿なのだろう。

「…規定の時間となりましたので、Dブロック代表者は棄権リタイアとしま」

「失礼しますっ‼︎」

小宮先生の声を掻き消す様なバゴンッという凄まじい音と共に、人影が飛び込んで来る。

…衝撃で職員室の扉が外れて、通りがかった教頭先生に向かって倒れていく所など私は見ていない。

ひとまず教頭先生と吹っ飛ばされた教頭先生のズラには、深い哀悼の意を表しておく。



飛び込んできた人影は爽やかな笑顔で堂々と言い放った。

「1のA、速瀬京也はやせきょうやです!道に迷って遅れました‼︎」

先刻さっき浮かんだ疑問_Dブロック代表者とは一体どこの馬鹿なのだろう_に対する解答が今出た。

私の隣の席の速瀬(馬鹿)だった。

入学して1ヶ月は経っているのだが、どこで迷ったのだろうか。

とても気になる。




その速瀬(馬鹿)は今、私の左隣(Dブロック代表者)の席に座っている。

…パイプ椅子の上に正座で。

小宮先生の雷と鉄拳をたっぷり食らった上に、正座をさせられている速瀬にちょっとだけ同情する。

黙祷を捧げておこう。


紆余曲折を経て、ようやく本選についての説明が始まった。

予選の会場は1年が武道場で2年が第2体育館、3年が第1体育館だったが、本選は違う。

本選は校庭に作られた簡易円形闘技場コロッセオで行われる。

そう狭くはない校庭を占拠する円形競技場コロッセオには客席も備えてあり、本選に出場しない者はほぼ見学に来るそうだ。


そして本選での対戦相手の発表だ。

もちろん例によって、各々の得点ポイントによって決まる。

「今回のトーナメント表はこうなりました。」

小宮先生がホワイトボードに貼った模造紙に視線が集中する。

私の名前は…あぁ一番左端にある。

その隣には1年尾崎慎夜おざきしんやの文字。

私の1回戦の対戦相手は彼のようだ。

そのまま視線を右に滑らしていくと、1年八田華音、2年八田怜央やたレオと並んで書いてあった。

「…華音、もしかして」

「えぇ、お兄様とですわ…」

Bブロック代表者を挟み、小声で尋ねると若干苦笑しつつ華音が頷いた。

…まさかの1回戦から兄妹対決とは。

我が兄、鈴原涼(チート野郎)は同じく3年の鏑木柘榴かぶらぎざくろ先輩と当たったようだ。

ちなみに早瀬の相手は、生徒会に入っていない3年のガリ勉という言葉がしっくりくるような先輩だ。

脳筋vs.ガリ勉か…、見てみたいな。


ボケーっとしていた私の眼前に右隣からスッと手が差し出される。

視線を向けると彼は鋭い瞳でこちらを見ていた。

「…お前が鈴原美月だろ?」

「あぁ、そうだけど?」

いきなり何だ、ビックリしたわ。

「僕は尾崎慎夜、お前の1回戦の相手だ。よろしく。」

「…よろしく。」

戸惑いつつも握手を交わす。

…そういえば、学年1位の奴は帰国子女だって聞いたけど、こいつの事か。

日本人で対戦相手に握手しに行く人は少数派マイノリティであろう。

自分より大きく筋張った手を握りしめて離す。

「それじゃあお互い頑張ろうね、尾崎くん。」

そう言って微笑むと真顔のまま正面を向かれてしまった。

自分から話し掛けといて、ずいぶんな対応だな。

マイペースな対戦相手である。




対戦相手の発表が終わったので解散となった今、私は来た時と同じ様に華音と2人で、今度は寮へと向かっていた。

私の部屋と華音の部屋は隣だったりする。

「美月のお相手の…尾崎さん?ってどんな方でした?」

「マイペースな帰国子女…かな。帰国子女って事は英語出来るだろうから、多分精霊魔法では勝てないな。」

「どんな魔法かにもよりますわね。」

私と契約している精霊の魔法は戦闘向きではないので、尾崎の精霊魔法も戦闘向きでないことを祈る。

「八田先輩が得意な魔法は?」

「お兄様は私と同じく理系で、特に数学が得意ですわね。」

「って事は氷か…」

同じ属性同士だともはや純然たる魔力量で決まってしまうから、1年の華音には不利だ。

「しかも、お兄様は幼い頃から護身術も嗜んでいるので、肉弾戦はもちろん無理ですわ。」

…二重苦だ。

「私に出来ることは策を弄して、お兄様の隙を作ることですわ。」

圧倒的に不利な中でも決して諦めない華音はとても美しい。

…私と違って。

話している間に寮の自室へと着いた。

「…じゃあ、おやすみ華音。」

「おやすみなさい、美月」

にっこり微笑んで華音と別れた。



明日の本選からが本番だ。

設定補足


個人の5教科に関する知識量=個人の総魔力量

国語科に関する知識量=火魔法に使用できる魔力量

数学科に関する知識量=水魔法に使用できる魔力量

理科に関する知識量=風魔法に使用できる魔力量

社会科に関する知識量=土魔法に使用できる魔力量

英語科に関する知識量=精霊魔法に使用できる魔力量


精霊魔法=自身と契約してる精霊の固有魔法

精霊は火・水・風・土の属性魔法が使えない代わりに、各々の固有魔法を有している


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