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決勝戦

「――ハァ、レノ……先程の試合、変だぞ」

「ああ、一応、降参も勧めたぞ?」

「いや、そういう事ではなくてだな、衝撃の判定が」

「付け忘れたか、もしくは僕の攻撃が弱かったってことだ」


 試合会場から下がったレノをティアが待ち受けていた。

 貴賓席から走ってきたのだろう、多少息が荒い。いや不服があったから既に学院側に詰め寄ってそうだとレノは思った。

 怒りが今にも爆発しそうなティアの様子に淡々と答えるレノ。

 先程の事で二度と同じような方法を取る選手は居なくなるだろうから問題ないと割り切っていた。


「だがな、あれでは卑怯ではないかっ」

「それでも試合は続行された、でしょ」

「そうだ……」


 詰め寄るティアはどこまでも真っ直ぐで、そして気高い、が、世の中はそんなに綺麗事だけで回らないとレノは取り合わない。だから自分で対策を既に打ったのだ。


「そして僕が勝った、問題はないさ――もう起こらないよ、恐らくだけどね」

「だが、これは確りと抗議すべきではないのか」

「無駄な事に労力を割いても仕方がないよ」

「そうか、まあレノがそれでいいならば……しかし、見事だったな、素晴らしかったぞ」

「有難う、まあ、これでもティアの師匠の面子があるからね」

「フフ、ウフフフ」


 そしてティアはレノの一言で妄想の世界へと飛び立った。

 レノとしても気高いティアの精神は美しいとは思っても、喚いているのを聞くよりも讃えてくれて、こうして笑顔のティアを見る方が好ましいのだ。


 それに、実際に2年近く訓練をつけてきたのだから先程の言葉にも嘘は無い。それが孤児院で行われた訓練と“夜”の実践での両方の意味であってもだ。


 その後2度の試合を経てレノは決勝へと勝ち進む。

 勿論、一回戦の戦いの結果を知った為か、衝撃の判定は間違いなく作動していた為に楽な試合となったのだが――

 結局、一回戦の事は処置不良という結論が発表されるに止まった。


 そして、昼食を挟み、最後の二名に十二分な休息が設けられ、最後の決勝戦が始まろうとしていた。




 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆




 貴賓席の王妃が席に戻らなかった為に少々の遅れが生じたが、それまでは観客席にいたティアも決勝になり貴賓席へと移ったのが原因だった。娘の婚約者候補について根掘り葉掘りと聞かれたティアは顔を赤くしながら王妃の隣で借りてきた猫よりも大人しく座っていた。


 そして、何も問題は無く決勝戦は開始された。


「フッ、一回戦でクラウス如きに苦戦しているから対戦は出来ぬと思っていたのにな、存外やれるようで安心したぞ」


 ――ふむ、なるほど、知らぬは息子ばかりなりって事か。


 決勝の試合が始まり互いに剣を交しながらヴィンツェンツが話すのを聞いてレノはそう判断し、そして事実だった。彼は何も知らないままにこの場に上がって来ただけだった。


 だから、鎧の事も知らないのだなとレノは確信をし、流石に報復をするのは抑えた。


「王女殿下が手放しに褒めるからどれ程の腕前かと思えば、所詮は副団長より少しやる程度か、拍子抜けだな」

「……」

「そもそもだ、王位継承権を持つ者の行動としては王女殿下は少々軽率だ、貴様如きに入れ込むなど――」


 攻めながら持論を展開するヴィンツェンツ、兎に角全て吐き出させようと、レノは敢えて剣で攻撃を防ぎ、喋らせ続ける。


「故に貴様は邪魔なのだよ、私こそがあの子の夫に相応しく、傍に寄り添う資格がある、そう、この高貴なる血統をもつ私こそがね」


 だが聞けば聞くほどに気持ち悪い男の演説であり、聞くに堪えない。ついつい本気の一撃を放り込みたくなるのをレノは必死に我慢していた。


「そもそも平民如きが王女へ近づくなどあってはならない事だ、それこそ昔、叔母上に恋慕したという国賊の末路のよう――グッ」


 そして、その我慢は限界を迎えた。いや無意識に一撃を腕へと叩き込んでいた。


「さて、ソロソロ言いたい事は全部喋りましたか?」

「なんだと、貴様――」

「本当に哀れだ、貴方の父親は貴方を勝たせる為だけに色々とやったと言うのにね」

「何?」

「いえ、別に大した事じゃあないですよ、とりあえず苦戦したように見せかけないと――騎士より僕は孤児院を継ぎたいから困るだけですよ」

「貴様騎士を愚弄するのかっ」

「いえ、騎士を愚弄してるんじゃない、愚かな貴方を侮辱しただけですよヴィンツェンツ・ルービン・ベルツ、そうベルツ上級侯爵家の傲慢さをね? だからもうお終いですよ。貴方は私に奮戦した、本当は負けても良いかもと思ってました、が、考えを改めました」

「高が一撃を与えたぐらいで――」


 少し距離を取りそこから鋭い突きを放つヴィンツェンツ。

 ヴィンツェンツの為にフルオーダーされた特注の甲冑。付与術式もこの最高の一撃を放つ為に組み込まれた特別の術式を刻み、最大限に速度を生かした正騎士をも凌ぐ突きが放たれた。


 そしてその攻撃をレノは正面から迎え撃った。


 昼休みを過ぎた時――

 レノの甲冑は細工が施されていたのだ、その時点では犯人は不明、だがこれまでの出来事から考えるにそんな事をするのはある程度限られている。最初はヴィンツェンツも疑ったが、一応生徒に聞いて回った結果其処まではまだ腐ってないとレノは思った。


 だから最初は様子を見ていた。

 敢えて同じ形式の訓練用の甲冑を手に入れて、誰が驚愕するのかを見る為にである。

 その為に、観覧席のかぶりつきで見ると言って聞かないティアにお願いまでして時間稼ぎを頼んだのだ。勿論、甲冑の事を話したら二つ返事で了承したのだが、結果はあの通りになっていた。後日のフォローに少々頭が痛くなったレノと、こうなればいっその事紹介してしまえと考えるティアの思惑が交差していたのだが、この時の二人は互いにそんな事を考えていたなんて知らない。


 だが、目的は達せられた……長時間の試合、なぜか決着が付かない事に変化を示したのはヘルムートだった。そして先程の腕への一撃で背後の部下を叱り付けていた。犯人が確定した瞬間である。


 そしてソレをレノは見逃すはずが無かった。だからもうお終いだったのだ。


 剣を合わせる事すら腹立たしいかった。

 だからこそ――

 最大に威力のあると“()()()()()”突きを放たせた。

 そしてその一撃の威力を活かしたカウンターを剣ではなく、拳で放った。

 己の父を侮辱した罪を贖わせる為に。

 でないと、練習の剣とは言えど、殺す可能性があったからだ。


 だからヴィンツェンツが吹き飛んだのも、一撃で意識を失ったのも、手加減の結果であり。

 そして、騎士として自分が戦ったのでは無いと示す為の一撃でもあった。


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