天下の大泥棒は本当に捕まったのだろうか?
「なぁ加賀。
石川五右衛門は釜茹でにされたと伝えられているが、
あれ本当なのか?」
「富山さん。
そんなの、俺が知るわけないじゃないっすか」
「何言ってる。お前の刑事の勘はどうだと聞いているんだ」
「刑事の勘なんて言っても、捜査課に配属されて、まだ二年のぺぇぺぇですよ」
「まぁそれもそうだな。俺はな……、
本当は捕まってないんじゃないか。
そう思うんだ」
「まさか。今も生きて、盗賊やってるとか?」
「さすがにそれはないだろう。あれは豊臣の時代だ」
「もうそろそろ、サウナ出ないっすか?」
「いいぞ。出ろ。フルーツ牛乳。お前の奢りだぞ」
「いいっすよ。もうこのままだと、やばい……」
(ばた)
加賀は、その場に倒れた。
「おい。おい。加賀大丈夫か」
富山が顔を叩いても、返事がない。
富山はサウナの扉を開ける。
冷気がサウナに入り込む。
「おい。おい。誰かいないか。人が倒れた。救急車を呼んでくれ」
従業員が駆けつけてくる。
「救急車だ。あとタオルと水。経口補水液も頼む」
従業員は他の従業員に叫ぶ。
(うぅーん)
五分ほどして、救急隊が駆けつける。
「この方のお名前は?」
救急隊員は聞いた。
「加賀秀樹。捜査課の刑事。俺の同僚です」
「加賀さん。加賀秀樹さん。声が聞こえますか?」
返事はない。
「このまま救急搬送します。あの、ついてきてもらえますか」
「はい」
富山は、腰にバスタオルを巻いたままの状態でついて行こうとする。
救急隊員の視線が止まる。
「あの……、それだと、わいせつ物陳列罪とかで捕まりませんか」
富山は自らの姿に気が付く。
(ごほん)
と咳ばらいをし、
「公然わいせつ罪ですね。公然わいせつ罪の容疑で逮捕・有罪になるには、公然とわいせつな行為をすることに対する故意が必要です。
本官の場合、同僚が重篤な状態であるため、我を忘れてのことですから、過失となるでしょう。
もっとも救急隊員殿にご指摘を受けましたから、それを押し通して……」
話が長く続くと思ったのであろうか、
救急隊員は話を切った。
「では、急いで着替えて、ついてきてください」
「彼の荷物を持っていくので、その鍵を」
救急隊員は、足につけられた鍵を外し、富山に渡した。
「従業員さん。荷物を回収しますので、ご同行願います」
富山は言った。
従業員は頷く。
脱衣所につく。
富山は汗も拭かずに、
服を着て荷物をまとめる。
「これが彼の荷物です。開けます」
従業員は頷く。
「これが荷物です。念のため写真を撮ってください」
そう言うと従業員は急ぎ写真を撮った。
「財布の中身です」
富山は財布の中身を取り出し、
写真を撮らせる。
「これ私の名刺。刑事の富山です。彼は同僚の加賀。おなじ捜査課のものです。一応物取りとかの疑念がかかる、そういうケースもあるので、その写真は保管しておいてください」
「刑事さん。急いでください」
「はい。すみません」
富山は、従業員にゴミ袋をもらい、そこに服をまとめて入れて、走っていった。
救急車の中。
「おい搬送先はまだ決まらないのか?」
「すみません。まだ確認中です」
救急隊員の顔に焦りがあった。
「加賀の奴。大丈夫なんでしょうか?」
「わかりません。できる限りの事はします。ご家族に連絡は取れますか?」
「あぁやってみます」
富山は加賀の荷物からスマホを取り出す。
「すみません。
ロックがかかってて、連絡が取れませんね。
母親が健在なのですが……」
「刑事さんでしたよね。ではのちほど家族の方に連絡を取って貰えますか?」
「はい。署に連絡を入れておきます」
そう富山は言い、
署に電話をかけた。
「受け入れ先決まりました」
「じゃあ向かってくれ」
救急車は急ぎ病院に向かう。
(ぷーぷーぷー)
心電図の音が飛ぶ。
「大変だ……」
救急隊員は叫んでいた。
それから数時間後……
「うん。ここは……」
「おい。加賀大丈夫か!」
「誰だ。お主は?」
「誰って。同僚の富山だよ。お前はな、さっきサウナで倒れたんだ。一瞬あの世に行きかけたんだぞ」
「ワシは加賀という者ではござらん。拙者は石川と申す」
「何を言ってる。加賀秀樹。捜査課の刑事。俺の同僚だよ」
「いや。ワシは石川じゃ」
「おい加賀。サウナでのぼせて、おかしくなったか?
拙者とか石川とか、まるで石川五右衛門みたいじゃねぇか。
そんな冗談が言えるのなら、もう大丈夫そうだな」
「お主。なぜワシの名を知っておる?」
「そりゃ知ってるさ。だってお前とは二年の付き合いだ。加賀秀樹」
「だから違う。加賀秀樹ではござらん。ワシは石川五右衛門だ」
「石川五右衛門?
お前な。
冗談の度が過ぎてるぞ。
刑事のお前が何で泥棒の振りをする」
「なぜワシが泥棒だと知っておる。まさかお主がワシ達をお上に売ったのか?」
富山は、
じっと加賀の瞳を見た。
先ほどまで、
冗談に思っていたが……、
加賀の瞳を見ると、
嘘をついている者のものとは、
考えにくかった。
「ちょっと待ってくれ。すぐに戻る」
富山はそう言い、
病室から出て行った。
……
いったいココはどこなんだ。
ワシは考えた。
記憶が曖昧だ。
たしか……、
秀吉に捕まえられて……
ワシは何で捕まった?
先ほどの男がワシを売ったのか?
いや違うな。
ワシを加賀なにがしと言っておったな。
どういう事だ、
それにこの部屋。
ワシの着物は?
配下の者達は……、
まったくわからん。
……
加賀の野郎。
あいつは何を言っているんだ。
頭を打って、記憶がおかしくなっているのか。
それとも、本当に石川五右衛門なのか。
いやいや。
それはない。
しかし……、
嘘をついているようにも見えない。
少し鎌をかけてみよう。
俺は病室に戻る。
「おい加賀。
お袋さんが倒れたそうだ」
我ながら、ひどい揺さぶりだ。
しかし加賀は実は母親思い。
動揺するに違いない。
「だからワシは石川だ。それにワシに母親などおらん」
嘘をついているようには、
思えないな。
こいつが仮に石川五右衛門本人だった場合どうなる。
というか。
加賀はどこに行った?
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