第39話ー二人の苦手なもの
「顔色も良くない」
ノクティスはロワナにそう言うと、視線を下に向けた。
「この矢を視界から消せ」
ノクティスの言葉にライネルはすぐに動き、ロワナの足元にあった矢を藪に投げた。ロワナがぽかんとしてライネルを見ると、ライネルは少しだけ微笑んだ。
「あとで回収するので大丈夫ですよ。それにしても、皇女殿下も閣下と同じで弓矢が苦手なのですね」
「おい」
ノクティスがライネルに黙れと言うように口を開いたが、ロワナは聞こえない振りをしてライネルに詰め寄った。
「え?ノクスも?」
口数の多くないライネルだが、ノクティスの事となると饒舌になる。
「はい。閣下も私と出会ってすぐの頃、弓矢が苦手だとおっしゃっていました。それはもう視界にも入れれぬ程」
「そうなの‥‥」
それは自分と同じ理由だろうか。ちらりとノクティスを見ると、ライネルを親の敵ほど睨んでいる。ライネルは流石に視線を感じてフォローにまわる。
「ですが昔の事です。今は閣下の弓引きの実力は帝国内でも右に出る者はいないでしょう」
「まぁ‥!それはすごいわ」
ロワナは心から賛辞を送った。
「もう行け」
ノクティスはライネルを蹴飛ばす勢いで追っ払った。ライネルはそそくさと捕らえた男たちの方へ向かう。
「いつの間にそんなに弓の腕を上げていたの?」
ロワナが聞くと、ノクティスはバツが悪そうに視線をずらして答えた。
「同じ事が起こることはありえませんが、弓を極めた方が弓の襲撃に対処できるかと思いまして」
(私の元護衛騎士は出来ないことはないのかしら)
ノクティスはロワナの震える手を優しく包む。もう弓矢を見ても、以前ほどの震えが来ることはなさそうだ。
ノクティスはロワナを抱き上げ、アッシャーの鞍に乗せると、自身もひらりと後ろに跨った。
「ライネル。後は任せるぞ」
ノクティスが言うと、ライネルは返事の代わりに会釈した。
「どうしてこんなに早くカスティヤに来れたの?」
ノクティスは西部にいたはずだ。早くてもあと三日はかかるだろうと思っていた。
「西部にいる皇太子殿下と合流したのですが、紛争の原因が西部の民族ではなく、ガルシアの手の者が起こした騒動だったのです。捕らえて尋問した所、各所で混乱を起こしていたので‥‥目的が別にあると思い、カスティヤに向かいました」
「それだけでカスティヤに?」
「ええ。回帰前もガルシアが最初に狙ったのはカスティヤでしたから」
「じゃあ、前にカスティヤで広がった疫病とスタンピードの原因はガルシアだったの?」
ロワナが問うと、ノクティスは困ったように言った。
「あ‥‥すみません。貴方の亡くなった後の詳細は牢にいたので分からず‥‥」
そこまで言うと、ノクティスは唐突に口を噤んだ。
「‥‥牢に?」
ロワナは振り向いた。すぐ近くにノクティスの顔があり、咄嗟のことにノクティスの頬が少し赤くなる。しかしロワナはその甘い雰囲気を吹き飛ばすように低い声で言った。
「ノクティス。私が死んだ後、何をしたの」
ロワナの問いにノクティスは視線を逸らす。
「ノクティス」
ロワナの圧に耐えられず、結局は口を開いた。
「姫が倒れた後、私は、‥‥少々暴れてしまいまして、それから数年間、牢で暮らしました」
「数年間ですって?暴れただけでそんな事にはならないでしょう!」
「あー‥‥暴れた後、皇太子殿下の暗殺を試みて失敗しまして」
ロワナは絶句した。開いた口が塞がらない。
「お兄様に、歯向かったの‥‥?」
ロワナは今まで前世の話をしてこなかった事を後悔した。
(数年‥‥牢に入れられていたなんて)
「その後は、どうなったの?」
今まで怖くて聞けなかった。ノクティスも、自分と同じように死に戻ったのだろうか。‥‥‥自分が原因で?
ノクティスはロワナになんと説明するか迷っているようだった。普段ポーカーフェイスなノクティスだが、この時ばかりは表情を取り繕えていない。ロワナに言えない事があるようだが、ロワナはノクティスを低い声で呼んだ。
「ノクス」
「‥‥‥その後は、何年後か覚えおりませんが回帰しました。詳細は‥‥私の一存だけでは答えられません」
ロワナはぎょっとした。
「どういうこと?私たちの他に回帰した人がいるの
?」
「いいえ。私が知る限り、私と姫だけでしょう。ですが、まだ答えられません」
最後には申し訳なさそうに困り眉になっている。ノクティスのそんな表情は余り見ることがなく、これ以上強く言うのは憚られた。
仕方なくロワナは諦めて、ぷいっと前を向いた。
「もうっ!これ以上聞かないからいいわ!自分で調べます」
「申し訳ありません」
「それはそれとして、私が死んだからって無謀な事はしないでちょうだい」
ロワナは半眼でノクティスを睨んだ。思い切り睨んだのに、ノクティスは睨むロワナを見て破顔した。
「ふふっ。姫、そんなに可愛‥‥いえ、怖い顔してもそれは約束出来ません」
「な、何ですって」
ロワナは狼狽えた。
(かわ‥‥?!私は真剣に言ってるのに!)
心外である。
「あなたね‥‥!」
「ロワナ!」
ロワナは声の方向に振り向いた。少し先でアリアナがヴァルグレイスの騎士に抱えられて手を降っている。
「姉さま!」
ロワナはノクティスが止める間もなくアッシャーから飛び降りて、アリアナを抱きしめた。
読んでいただきありがとうございます。
間が空いてしまい申し訳ないです。
構想は立てているのですが、少し不定期の更新になります。
39話をお待たせすることになってしまいます。申し訳ありません。
ブクマ、いいね、コメント等、励みになっております。
いつもありがとうございます!




