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幸せな10年でしたが、なかったことに致します。〜だから私に関わらないでください〜【第二章スタート】  作者: 織子
第二章

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第38話ー窮地②


「ははっ!その様子だとターゲットはこの女で合ってるな」


そのまま男はアリアナを運んだ男達に視線を移すと、低い声で言った。

「何してる。さっさと王太子妃を運べ。すぐそこに援軍が来ている」


二人の男は震えながら言った。

「し、しかしその女は王太子妃なのだろう?俺たちは聞いてないぞ」

「今さら手を引くことなど出来ないのが分からないのか?さっさと行け」


二人の男はアリアナを台車へ乗せた。

この庭師を装った二人以外は、言葉のイントネーションに独特な訛りがある。ガルシア特有のものだ。


(ここで逃がしたらお姉様はガルシアに連れて行かれてしまう)

カスティヤとガルシアでは軍事力も雲泥の差がある。連れて行かれては、簡単に取り戻すことは出来ないだろう。


「私がこの男の注意を逸らせるので、ネルサンはお姉様を追ってください」

ロワナは小声でネルサンに言った。


「しかし‥‥殿下一人でこの数は‥」

ネルサンが苦渋を示す。

「私が動いたら、ライネルも私と共闘します。彼はヴァルグレイス随一の実力者です。だから行って」


本当はライネルにアリアナを追ってほしい。でもライネルはアリアナとロワナならば、ロワナを優先するだろう。


ロワナは剣先の向きを少し動かした。


「無駄だ。やめておけ。こちらに何人潜んでいると思っている」


男が口を開くと同時に、ロワナは地を蹴った。一足飛びでは届かない。身体を少し捻って勢いそのままに剣先を振り下ろす。


「なにっ?」

剣先は男の腕を少し掠めただけだったが、男は動揺をしている。ロワナがここまで動けるとは思っていなかったようだ。

アリアナを追ったネルサンを視界の端で抑えて、ロワナは更に剣を振った。慌てて出て来た男の仲間は三人。ライネルが素早く短刀を投げ、深々と男達の胸に当てていた。


ライネルは他に出て来ない事を視認すると、すぐにロワナと対峙している男に飛びかかった。男の実力は高く、ライネルも一撃で倒せない。ロワナは男をライネルに任せ、アリアナを追った。



台車の轍を追って走っていると、先のから剣戟が聞こえた。

(ネルサンが戦ってるの?)

援軍とやらと合流したのだろうか?片腕に矢傷を負ったネルサンは複数の敵とは戦えない。


(姉さま‥‥!ネルサン!)

懸命に足を動かすと、前から馬が駆けて来た。

一人こちらに来ている。身を隠す時間もなかった。ロワナは剣を構えた。


(一人ならなんとかなる!馬に乗っていようと‥‥!)


ロワナは馬の足を狙って体勢を低くした。――が、馬上にいる人物を認めると、ロワナは剣を落としてふらりと立ち上がった。


「――姫!」 

見間違えることのない、赤銅色の瞳がロワナを見て揺れる。


「ノクス‥‥!ね、姉さまが」


ノクティスは素早く馬から降りてロワナを抱きしめた。

「アリアナ殿下は無事です。先程保護しました」 


ノクティスはロワナを抱きしめた腕の力を少し緩める。

「しかし何故一人でここに?ライネルはどうしました?」


ロワナはハッとし、ノクティスの胸に顔を埋めたまま顔を上げた。

「ライネル卿はまだ戦ってるの!すぐ戻らないと」


ノクティスは自分の腕の中にあるロワナの顔を眺めている。何も言わないノクティスに、ロワナも狼狽え始めた。

(ち、近い。近いしライネルが‥‥‥)


真顔で見つめていたノクティスがため息を吐いた。

「――はぁ。ライネルなら大丈夫でしょうが、とりあえず戻りましょう」




ロワナとノクティスが戻ると、ライネルは男達を縄で縛っている最中だった。

「ライネル」


ノクティスが声をかけると、ライネルはびくりと跳ねた。


「‥‥‥閣下。お早いお着きで」

「ああ。そうだな。私が早く着いていなければ、この事態は収拾していなかったように見えるが、どうなんだ」


ライネルのいつもの無表情が、こころなしか青白い。「森の奥から、アッシャーの蹄の音が聴こえましたので、あちらは閣下におまかせしようかと‥‥」


アッシャーはノクティスの愛馬の名前だ。

(そういえば、ライネル卿はハーフエルフだったわね‥‥なんだ。ノクスが来たのが分かっていたの‥‥)


エルフは森の民と言われている。ハーフエルフのライネルも、人族には分からない音を認知出来るのかもしれない。


「ふむ。まぁそういうことならいいだろう」

ノクティスはロワナを見て眉を顰めた。


「とりあえずアリアナ殿下と一緒に城へ入りましょう。姫も休んだ方が良い」

「えっ‥‥私は」

疲れてない。と言おうとした時、ノクティスがそっと手に触れた。触れられて初めて、ロワナは自分の手が震えているのに気づいた。





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